カテゴリ:フランス映画( 33 )

天才スピヴェット (2014年) 泣き方だけがわからない

d0235336_1974983.jpg

 敬愛するジャン=ピエール・ジュネ監督最新作。キッチュで手作り感たっぷりなジュネ・ワールドに陶酔あるのみ。そろそろダークサイドが恋しくなるけれど、文句なしに楽しかった。シアターキノでは2Dにて上映ちゅう。

アメリカ北西部のモンタナ。牧場を営む父(カラム・キース・レニー)、昆虫博士の母(ヘレナ・ボナム=カーター)、アイドルを夢見る姉(ニーアム・ウィルソン)に囲まれ暮らすスピヴェット(カイル・キャトレット)は、10歳にして天才科学者だ。双子の弟が死んで以来、家族それぞれの心にはぽっかり穴があいていた。
ある日、スミソニアン学術協会から、最も優れた発明に贈られる賞を獲得したスピヴェットは、ひとりワシントンDCで開かれる授賞式に向かうため家出を決意する。大陸横断の冒険の中で、スピヴェットは様々な人と出会いながら本当に大切なものに気付いていく―。

喪失感を扱いつつも、劇場に笑いがこぼれるユーモアいっぱいのロード・ムービ。ジュネ作品に、広大な北アメリカ大陸の景観が、こんなにもよく似合うとは。
往年のジュネ・ファミリー、ドミニク・ピノンの登場に頬を緩めつつ、昆虫標本に囲まれたヘレナ・ボナム=カーターの部屋など垂涎もので、色使い、言葉遣い、モンタージュの画面、どこを切り取ってもワクワクするアイテムに満ち満ちた世界。
古いヘレナ・ファンとしては、ふつうの顔色でこんなに愛ある立派なお母さんを演じているとうれしくてたまらない。

両親の愛を確信できず、弟の死を自分のせいと思い込んでいる、スピヴェット少年の流す涙はあまりに純粋。ついつい貰い泣いたり。
新人のカイル・キャトレット少年の品のある愛らしさは、確実に、『ホーム・アローン』で絶頂期のマコーレー・カルキン少年を越えていた。 

 (フランス=カナダ合作/105min)
[PR]
by haru733 | 2015-01-18 17:10 | フランス映画 | Comments(0)

友よ、さらばと言おう (2014年) 命を張っても守りたい者がいる

d0235336_1941668.jpg

 職場からの帰りに自動車事故を起こし、幼い子どもを含む3人を死に追いやった過去を持つ刑事のシモン(ヴァンサン・ランドン)と、その車に同乗していた親友の刑事フランク(ジル・ルルーシュ)が、6年後、麻薬密売グループとマフィアの報復殺人を目撃してしまったシモンの息子テオの身を守るため、再びタッグを組む姿を、臨場感溢れるアクションで描き切る。

なんてカッコいい男の友情か。同時に息つく間もないスリルと、迫力満点なアクションが、狂ったみたいに突き抜けている。おもしろい!
出所後も、罪の意識から逃れられず、幼い息子テオや妻から離れていったシモンの苦悩を共に抱え、親友フランクはどうにか友を救いたいとおもう。そこには、冒頭から幾度も回想される、事故当日の断片的な記憶の伏線が張られており、真実を滲ませたまま、結末まで一気に走り抜けていく―
d0235336_1942659.jpg
d0235336_1943551.jpg

マフィアのアジトに乗り込んだ2人は激しい銃撃戦に巻き込まれる。追ってきたボスの弟を殺し、見事逃げおおせた2人を、今度は怒りに狂ったボスと騒ぎを嗅ぎ付けた警察までが追い始めるのだった。身を案じたフランクは、シモンとテオ、妻のアリスを特急列車TGVに乗せて、パリに身を隠すよう手配するのだが。

