カテゴリ:ポーランド映画( 5 )

ニキフォル 知られざる天才画家の肖像 (2004年)

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 ニキフォル(1885~1968)はアール・ブリュットの聖人といわれるポーランドの天才画家。
彼の晩年の生活を支えた、一人の男マリアン(ロマン・ガナルチック)との物語を描くドラマ。湿っぽいところのないポーランド映画の飾らない余韻がいい。
なにより特筆すべきは、ニキフォルを演じたのが女性であること。当時80代のベテラン、クリスティーナ・フェルドマンによる熱演は、どう見てもおじいちゃんにしか見えない、性別の垣根越える名演技だった。

その存在を知ってから、気になるアウトサダー・アートの世界は、自己が自己であり続けるために創造される魂むき出しの迫力。『非現実の王国で』のヘンリー・ダーガー氏もそう、自己流でも歪でも、稚拙であっても、直感で惹かれてしまう魅力がある。

言語障害と重度の肺結核を患う晩年のニキフォルを支えたのは、役所で働き、画家としても活動するマリアンだった。マリアンは、突如アトリエに居ついてしまった老画家を、当初は追い出そうとするけれど、彼の作品に本物の芸術性を見出しやがて魅了されていく。

最初で最後かもしれない展覧会会場へと向かう後半は、さながらロード・ムービーのよう。世間の注目を浴びはじめるニキフォルと、彼を支えるマリアンのあいだには、たしかな心の疎通が芽生えていく。
彼に振り回されっぱなしのマリアンを理解できない家族は、彼の元を一度は去ってしまうけれど、最晩年のニキフォルに寄り添う彼の傍にはそっと妻が戻ってくる、なんて素朴なラスト。

多作のニキフォルが残した絵画は4万点。ポーランドの原風景に、ニキフォルが多く描いた教会やイコンがよく似合う。部屋に飾りたくなるような、すてきに歪な絵画たち。

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by haru733 | 2015-01-16 00:00 | ポーランド映画 | Comments(0)

ワレサ 連帯の男 (2013年) 反体制のシンボルとなった男

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 1926生まれ、御年88歳になるポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ作品が好きです。ここにきて、やや微笑ましい場面ある作品に出逢えて、うれしかった。母国の歴史を描き続けてきたワイダ監督が緩むとき、次回作がたのしみ。

本編は、東欧諸国の民主化運動で大きな役割を果たした、ポーランドの労組“連帯”の初代委員長にして、伝説的政治指導者レフ・ワレサ(ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ)の、激動の半生を映画化した伝記ドラマ。 (allcinema)
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物語はイタリア人女性ジャーナリストがワレサの自宅を訪れるところからはじまる。インタビューを介した回想形式で、時間軸を行き来して物語は展開する。
度重なる拘留と、多忙極まる活動を支えたのは、最愛の妻ダヌタ(アグニェシュカ・グロホウスカ)だった。幾度も仕事をクビにされては貧しい暮らしに、子沢山だった夫婦の、深い絆のエピソードがゆいいつ明るい。ほとんど女手ひとつで家庭を守り続けたダヌタの気丈な強さをみていると、女としてなんだか勇気づけられた気がする。
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労働者の立場から、インテリたちを巻き込んで社会を変えていったカリスマ的指導者。ワレサはのちに、ポーランド共和国、第三共和制初の大統領となり、ノーベル平和賞を受賞したという―。

日本には、アンジェイ・ワイダ氏のような映画監督はすくない。老境にはいり戦争作品を手がける巨匠はいるけれど、生涯とおして自国の歴史を見つめているワイダ監督みたいなひとは、尊敬せずにいれない。それは、大好きな映画をとおして知る、遠い国の歴史なのだけれど。
実際の記録映像を交えた本編は、ポーランド映画の、新たな社会派作品の佳作ではないでしょうか。

(124min)
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by haru733 | 2014-05-24 00:00 | ポーランド映画 | Comments(0)

木洩れ日の家で (2007年) みごとな終焉

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 全編モノクロームで紡がれる、とある老女の晩年の日々。
ワルシャワの郊外、林のなかに建つ古い屋敷で愛犬と暮らすアニェラは、いよいよ最期のときが近いのを悟り、思い出のたくさん詰まった屋敷の行く末に思いをめぐらせる―。

たまに訪ねてくるのは孫娘を伴ってやってくる息子だけ。肥満した二人と、けれどすでに心は通じ合わない。
孤独な老女は、じぶんの死後、屋敷を託すべき相手を考えあぐねていた。
不甲斐ない身内への諦めと、世知辛い世間の目、それでもやがて出た答えに、安らかに死を迎える。


静謐な日々、隣接する音楽クラブの子どもたちのだす快活な音が聞こえてくる。
ふとした時、アニェラの胸に甦るのは、過去の華やかな時代の懐かしい記憶だ。
それ以外にあるのは、彼女のモノローグだけ。
老女を演じたダヌタ・シャフラルスカの魅力のほかは、趣ある屋敷の存在感と、表情で語る愛犬の名演に支えられている。

