カテゴリ:トルコ映画( 3 )

昔々、アナトリアで (2011年) いつか話そう、この夜のことを―「昔々、アナトリアで....」

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トルコのとある田舎町。闇に包まれた草原で、容疑者と警察による遺体捜しがはじまる。同行するのは、検察官と検死医、それに発掘作業員たち。
容疑者の供述に振り回されながらの長い夜。まるで非現実の世界が幻想的に連なる。見つからない遺体にやり場のない怒りをぶつける者、この夜に所在無く存在する者。息子を殺めた容疑者の哀惜と後悔の涙。

だれにとってもこの夜は長く、長回しで映し出される光と闇のコントラストがリリックで美しい。
やがて、遺体が見つかり、果てしなくおもえた夜も終わりを告げる。彷徨の果てに発露しだす類稀な情感は、眠気も覚ますリアリティー。

数時間前の夜が嘘のように、検死医の元で開胸される死体は、やけにリアルな音を立てた。
夜と朝、光と闇、死者と生者。一個の死を前にして、一夜を共にしたそれぞれの人の人生が、思いがけない切なさを帯びて迫ってくる。
もう一個の死の物語がおもしろい。検察官が話す、死を予告して死んでいったという美しい人妻の逸話は、冒頭から検死医の心を捉えて離さない。検察官の妻らしい、その女の自死の真相が語られるとき、観るものの心まで巻き込んで余韻ある物思いに沈めてしまう。

劇場未公開の本編は、蠍座にて国内初上映されたもの。カンヌ審査員特別グランプリ受賞。
説明のない映画はほんとにおもしろい。
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(157min/トルコ=ボスニア・ヘルツェゴヴィナ合作/監督 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)
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by haru733 | 2014-12-24 15:27 | トルコ映画 | Comments(0)

ユフス三部作

『卵』 (2007年)
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 トルコのセミフ・カプランオール監督による<ユフス三部作>の第1作目。完結編となる『蜂蜜』がベルリン国際映画祭でグランプリを受賞して、これまで未公開だった前2作とともに劇場公開されたとき、『蜂蜜』だけ先に観てしまった。

イスタンブールで暮らす詩人のユスフは、母親の死の知らせを受け、何年も帰っていなかった故郷に戻る。古びれた家には、5年間、母の面倒を見てくれていたというアイラがいた。遺言である「子牛を生贄に捧げる」ため短い旅に出るふたり。そこでユフスは失われていた記憶と自らのルーツを知る――。

詩人のユフスは、いまではしがない古書店を営んでいる。母の死をきっかけに、久しぶりに帰った故郷は、彼を静かに変えていく。都会の暮らしですっかり忘れていた、森羅万象に宿るものを愛していたころ。過去の恋。顧みることのなかった老いた母への思い・・・。情緒豊かな美しい画面に静謐な時が流れていく。
美しい娘アイラと過ごす数日間。早く去りたいのと同時に去りがたくもある故郷、ユフスの葛藤はどんなに抑えて描いていても胸に沁み入るものがある。饒舌なほど、故郷の自然や営みは、多くを語りかけてくる。
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強い眼差しが印象的なアイラ役のサーデット・アクソイは、『ソフィアの夜明け』でトルコ人旅行者を演じていた女優さん。『卵』と『ミルク』どちらにも出演しているけれど、年齢的に同じ役柄ではないとおもう。いい表情をする綺麗な人だった。

(監督 セミフ・カプランオール/出演 ネジャト・イスレーシュ、サーデット・アクソイ/97min)


『ミルク』 (2008年)
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 高校を卒業したばかりのモラトリアム期のユフスを描いた、シリーズ第2作目。
何より詩を書くことが好きな青年ユフスは、文芸雑誌に投稿した詩が掲載されるようになっていた。しかし、彼の詩も、母親ゼーラと共に営んでいる牛乳屋も、2人の生活の足しにはならない。ある日、母と町の駅長との親密な関係を目にして当惑するユフス。重ねて、徴兵検査で不適の判断を下され、将来に不安を抱きはじめてしまう――。

魔術師が女を逆さ吊りにして口から蛇をとりだす、びっくりシーンで幕を開ける。摩訶不思議な迷信じみた雰囲気は、このシリーズの魅力。おなじく、3作品ずっとに沈滞しているユフスの薄弱さは、そこはかとない儚さを漂わせる。少年の頃の吃音、青年期からの癲癇、徴兵検査の不合格――戦時中の文筆家たちを彷彿とさせる不完全さへのコンプレックスのようなものが、この青年期にはあった。とても静かな寂寥感も。

『蜂蜜』から入ったため、ずっと脳裏には少年期のかわいらしいユフス少年がいて、詩人の半生を遡る監督の意図は削がれてしまったかもしれないけれど、それでもとても良質で素敵だった。
時代に合わせて家の様式が変化していく様。都会のいまから、過去の田舎へと向かって、自然の音と生命力が満ちていく画面。五感で感じる稀有なシリーズだと思う。

(監督 セミフ・カプランオール/出演 メリヒ・セルチュク、バシャク・コクルカヤ/102min)
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by haru733 | 2012-02-26 12:46 | トルコ映画 | Comments(0)

蜂蜜 (2010年) 切なくて香り高い一編の物語

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 6歳のユフスは、手つかずの森林に囲まれた山岳で両親とともに暮らしている。幼いユフスにとって森は神秘に満ちた御伽の国で、養蜂家の父と森で過ごす時間が大好きだった。ある日、蜂を探しに森深くに入っていったまま父は戻らず、その日を境にユフスから言葉が失われてしまう――。 (チラシより)

震えるほどうつくしかった。オープニングの森の場面で、もうすでに釘づけ。
あえて音楽を使わず、自然の音で伝えられる情感豊かなユフス家族の営みに、こころ動かされます。
『変態村』を楽しんだ直後のわたしの精神を清める、美しすぎる作品でした。
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今年たくさん山登りをして森に魅せられただけに、感動は三割増しになっていたかもしれません。 まるで一編の詩。あったかくて、切なくて、ユフスがかわいくてたまらない。
お父さんと一緒に森で暮らすささやかな毎日が大好きだったユフスは、蜂を探しに森へ出かけたまま帰らないお父さんが心配で心配でなりません。日に日に元気をなくして、吃音症はひどくなるばかりで、言葉さえ失われそうになるけれど....
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留守を守りながら気丈に振舞っていたお母さんが次第に涙を流すようになってから、ユフスは成長しなければならない時を迎えるのでした。
大嫌いなミルクを一気に飲み干して、ひとり父親を探しに森に分け入ったユフス―。
その彼に寄り添うように、森の生き物たちは歌い、木々は囁く。かけがえない純粋さの証。神秘の森が導いてくれる。
愛する者のために夜の山を走り抜けた『モチモチの木』の豆太みたいに、臆病な少年の本当の強さが描かれた、途切れるようなラストシーンが、じんわりと幸せな余韻を残してくれました。

父の死という悲しみを乗り越えた彼の軌跡は、ユフス三部作として、同監督の『ミルク』と『卵』にすでに描かれてあります。
大人になり詩人となったユフスを描いた『卵』(2007)、青年期を描いた『ミルク』(2008)、三部作の最後が少年期を描いたこの『蜂蜜』。 
製作年順にみたら、さらに感じるものがあったかな。残りの2作品もいつか遡ってみなければ。

(監督  セミフ・カプランオール /103min/トルコ=ドイツ合作)
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by haru733 | 2011-10-01 20:58 | トルコ映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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