ここから、手に汗握る展開にずっと釘付け。TGVにマフィアが乗り込んだと気づいたフランクは、何も知らぬ3人に迫る危機を覚り、圏外の携帯電話片手に、烈火のごとく車を飛ばし特急列車を追いかける!
TGV内の銃撃戦は文句なしにすごい!あのTGVがものすごいことになっていく。鉄道ファンも大喜びの様相と化す。

6年前のあの夜の過去に一物持ちながら、腹の底から信頼しあう中年男たちの哀愁と執念のパワーにしびれるばかり。逃避行の先の幸せを祈るように見つめながら、ふたりの友情のカッコ良さと男気に涙した。
明かされる過去の真実の重さに胸がふるえた。
d0235336_1945682.jpg

(監督 フレッド・カヴァイエ/90min)
[PR]
by haru733 | 2014-12-29 17:23 | フランス映画 | Comments(0)

アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ (2009年) 跳べ!洋製カンフー・ムービー

d0235336_21254163.jpg

 あの名コンビが戻ってきた!潜入捜査官と地元民の凸凹ナイスコンビの活躍にわくわくする。
パルクールのレイトと、カンフー使いのダミアンが、無法者たちを巻き込んで、バンリュー13地区を抹殺しようと画策する秘密保安局らの陰謀に立ち向かう―。

むかし夢中になっていたカンフー映画を思い出す。ジャッキー・チェンが、ユン・ピョウが、サモ・ハン・キンポーが輝いていたころ、脅威の肉体業にユーモアを交えた香港映画が大好きだった。いつか香港映画にも新たな風が吹き、ジャッキー人気も衰え、カンフー映画は廃れたけれど、ハリウッドからジェット・リー主演の本格派アクションが出てきて、懐かしさから夢中で観ていた時期があった。
そして、いま、その息吹を感じられる作品がここに誕生。フランスが生んだ新生カンフー映画だ。
小物を巧みに使い、エンドロールはNGシーン(一作目)、いたる所にオマージュをかんじる、ユーモアと神業で王道を往く快作シリーズ。
d0235336_21255444.jpg

白黒はっきりした前作に比べて、味方の登場人物が増してごちゃごちゃした感のある続編だけれど、あの強靭でキュートだったレイトの妹がいないことだけが残念..彼女はいて欲しかった。
作中で流れるラップとの相性が抜群で、気がつけば、跳び跳ね廻るキレキレのアクションを見ながら、にわかにノリノリでエンディングを迎えているのだった。

前作でレイトを脱獄させたダミアンが、今度はレイトの手によって脱獄させられる、小気味よい脚本を書いているのは、あのリュック・ベッソン氏。流石というべきか遊び心がある。
副題は”マッスル・ネバー・ダイ”。なんて素敵。

 前作で、無法地域の隔離開放を約束して終わったバンリュー13地区は、3年経ったいまも、状況に変化はない。治安はむしろ悪化の一途を辿っていた。この地区に生まれ育ったレイト(ダヴィッド・ベル)は、街を守ろうと孤軍奮闘を続けているが、政府による地区の一掃政策に陰謀の匂いを嗅ぎつける。そのころ潜入捜査官のダミアン(シリル・ラファエリ)は、何者かに濡れ衣をきせられ投獄されてしまう。ダミアンはかつてタッグを組んだレイトに脱獄の手助けを要請するのだが―。

(101min)
[PR]
by haru733 | 2014-11-02 23:03 | フランス映画 | Comments(0)

『新千歳空港国際アニメーション映画祭2014』/ファンタスティック・プラネット(1973年) 爆音上映

d0235336_1554653.jpg 新千歳空港の映画館”じゃがポックルシアター”では、国際アニメーション映画祭2014が開催されています。
ラインナップに『ファンタスティック・プラネット』を見つけて、本日一回きりの上映を観てきました。しかも、北海道初上陸の爆音上映版。大音響で映画を観るというのは初めてです。もうひとつの爆音プログラムには、よりコンセプトに似合いそうな『AKIRA』。