地味な作品ながら、じんわり心に沁む素敵な小品。
アニェラの生き方は贅沢で潔いがすこしだけ寂しい。

監督・脚本はポーランドの女流監督ドロタ・ケンジェジャフスカ。   (104min)
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by haru733 | 2013-01-16 00:00 | ポーランド映画 | Comments(0)

ブリューゲルの動く絵 (2011年)

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 摩訶不思議な絵画の世界へ時空を超えて旅する異色のアートムービー。16世紀フランドル絵画の巨匠ピーテル・ブリューゲルは、『十字架を担うキリスト』になにを描き込めたのか。
生身の人間が絵の動作を再現して解釈を試みる、そういう番組をいくつか観たことはあるけれど、これほど奥行きのある立体的なものはもちろん初めてで、視覚的にとてもおもしろかった。一枚の絵に描かれる人物が特別に多いブリューゲルならでは。
16世紀のアントワープに聖書の物語が同時に描かれているのは、いつの時代にも通じる人間の愚かな行いへの警鐘であるという。岩山の風車小屋、処刑台、十字架を担ぐキリスト、憂う聖母マリア・・・それぞれに込めた寓意を、ブリューゲル自身が語って明らかにしていく手法。
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当時の風俗、村人たちの暮らしぶりなどかなりおもしろかった。生活の隅々まで丁寧に再現された画面に、生身の人が動く楽しさ。
そして同時に、キリスト教の刻印付けを受けた欧米では、一味違った受け取られかたがされそうな、宗教色濃い作品でもある。異端者を血祭りにあげるスペイン兵士、イエスの受難、残酷な描写がつづく。聖と俗は同時に存在して、21世紀のいまにも通じる、ブリューゲル絵画の普遍性に驚く。映画への感慨ではなく、ブリューゲルへのそれだった。
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 『十字架を担うキリスト』 (1564年)
映画は、ウィーン美術館に掛けられた現実の絵画へと戻り、カメラが引いた先には並んで展示されている『バベルの塔』、その先の静かな館内通路までひいた画で幕を閉じる。
時空を超えた異世界から不思議な余韻で現実に帰るころには、この絵を感慨持って見られるように、さらに好きになっていた。


(監督・製作 レフ・マイェフスキ/96min/ポーランド=スウェーデン合作)
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by haru733 | 2012-02-20 23:25 | ポーランド映画 | Comments(0)

夜の終りに (1960年)

d0235336_9551827.jpg "抵抗三部作"のアンジェイ・ワイダが『灰とダイヤモンド』の次に監督した作品。戦後派世代の一日を描いた青春映画で、ヌーヴェルヴァーグ的な雰囲気を持っていた。

(あらすじ) 夜、素人バンドでドラムを叩いている若いスポーツ医バジリ(クデウィシュ・ウォムニッキー)は、友人エディック(ズビグニエフ・チブルスキー)にそのかされるまま若い女を誘い、自宅に招いた。ウォッカを呷り、意味もないゲームに興じ、哲学談義を重ね・・・・やがて夜が白々と明けたころ、目を離した隙にペラギアは姿を消していた。まだ早い朝の街中を、彼女を探して必死にバイクを走らせるバジリだったが・・・・。

目的を見出せない若者たちの空虚な一夜は、闘志に燃えた"抵抗三部作"の若者たちとはしごく対照的で、比べながら観ると奥深い。
オードリー・へプバーン似のペラギア(クリスティナ・スティプウコフスカ)はフシギちゃんでとてもかわいい。プレーボーイのバジリもすっかり恋に落ちてしまうのだった。ふたりの時の過ごし方が、とにかくシャレていて楽しい。
無気力といいながら、いなくなったペラギアを追うバジリは真剣そのもので、気だるい孤独を抱えたペラギアもまた、素知らぬ顔でバジリの家に舞い戻ったあと、彼の元を離れがたく去りがたいのだった・・・・。
二人のその後は、観る側の想像にまかされている。

d0235336_9553293.jpgバジリの仲間の一人には、若き日のロマン・ポランスキーが出演している(わからなかったけど)。 脚本にはイエジー・スコリモフスキの名前。スコリモフスキはポランスキーの『水の中のナイフ』でも共同脚本を担当していたことに今頃気がついてしまった。

むかしのポーランド映画やっぱりいいなぁ。言葉の響きや風俗や、複雑な歴史が色濃く残ったその背景。寒々とした景色が自分の感性にとてもしっくりくる。


(87min/監督 アンジェイ・ワイダ/脚本 イエジー・アンジェウスキー、イエジー・スコリモフスキ)
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by haru733 | 2012-02-10 11:15 | ポーランド映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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