悪魔憑き考 『汚れなき祈り』『エクソシスト』  

 悪魔憑きを猜疑の目でみてしまう、カトリシズムとは無縁なわたしでも、本当に怖かった悪魔祓い映画があった。それは1973年製作の『エクソシスト』。懐かしい傑作ホラーを再見しながら、現代にあってなお悪魔憑きに振り回される、欧米社会に浸透する暗をおもう。

『汚れなき祈り』 (2013年) 
d0235336_17491126.jpg

  ルーマニアの孤児院で育った後、国を出てドイツで働くアリーナ(クリスティーナ・フルトゥル)は、おなじ孤児院で一緒に育ったヴォイキツァ(コスミナ・ストラタン)に会うために、ルーマニアを訪れる。
唯一の友・ヴォイキツァと一緒にいることを願っていたアリーナだったが、修道院の暮らしで神の愛に目覚めたヴォイキツァは、今の生活に満足していて、院を出ることを拒むのだった。彼女を取り戻そうと次第に心を病んでいく彼女が、思いもよらない悲劇を引き起こしていく―。
2005年に実際に起きた事件を元に、人里離れた修道院で悪魔祓いの犠牲となった2人の若い女性の悲劇を描く。

凍えそうな冬の修道院。神父を”お父様”と慕う、清貧なシスターたちは互いに助けあい暮らしていた。その静寂をもろくも崩した、アリーナの異質さにヒリヒリする。
彼女に信仰はなく、あるのは一途にヴォイキツァを求める想いだけ。それは同性愛的ですらある。
情緒不安定な彼女の振る舞いに、秩序を失っていく修道院の面々は、狂い出した歯車をとめるどころか加速させながら、悲惨な結末へとむかうばかり。

怖いのは、理解できないものを排除する心理。心の病かと疑いつつも、良かれとして行われる儀式のほう。
病院を追い出されてしまったら、あとは宗教に頼るしかない思考停止が、集団ヒステリーを生む悪循環に寒気がする。外からみれば、悪魔憑きとは、こんなに滑稽であるのに。

神経質な顔のアリーナと、いかにも可憐なヴォイキツァ、対照的なふたりの女優さんが印象にのこる。ムンジウ監督は『4ヶ月、3週と2日』でも、対照的な女性を配置して、こころの機微を穿っていた。
つい10年前に起こった出来事とは、にわかに信じがたい。ヴォイキツァは、何もできずに親友から引き離され、ただ見ているしかなったけれど、いまも神に仕えて、いまも拘束されたまま死んでいったアリーナの無念を祈っているのだろうか。

 (監督 クリスティアン・ムンジウ /ルーマニア=フランス=ベルギー合作/150min)


『エクソシスト ディレクターズカット版』 (1973)
d0235336_1010139.jpg

 オリジナルに10分ほど追加された2000年公開バージョンで再見。もう、文句なしにいま観てもおもしろい。
 人気女優(エレン・バースタイン)のひとり娘リーガン(リンダ・ブレア)は、あるときから、不可思議な言動を繰り返すようになり、エスカレートさせていく。彼女の肉体に憑依した悪魔と、悪魔払いに立ち上がったエクソシストの恐怖の死闘を描いた大傑作。

愛らしかった12歳のリーガンが、あれよというまにおぞましい存在へと変わるショック!奇行を繰り返し、暴力を振るい、猥言を吐き散らすさまは、とても子どもとは思えない、リンダ・ブレアちゃんの怪演が最高。
他の悪魔憑き映画と一線を画すのは、なんといっても、終始、心身の病を疑う視点から描かれる展開。脳のカテーテル検査はじめ、あらゆる先進医療に頼って、心の病を疑い、それをリアルな映像でみせる説得力。
なにをやってもリーガンの様子は酷くなるばかりで、万策が尽きたところでようやく疑心暗鬼でたどり着くのが、悪魔祓いの儀式なのだった。