(あらすじ) 青い体に赤い目の巨人ドラーグ族の支配する惑星で、小さなオム族は虫ケラのように扱われていた。オム族の孤児テールは、ドラーグの娘に拾われ愛玩動物として飼われていたが、やがて逃げ出し、知識を学習した彼は、仲間と共にドラーグに反乱を起こしていく―。原作はステファン・ウルのSF小説「オム族がいっぱい」。

グロテスクでシュールで、ものすごく残酷で、高次元的な愛すべき世界が広がる。虫けら同然に排斥されているオム族は、人類だといっていい。種族間争いの背景には、哲学や宗教が潜んでいるようで、休日の居間にずっと垂れ流しておきたい、気色悪くも蠱惑的なビジュアルと合わせて奥深い。宮崎駿氏が、例えてヒエロニムス・ボスの悪魔的な絵画と言ったことが頷けるものです。

伝説のアニメーション映画は1973年製作。積年のノイズとシンセサイザーの効果音が、爆音に映えておもしろかった。映画と音の蜜月関係を楽しむには、この上映方法はありだとおもえる。来春には、札幌でも爆音上映が計画されているそうです。
それにしても、ものすごく観たかった映画だというのに、デカイ音だというのに、うとうとしてしまうのはなぜだろう、、ところどころ記憶がありません。

”じゃがポックルシアター”に足を踏み入れたのは、この日はじめて。3スクリーンあるなかで、一番大きな229席のスクリーン1は、ほぼ満員でした。 
(フランス=チェコスロバキア合作/72min)
d0235336_15542940.jpg

[PR]
by haru733 | 2014-11-02 17:53 | フランス映画 | Comments(0)

タイピスト! (2012年) タイプライターひとつで世界に挑む、田舎娘のサクセスストーリー

d0235336_21134364.jpg

 これ、すごくおもしろかった。ラブコメに括られてしまうのがもったいない、素敵なラブストーリーかつ、夢を掴むサクセスストーリー + スポコン。
舞台は1950年代のフランス。保険会社の経営者・ルイ(ロマン・デュリス)は、新しい秘書に、田舎娘ローズ(デボラ・フランソワ)を雇うが、ドジで不器用すぎてたった1週間でクビを言い渡すのだった。しかし、ローズにタイピングの才能を見出していたルイは、雇い続ける代わりに、ある提案をする。それは、当時、ステイタスだったタイプライター早打ち大会に出場すること、さらには大会で優勝することだった―。

独身貴族のルイが、趣味のようにしてはじめた早打ち競技大会優勝プログラム。ひとりで住んでいた屋敷の一室にローズを住まわせ、日夜スパルタ教育を繰り広げる。
憎めない笑顔のロマン・デュリスが、さらにになるともっと好き。特訓は厳しく、仕事との両立にお疲れ気味のローズだけれど、優しかったりそっけなかったりするルイのことを、彼女はだんだん好きになっていく。一つ屋根の下、ルイだって惹かれてはいるものの、けして言葉にすることはなく、ふたりはひたすら特訓の日々を重ねるのだが―。
d0235336_21135427.jpg

どうしてベタなはずのラブストーリーがこんなに面白いのだろう。きっとそれは人物に背景があるから。
ルイの人生はこれまで楽じゃなかった。一族から浮いた存在で、別れた幼馴染との過去を親友となったいまも忘れられず、戦争で深いキズを負った。だからこそ、笑顔の奥に、戸惑いや臆病や情熱があって魅力的。
ローズだって、女性の社会進出にあこがれて田舎から都会へ出てきた以上、男手ひとつで育ててくれた父親に安心してほしいし認めてほしい。
それらがユーモラスに小気味よく展開していくから、時を忘れるほどたのしい。

恋愛は、くっつくまでがおもしろい。キュンキュン鳴ってばかりいるほどドストライクな恋模様。先日の『ムード・インディゴ』ではないけれど、オドレイ・トトゥならきっと脱がない。でも、デボラ・フランソワちゃんは、いつだってステキな脱ぎっぷりでわたしは大好き。チャーミングでセクシーで、優勝に優勝を重ねて、スターダムにのし上がっていくローズはとぴっきりキュートだった。

