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孤島の王 (2010年) 人は誰でも王になれる

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 1900年から1970年までノルウェーの孤島“バストイ”に実在した少年矯正施設を舞台に、矯正という名の非人道的な虐待の実態と、極限の状況下で繰り広げられる少年たちの心の葛藤、そして脱走計画の顛末を、力強い映像でサスペンスフルに描く―。 (allcinema)

極寒の孤島、1915年に実際に起こったという命懸けの反乱と脱走は、観客をも凍えさせて、ドキドキと息をつかせなかった。
“バストイ”に新たに送られてきた札付きの悪エーリングは、その日からC-19と呼ばれる。室長としてエーリングをサポートするのは、出所目前の優等生オーラヴ/C-1だ。ふたりの間には徐々に友情とよべるものが芽生えていくのだが....。

エーリングは島に来てすぐ当たり前に脱出を考えている。暴力と罰を恐れてすっかり飼い慣らされた施設の面々とは、一線を画す強靭さ。とばっちりを恐れるオーラヴは、自分が出所するまで決行を待つよう頼むのだが.....かくも男の友情はあっさり裏切ってしまえるドライさが魅力なわけで、エーリングもまたさっさと脱走を成功させて孤島に大波乱を巻き起こすのだった。
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物語は、逃げたエーリングが捕えられ、再び島に戻されてから際立つ。少年たちは彼のガッツに触発される形で、体制に反発しはじめ、最悪の結果へとひた走っていく。
理不尽な暴力にも過度な罰則にも立ち向かう、エーリングという反骨分子が投入された孤島の集団は、数では優に勝る勢いで、院長以下非人道的な寮長らをじわじわと追い詰めていくのだった。

おもしろいのは、はじめから無骨で問題児のエーリングが、生来誠実な男であると分かりはじめることと、同時に、優等生オーラヴが、恵まれない家庭環境で育った底知れない闇と、良心に裏打ちされた怒りを発露する件かもしれない。
オーラヴがどうしても許せなかったのは、寮長ブローテンによる新入りC5への性的虐待の事実だった。エーリングとの出会いで、無事島を出て行くことしか考えられなくなっていた自分の卑怯さに気づくオーラヴだったが、意を決しての告発は、院長に脅され握りつぶされてしまう....ここから彼の理性は一気に揺らぎ、鬼気迫る報復の化身となっていく。

“バストイ”にいる彼らはもちろん理由あってここにいる、この反乱はたしかに行き過ぎなのかもしれない。
それでも、投入された軍隊の追っ手を振り切って、ゆいいつ島から逃れたエーリングとオーラヴが迎える悲劇的な結末だけは、苦しくて助けてあげたくて仕方がなかった。
これが南国の出来事ならまたちがう。逃げる=死と直結した大地、ノルウェーの孤島という極地で起こっていることに意味がある。
たとえばアキ・カウリスマキ作品はだいすきだけれど、主人公たちの、なにも持たない着の身着のままの人生が素晴らしくおもえるのは、やはり極寒の地にあってこそ。うららかな南国で身一つなのとは大いにちがう。北国の映画が好きなワケはそんなところにもある。

身も凍る寒さと凛とした美しさのなかで繰り広げられる暴動の顛末は、たしかなカタルシス。エンディングには当時の“バストイ”を撮影したモノクロフィルムがながれる。事実は重たい。

(監督 マリウス・ホルスト /117min /ノルウェー=フランス=スウェーデン=ポーランド合作)
by haru733 | 2013-02-12 00:00 | ノルウェー映画 | Comments(0)


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