カテゴリ:スペイン映画( 7 )

静かに迫り来る恐怖 『永遠のこどもたち』 

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  かつて育った孤児院再建のため、海辺の廃墟に移り住んだ主人公のラウラ(ベレン・ルエダ)と、医師で夫のカルロス(フェルナンド・カヨ)は、施設の準備を終えた矢先、7歳になる愛息子シモン(ロジェール・プリンセプ)の突然の失踪事件に見舞われる....
子どもを取り戻すべく、孤児院に潜む不気味な因縁と対峙していく母の物語が、母子の強い絆を軸にスリリングに描かれていく―。

これは面白い。あらゆるホラー映画の感覚要素を網羅した、絶妙な恐怖。
歴史ある孤児院はゴシック調の薄気味悪さで、少しずつ明らかになる過去と真実が、見るものを驚きと恐怖に陥れていく。
設定の悉く心憎いことに、愛に満ちた家族が、奇怪な事件を境に崩壊していく喪失感が、まず観客を苛む。
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愛くるしいシモンは薬を切らせない重病を抱えていて、両親には見えないなにかが見えている。息子が失踪して半狂乱になるラウラの不安定は、育ちの不幸のせいかもしれないとおもう。おおらかなカルロスだけが頼りであったのに、息子が消えて牢獄と化した孤児院で暮らし続けるには、苦痛が長く続きすぎる.....。
すべて計算しつくされた物理的恐怖と心理的恐怖の狭間。ラウラの記憶に眠っていた30年前の孤児院での事件が浮かび上がるとき、衝撃の過去と、悲しみの真実と、愛に満ちたエンディングが待っていた。
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長編初となるJ・A・バヨナ監督は、とてもそうとはおもえない立派さ。有名監督が製作総指揮を務めても、面白くない作品は多々ある中で、ギレルモ・デル・トロ製作総指揮の本編はまちがいなくホラー映画の佳作だとおもいます。

館、異形、お人形、かくれんぼごっこ、数々のホラー因子がそろい踏み。猟奇ホラーを疑い、真の心霊現象を疑い、ダークファンタジーを疑ったその先に、『シックス・センス』ばりの死者と生者の交流と、計り知れない母の愛が待っている―感服のラストシーンがすばらしい。

(2007年/スペイン=メキシコ合作)
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by haru733 | 2014-01-19 17:21 | スペイン映画 | Comments(0)

アタメ! (1989年) 超変態的純愛物語

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 スペインの鬼才ぺドロ・アルモドバル監督による初期の恋愛もの。
惚れた女マリーナ(アブリル)のアパートに押し入り、ベッドに縛りつけ監禁して結婚を迫る男リッキー(バンデラス)は、寝食を得るため精神病院へ入退院をくりかえしてきた風がわりな男。彼はマリーナと結婚してまともな生活を送りたいと力ずくの求婚を繰り返し、やがて拒絶するばかりだったマリーナの心にも変化が訪れるのだが―。

好きすぎて変態的行動をとる純愛映画はだいすきです、笑。
『恋人たちのアパルトマン』『アンナと過ごした四日間』『愛に関する短いフィルム』『仕立て屋の恋』.....私的偏愛ジャンルの倒錯系プラトニック作品のお気に入りがまた増えてしまった。
ちなみにタイトルの『アタメ!』はスペイン語で「縛って!」という意味。

うら若きアントニオ・バンデラスの純粋な一途男ぶりがなんともかわいかったりします。そんなこと今までおもったこともなかったのに!インターナショナル俳優の母国時代の作品は、魅力を再発見することが多いかもしれない。先日見たアルモドバル×バンデラスの新作『私が、生きる肌』は、たしかに20年経てとても洗練されていたけれど、大事なところで変わっていない本編もなかなかでした。

(102min)
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by haru733 | 2013-05-21 21:20 | スペイン映画 | Comments(0)

私が、生きる肌 (2011年) これを愛と呼べるか

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 『オール・アバウト・マイ・マザー』以前の変態ペドロ・アルモドバルが戻ってきた―という称賛の声が記憶に新しい。これはほんとにおもしろかったです。

人工皮膚研究の権威で亡き妻そっくりの美女を自宅に監禁する男を巡る衝撃の秘密を、予測不能のストーリー展開と斬新かつ色彩美溢れるヴィジュアルでミステリアスに描き出していく。

回想シーンを挿入して描かれる周到なミステリーに、素直に驚きたい、けしてネタバレしてはいけないタイプの作品だけれど、あえていうならば『クライング・ゲーム』以来の驚きでした。
説明を排除したオープニングから、徐々に、屋敷に監禁されている美女とロベル医師の倒錯した愛の関係が明らかにされていく。
おぞましくてとびきり抉い悲しい真実、想像だにしなかった涙のクライマックス。変態度数もさることながら、脚本の妙にはうならされる異色の怪作。
このまま『オール・アバウト―』以前の変態コースへ迷い込む予定。