監督は、こちらも長編デビューとなるレジス・ロワンサル氏。新人とはおもえないクォリティー。 (111min)
[PR]
by haru733 | 2014-10-22 22:13 | フランス映画 | Comments(0)

アルティメット (2004年) 究極の無重力アクション

d0235336_2165982.jpg

 すごく面白かった。昨秋に観た『ザ・レイド』以来のアクション・ムービーの私的ヒット。
”アクション映画の新たなる伝説”とまでいわれた『ザ・レイド』は、マレー発祥の伝統武術”シラッド”を駆使した快作だった。こちらはフランス発祥の”パルクール”を取り入れたノンストップ・アクション。
どちらも、CGを使わず、ド派手な爆破シーンもないかわり、見事な肉体技にアドレナリン大放出の男気映画となっている。いままで知らずにいたことを激しく後悔。
d0235336_217525.jpg

2010年の近未来、パリ(すでに未来ではないけれど)。無法地帯と化した郊外の“バンリュー13”地区で育ったレイト(ダヴィッド・ベル)は、ギャングのボスにたった一人で立ち向かうが、警察署が閉鎖を理由にタハの受け取りを拒否したために、タハはレイトの大事な妹ローラを誘拐したまま野放しに、レイトは投獄されてしまう。
6ヵ月後のある日、パリ市内では緊急事態が発生する。政府の作った時限爆弾がタハ一味に盗まれ、13地区へ運ばれたというのだ。エリート潜入捜査官ダミアン(シリル・ラファエリ)は、24時間後に迫った爆発を阻止するため、13地区のすべてを知り尽くしたレイトの手を借りるため彼を脱獄させ、未知の無法地帯へ踏み込むのだった―。
d0235336_2182356.jpg

塀に囲まれスラムと化した13地区は至近未来的な混沌にある。悪に立ち向かうレイトとローラの強靭な兄妹っぷり、スキンヘッドなダミアンの好人物ぶりが、最高に後味の良いカタルシスを演出する。
バネのように飛んだり跳ねたり、脅威の身体能力を見せつける”パルクール”のテンポが癖になりそう。
時限装置が起動したタイムリミット迫る中、浚われたローラを救うためにも、カッコいい男気メンたちの死闘は息つくまもなく繰り広げられ、お決まりの展開で安心してオチを楽しむことができた。
続編も観なければ。

ちなみに『ザ・レイド』の続編『ザ・レイド GOKUDO』は来月公開予定。日本からヤクザの役に遠藤憲一氏、松田龍平氏、北村一輝氏が出演しているというから見逃せない。

(監督 ピエール・モレル/85min)
[PR]
by haru733 | 2014-10-10 23:01 | フランス映画 | Comments(0)

修道女 (1966年) 煩悩の餌食となった無垢な魂

d0235336_119182.png
 さすがジャック・リヴェットというべきか、すごい作品。
修道院制度に翻弄される無垢な修道女の末路は、悲惨でショッキング。彼女を貶める俗欲の数々がおぞましい。

18世紀フランス。不義の子であるシュザンヌ(アンナ・カリーナ)は、追いやられる形で修道院に入れられてしまう。優しいド・モニ修道院長の支えで立派な尼僧に育った彼女だが、次期院長で冷酷なクリスチーヌらの迫害に合い、修道誓願撤回の訴訟を起こすに至るのだった。
訴訟には敗訴するものの、迫害の事実は公となり修道院を後にするシュザンヌだが、つぎの修道院では、さらなる試練が待ち受けている。院長は同性愛者で、噂の美女シュザンヌを日夜誘惑しはじめるのだったー

