陸軍 (1944年) 当局の不興を買い、名匠は辞表を提出した問題の国策映画 

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 今夏、劇場公開されていた加瀬亮さん主演『はじまりのみち』は、名匠・木下惠介監督の若き日の感動秘話を描いたものでした。
監督の本業はアニメーション、実写デビュー作の小品にかかわらず、『はじまりのみち』を上映したのはシネコンだったことに違和感を覚えたのはわたしだけでしょうか。
これまでミニシアターでかかってきたような小粒な良作までが、シネコンに流れていく寂しいこのごろ。

『陸軍』は、木下監督が松竹に辞表を出すきっかけともなった国策映画。
太平洋戦争下の日本の映画界は、政府から戦意高揚の国策映画の製作を求められていました。
しかし、氏が描いたものは、親子三世代にわたってお国に人生を捧げた家族の物語でありながら、ちょっとちがっています。
家族ドラマのような微笑ましさと、母親の沈痛、どちらもあまり国策映画らしく見えない。
ちなみに、本編で当局に睨まれた、当時のエピソードを描いたのが『はじまりのみち』。


幕末から日清戦争、日露戦争を経て満州事変に至る約60年間。愛国心に燃える一家の男たちは、友助(笠智衆)を筆頭に、軍人となり出兵して行きます。女たちは、悲痛な心を隠して気丈に家族を支えるのでした。
軍人・友助と対照的に描かれるのは、庶民肌の櫻木(東野英治郎)。ふたりは歳のかわらぬ息子をもち、事あるごとに戦争への見解が違い対立と和解を繰り返すのですが、まともな精神でみれば人間らしいのは櫻木のほう。
このお二方、たいてい笠さんが善人、東野さんが悪人を演じることが多く、そんな意味でも、神風の吹く大日本帝国を疑わない笠さんが善で、東野さんが悪という配役の妙が興味深いです。

ついに出征していく息子を見送る、母親のラストには泣けてきてしまう。ひたすら田中絹代を追い続けるカメラがすばらしくて。自分を殺すしかなかったこの時代、描きたいものを描いた木下監督の立派さに胸打たれるおもい。

 (87min)
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by haru733 | 2013-08-10 23:25 | 日本映画 | Comments(4)
Commented by あぶく at 2013-08-30 23:59 x
こんばんは。
実際に観た作品がテレビドラマなので、不勉強な私にとってはドラマ監督のイメージが強かったのですが、名作と言われる作品を数々撮っていらっしゃるのですね。

>自分を殺すしかなかったこの時代、描きたいものを描いた木下監督の立派さ

そうでしたか! 気骨が感じられますね。
微かに思い出すドラマから、繊細に人間の機微を描いているというイメージなので、意外(恥ずかしながら不勉強なため)でした。
勉強になりました。ありがとうございます。
森雅之さん、憧れなので反戦ではなさそうですが『善魔』あたりから観てみたくなりました。
Commented by haru733 at 2013-09-01 21:25
あぶくさん、こんばんは。
木下監督はドラマも撮ってらしたのですね、しらなかった。
本編は国策映画なので、反戦映画になっては本来いけないのでしょうけれど、戦争の無益さを感じます。いつの時代も変わらない母の想いが胸に響いて。
「二十四の瞳」「お嬢さん乾杯!」とあわせまだ三作しか知りませんが、機微を捉えたドラマにユーモアがあって好きでした。少しずつ監督作を観ていけたらいいなー。『善魔』も。
Commented by トラバさせてもらいましたー at 2013-09-05 04:03 x
マイブログに、トラバ&リンク&引用、させてもらいましたー
何か不都合あればお知らせくださいませ。なにとぞ宜しく
お願いしますーーー。
Commented by haru733 at 2013-09-06 02:59
ジョニー暴れん坊デップの部屋 さん

はじめまして。
共感していただける部分があって、うれしいです。
どうぞ使ってくださいませ。


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