(120min)
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by haru733 | 2013-04-30 00:00 | スペイン映画 | Comments(0)

アレクサンドリア (2009年)

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 4世紀末のエジプト、アレクサンドリアに実在した女性天文学者ヒュパティアの、学問に身を捧げた生涯と、急速に台頭してきたキリスト教徒による異教徒迫害の歴史を描いた一大スペクタクル。

キリスト教への改宗を武力で迫る黒い暴徒たちに、科学の街アレクサンドリアは乗っ取られ、反撥する科学者たちも、互いに多くの血を流した。
キリスト教が力を持ち、ユダヤ人が迫害され、女性は表舞台から姿を消した、そういうことの背景がよくみえてくる。後の魔女狩りをした精神なども、ずっと古くから種は撒かれていたのね。
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科学と哲学を重んじて生きたヒュパティアと、かつて彼女の屋敷の奴隷で、想いを寄せ続けた奴隷のダオスは、激動の時代に翻弄されていく。
ヒュパティアが太陽系の謎を解かんとして、当時はまだ異端とされていた地動説を信じ、太陽を廻る惑星の軌道が楕円だと発見するまでが、なかなかドラマチックに描かれていた。さらにドラマチックなのは、彼女を密かに想い続けるダオスの宿命。ダオスは、キリスト教がアレクサンドリアの街を席巻する勢いを目の当たりにして、自由と力を求め、身分違いの恋を諦めて、キリスト教に改宗し修道兵士になる。そんな彼に、終いに与えられるのが、異端者ヒュパティアを殺せという命令なのだ・・・。演じるレイチェル・ワイズとマックス・ミンゲラが役柄によく似合ってステキ。それにしてもレイチェル・ワイズは幾つになっても美しい。

見事に再現された古代の街並や生活の様式が目にたのしかった。キリスト教に限らず、宗教はダークな面を孕んでいて、ここぞと表に出してしまった本作は、欧米でいかばかりの評価を得たのだろう。アンチキリスト作品が増えることは、私的にはいいと思うけれど、アメナーバル監督の意図はもっと大きく、現代にも脈々と続く他宗教へ対する不寛容、これが核となっているそうだ。


 (監督 アレハンドロ・アメナーバル/127min)
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by haru733 | 2012-03-31 13:50 | スペイン映画 | Comments(0)

ベンゴ (2000年)

d0235336_1450457.jpg  (あらすじ) スペイン、アンダルシア地方。年頃の一人娘を亡くした悲しみから、未だに立ち直ることができずにいるカコは、自分を慕う甥ディエゴの面倒をみながら暮らしている。ディエゴの父は、反目するカラバカ家の長男を殺して逃亡、復讐に燃えるカラバカ家はカコの命を狙うのだった――。

フラメンコ発祥の地、アンダルシアを舞台に描かれるエスニックな一作。二つの家族の抗争は、ドラマの体裁を整えているだけで、見どころは兎にも角にもフラメンコの歌と踊りに尽きる。
カコ役のアントニオ・カナーレスは有名なダンサーで、本作では踊っていないけれど、顔をはじめ超絶に濃い存在感を放っていた。

トニー・ガトリフ監督は『ガッジョ・ディーロ』がとても好きだった。いまでもロマン・デュリスのへらっとした笑顔をたまーに思い出してニタッとしてみたり。
ロマの音楽も、フラメンコのリズムも、共通するのはイスラーム音楽ということでいいのだろうか。だからわたしはボリウッド映画が好きなのだろうか。あの音楽、わけもなく惹かれてしまう。本編は魂から響き渡る女性たちの歌声が特に素晴らしかった。
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いくら熱い民族だからといって、家同士の抗争など現実離れしてはいないのか、判断に苦しむものではある。ただ、巻き込まれていく長髪男たちの濃いぃ男気は、珍しさが先に出ておもしろくてしかたがなかった。

味わい深いのは、カコと障害者である甥っ子ディエゴとの関係。ふたりは堅い信頼関係で結ばれていて、障害があるとはいっても人生を謳歌しているディエゴの保護者として、カコは適任なのだ。そして、娘を失った喪失からカコ引きずり上げるのもまた、純粋なディエゴの存在なのだった。まっとうに生きようと望むカコの人間性が、本作ではとてもいい味わいを醸すのだった。

d0235336_14502348.jpgこれだけ濃い作品を世に送り出すトニー・ガトリフ監督、きっとご自身も然りだろうと検索してみた。ビンゴ、やはりさすがロマの血を引いているだけあって、いい顔をしています。
『モンド』『僕のスウィング』『トランシルヴァニア』、この監督、観たい作品がいっぱい。