一神教と縁のない者には、修道院内部の不道徳な数々の出来事に滑稽さを感じずにいれない。
ただひたすら祈りを捧げても、神は不在で、現実に救われることはない。無神論的嘲笑と、敬虔なものへの憧れ、どちらもおなじくらい持ち合わせながら、シュザンヌが救われることを祈るけれど叶うことなく。

聖女のようにまっすぐ生きてきただけのシュザンヌは、生まれながらに美しく、不本意にも人々を惑わせてしまう。彼女を第二の修道院から救い出した聖職者の男さえ、俗世に出ればすぐ、禁欲を破り我が物にせんと襲いかかってくる。俗欲は彼女のことをそっとしておいてはくれない。
簡素な情景に、ゾッとするほどおぞましい人間心理が描かれてぞわぞわする。
生きるために身を堕とし、気高さから、最後にはとても生きていけずに自ら命を絶ってしまう、主人公の潔い生き様が儚くて憐れで悲しかった。

ふとロベール・ブレッソンの『少女ムシェット』という作品を思い出した。清貧な少女が犠牲者となり無残に死す内容はどこか似ていて、どちらも印象深くて忘れられない佳作。

原作は18世紀のフランス人哲学者、ドニ・ディドロの同名小説。教会制度への嘲笑と同時に、いじめ抜かれる少女の姿には、エロティシズムと趣味の範疇を感じさせる異質さがあるそうだ。

d0235336_1184397.jpgいま映画がおもしろくて原作を手にとり読んでいるマシュー・G・ルイスの『マンク』も、同じく18世紀の暗黒小説で、著者が若干19歳のとき書いたものだけれど、共にセンセーショナルだとはいえ、きっと似て非なるもののような気がする。
映画の出来栄えでは、公開当時上映禁止になったという本編が、断然素晴らしい。いま観てもえぐい。

 (131min)
[PR]
by haru733 | 2014-09-11 17:36 | フランス映画 | Comments(0)

しあわせの雨傘 (2010年) 人生の雨降りだって晴れに変えちゃう

d0235336_2184711.jpg

 『シェルブールの雨傘』から50年、老年となったカトリーヌ・ドヌーヴ主演のコメディタッチな家族ドラマ。
原題の『POTICHE』(飾り壺)とは、アイデンティティのないブルジョワ主婦の母を”飾り壺”に例えた娘(ジュディット・ゴドレーシュ)の台詞から。むかしの名画に引っ掛けた邦題が良い。

工場ストライキをきかっけに心臓発作を起こした夫(ファブリス・ルキーニ)に代わって、突然、雨傘工場の経営を引き継ぐはめになった社長夫人のスザンヌ。ブルジョワお気楽主婦の彼女は、ずっと軽んじられてきたのだが、大らかな人柄はいつしか労働者たちの心を掴み、やがて経営者として頭角を現していく。

d0235336_219142.jpg

カラフルで小洒落た70年代のファッションは、いかにも独自の美学を持ち続けるフランソワ・オゾン作風。
秘書と不倫を続ける夫はともかく、貞淑なスザンヌさえ、むかしは幾度もの浮気を繰り返してきたという、あっけらかんとしたフランスの、男と女と家族が描かれる。

女性が元気な映画は、観ていてたのしい。社会進出してゆく姿は、いまでこそ珍しくないが、時代設定を70年代にしたことでジェンダー意識にさらりと近づく。十八番のサスペンスも、いまいち悪い後味もなく、シニックなファミリードラマに留まっていた。いい意味で綺麗事な小ざっぱりしたコメディ。

 (103min)
[PR]
by haru733 | 2014-08-27 00:00 | フランス映画 | Comments(0)