教区の神父カラス(ジェイソン・ミラー)は、貧しいスラムの人々をおもうように救えず、老いた母の介護もままならず、信仰を揺るがさせている。その不確かさがいい。当初、悪魔祓いの儀式にさえ懐疑的なのだ。
イラクから呼び戻された、学者でありカトリック神学者でもあるエクソシスト、メリン神父(マックス・フォン・シドー)と悪魔の対決を目の当たりにして、はじめて、想像を絶する世界を信じ、対峙していくことになる。

いまとなっても演出にまったく古臭いところがない。えぐいシーンのオンパレード。語り草となっている、リーガンの蜘蛛歩きと、ゲロシーンなど、まさに悪魔憑き映画の金字塔だとおもう。
ラストで、なんの抵抗もなく、悪魔の存在をちょっとだけ信じさせる、不気味な幕引きがすきだ。


1976年にドイツで、悪魔憑きを法廷で争った事件を基にしたのが、法廷サスペンス映画の『エミリー・ローズ』(2005年)。
昨年観た『ポゼッション』は、2004年に起こった出来事を基にしていたらしい。
こうみても、欧米では悪魔がとり憑くという概念がまだ存在している。それは日本にいると、とても奇妙な現象で、馬鹿げているけれど、概念の刷り込まれる恐ろしさは、宗教に限らず目に見えないとても恐ろしいことにちがいない。

 (監督 ウィリアム・フリードキン/アメリカ/132min)
[PR]
by haru733 | 2015-03-07 13:16 | ルーマニア映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

カテゴリ

全体
日常



旅行
おでかけ
雑貨
鑑賞
映画index
ポーランド映画
スペイン映画
フランス映画
イギリス映画
イタリア映画
ドイツ映画
トルコ映画
ブルガリア映画
アメリカ映画
日本映画
多国合作映画
韓国映画
中国映画
香港映画
ノルウェー映画
フィンランド映画
デンマーク映画
スウェーデン映画
ロシア・ソ連映画
オーストリア映画
カナダ映画
オランダ映画
ベルギー映画
キルギス映画
ギリシャ映画
スイス映画
アルバニア映画
セルビア映画
南アフリカ映画
インド映画
インドネシア映画
イラン映画
メキシコ映画
ウルグアイ映画
ニュージーランド映画
ポルトガル映画
アイルランド映画
ボスニア=ヘルツェゴビナ映画
ルーマニア映画
モノローグ
脱原発

記録

タグ

(172)
(109)
(82)
(69)
(68)
(59)
(56)
(54)
(46)
(28)
(28)
(26)
(23)
(23)
(22)
(22)
(16)
(16)
(14)
(13)

最新の記事

『記憶の絵』 森 茉莉
at 2015-03-16 22:05
悪魔憑き考 『汚れなき祈り』..
at 2015-03-07 13:16
U Want Me 2 Ki..
at 2015-03-07 09:55
わたしはロランス (2012..
at 2015-03-06 12:41
アメリカン・スナイパー (2..
at 2015-03-06 09:53
市民ケーン (1941年) ..
at 2015-02-23 09:49
ゆうばり国際ファンタスティッ..
at 2015-02-22 21:41
『麦ふみクーツェ』 いしいしんじ
at 2015-02-22 16:00
藻岩山 *冬
at 2015-02-19 18:00
ありがとう
at 2015-02-15 22:08

最新のコメント

はじめまして 映画に詳..
by ミキ at 18:11
このごろの暖かさ、いつか..
by haru733 at 21:04
昨日は穏やかな良い天気で..
by kanae at 17:04
あのシチュエーションで飛..
by haru733 at 21:24
おかえりなさいませ。 ..
by kanae at 19:51
あけましておめでとうござ..
by haru733 at 22:07
あけましておめでとうござ..
by kanae at 08:01
Merry X'mas☆..
by haru733 at 22:22
merry christ..
by kanae at 23:46
こんばんは。手放しにおも..
by haru733 at 21:35

ブログパーツ

以前の記事

2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
more...

フォロー中のブログ

はなももの別館
ジャックの談話室
salvage anti...
古本とビール アダノンキ
手製本工房 O塾
Собака и Кошка
やぁやぁ。
OSOに恋をして

ライフログ


麦ふみクーツェ


掏摸(スリ) (河出文庫)


話を聞かない男、地図が読めない女


図書館の神様


爪と目