監督・脚本  トニーガトリフ
出演  アントニオ・カナーレス,オレステス・ビリャサン・ロドリゲス,他
(89min/スペイン=フランス合作)
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by haru733 | 2012-03-25 18:18 | スペイン映画 | Comments(0)

ボルベール<帰郷> (2006年)

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 ペドロ・アルモドバル×ペネロペ・クルスは濃い、そして面白い。原色溢れる画面に、美しすぎるペネロペ。癖ある強烈さは、観る前にモチベーションとタイミングを計っていたけれど、すぐに目が離せなくなった。

(あらすじ) 失業中の夫と一人娘パウラを養うライムンダは、故郷ラ・マンチャを離れて久しい。ある日、夫がパウラに関係を迫り、抵抗した娘は父親を刺し殺してしまう、、。ライムンダは娘を守りたい一心で、夫の死体の処理に奔走、事件の隠蔽を図る。そのさなか、今度は故郷ラ・マンチャに住む伯母の急死の報せが入る。帰郷したライムンダの姉ソーレが見たものは、火事で死んだはずの母イレネの姿だった…。
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『オール・アバウト・マイ・マザー』や『トーク・トゥ・ハー』でもそうだったように、アルモドバル作品のなかで起こっている出来事はとても普通じゃない。おぞましいはずなのに、ここまでさらりとドライに描かれたら抵抗感もなくて、カラフルで軽妙で、物語さばきの器用さには溜息がでてしまう。いくら同性愛の監督とはえいえ、ここまで女心が解るひとはたぶんそうそうはいない。
冒頭の殺人シーンは、たんなる序章にすぎないのだった。死体処理に奔走していたら、いつの間にやら、死んだはずの母親が現れて、さまざまな事実が明らかになっていく。両親が死んだ火事の真実、パウラの出生の秘密、ライムンダが故郷を離れたワケ、、、。女たちの哀しくも健気な生き方に、なにかしら元気づけられていく。
"死"さえ重々しくは描かない、死者さえ当たり前のように"そこにいる"ことが奇妙でもなんでもないフシギ。ユーモア滲む女性讃歌は、ほぼ女性しかでてこず、みんながとっても輝いていた。身近にある悩みなど些細なことだと、笑って忘れさせてくれるパワフルさ。流石、アルモドバル×ペネロペというべきか。
ちなみに、レストランで<ボルベール>を歌うペネロペは最高だった。歌声は吹き替えてあるらしいのだけれど、いろんな意味で"食べられそう"な魅力が炸裂していて。


(監督・脚本 ペドロ・アルモドバル/出演 ペネロペ・クルス、カルメン・マウラ、他/120分)
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by haru733 | 2012-03-05 20:37 | スペイン映画 | Comments(0)

エル・スール (1981年)

d0235336_15591313.jpg 原作は、映画製作当時、エリセ監督の伴侶であったアデライダ・ガルシア=モラレスの短編小説。
スペイン内乱で祖父と諍いを起こし、北に流れてきた父。その父を見て育った娘が夢想する"南(エル・スール)"。娘の回想をとおして父親の苦悩を静かに綴る――。

『ミツバチのささやき』でもそうだったように、エリセ監督の描くスペインは抱いてきたイメージとすこし違って、静謐で素朴なところがとてもいい。

娘エストレリャが抱く父親への感情はエレクトラコンプレックスだろうか。魔術的で不思議な力を持つ寡黙な父は、医師であり優しい父親の一面を持ちながら、南に愛する女性の影がある。自室に閉じこもり、家族をなおざりにして、終いには自害してしまった父、、。娘が大人になったとき、父のルーツである"南"を目指すのは当然のことのように思えた。

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祖父との諍いやスペイン内乱に絡む過去は、霧のむこうの出来事のように曖昧。短い原作もまた、ニュアンスで紡がれた曖昧なものだった。

気に入ったのは、エストレリャの初聖体拝受式のため、祖母と乳母ミラグロスが"南"からやってくる件。劇的であることを抑えたさりげない家族の物語が、ふしぎと詩的な陰鬱さや深い陰影によく交わる。

娘役のソンソレス・アラングーレンちゃんは、さすがに『ミツバチのささやき』のアナ・トレントには敵わないけれど可愛らしい。15の頃を演じたイシアル・ボリャンも印象的。
スペイン、フランコ政権下を描いたさいきんの作品では、『ぜんぶ、フィデルのせい』も良かった。フランスを舞台におなじく子どもを主人公にした家族の良質な物語だった。


(監督 ヴィクトル・エリセ/95min/スペイン=フランス合作)
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by haru733 | 2012-02-20 17:39 | スペイン映画 | Comments(0)


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by haru733

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