マンク ~破戒僧~ (2011年) 18世紀暗黒文学の映画化

d0235336_22341754.jpg

 私的偏愛要素に満ちた小粒の良品。
 17世紀のスペイン。カプチン派の修道院の門前に捨てられ、この修道院で育ったアンブロシオ(ヴァンサン・カッセル)は、やがて立派な僧に成長する。すべての欲を絶ち、規律を重んじるアンブロシオは、人々の尊敬を集めていくが、時々襲う激しい頭痛だけが彼を苦しめる。そんなある日、傷ついた顔を覆うために仮面をかぶっているという、ミステリアスな見習い修道士バレリオ(デボラ・フランソワ)がやってくる。彼は、なぜかアンブロシオの頭痛を和らげる不思議な力を持っていた。しかし実は、バレリオは、彼に近づく為に女性であることを隠している、偽りの修道士だったのだ。
悪魔の誘惑に破戒僧となってしまったアンブロシオは、それ以来あらゆる悪徳に身を沈めていくのだった....。
d0235336_22335729.jpg

中世趣味、静謐で敬虔なもの、残虐性とエロティシズムを、好くひとには堪らない世界観。
情欲の虜となり、あらゆる悪に手を染めて、やがて破滅してゆく清廉だった修道僧の末路を、抑えた筆致で描き出す。

扇情的なデボラ・フランソワとヴァンサン・カッセルが雰囲気にいかにもよく似合う。そこに、美しいジョセフィーヌ・ジャピが、手篭めにされる信徒の少女を透明無垢に演じているのが対照的でとてもよかった。
d0235336_2234399.jpg

国書刊行会から新装版が出ているというマシュー・G・ルイスの原作がちょっと気になる。若干19歳で発表された発禁本は、人間のエゴイズムを追求していて凄まじいのらしい。
たまりゆく積ん読本が片付いたら、秋の夜長に読みたいな。

 (監督 ドミニク・モル/101min/フランス=スペイン合作)
[PR]
by haru733 | 2014-08-22 23:01 | フランス映画 | Comments(0)

ムード・インディゴ うたかたの日々 (2013年) 人生は泡のようにやがて消えてしまうから

d0235336_1312592.jpg

 『ガッジョ・ディーロ』を見て以来、ロマン・デュリス氏の悪戯っぽい笑顔が忘れられない。敬愛するミシェル・ゴンドリー作品に、その最強の武器はよく映えて、とても切ない幸福な一本だった。

先日観た『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督とゴンドリー作品は似ている。手作り感にあふれて、キッチュでダークでユーモラス、やりたい放題楽しく映画を作ってるところがおんなじ。
なのに、ゴンドリー氏のものほどアンダーソン作品を夢中で観れないのは、きっと私が、アメリカよりフランスの感性を好むからなのかもしれない。底抜けに陽気なその先に、いつも切ない暗部がちゃんとある。

資産家コランは、ある日、無垢な魂を持つ美女クロエと出会い、一目で恋に落ちる。2人はやがて愛を育み幸せに結婚するが、ある時突然、クロエが肺に睡蓮の花が咲く奇病に冒されてしまう。コランは彼女を救うべく奔走するが、財産は底をついてしまい....人生で初めて働き始めるのだが―
d0235336_13114938.jpg

前半部の色とりどりな輝かしい幸福に包まれた日々から、やがて雲行き怪しく不幸に苛まれていくふたりの恋物語。カラーからモノトーンへ、富から貧へ。オドレイ・トトゥとロマン・デュリスの笑顔が失われていくのを見ているだけで、ありがちなファンタジック・ラブストーリーじゃ終われないことを思い出す。
『エターナル・サンシャイン』も『恋愛睡眠のすすめ』もそう。ゴンドリー氏の紡ぐラブストーリーはたいてい、ハッピーでいびつで、いつもどこか切なくて、寂しい。

肺に睡蓮の花が咲く奇病―そう聞くと、最近の『シャニダールの花』を思い出すけれど、描写の違いは歴然で、邦画の薄ペラさを見せつけられるかんじがします。
肺を病むことは結核のごとく、田舎での療養はふたりを離れ離れにしてしまう。高額な治療費は確実に資産を減らして、やがて何もかもがくすんで崩れて、豪華な家は色を失い、使用人も友達も離れていってしまう....。
人生で初めて労働するコランに、信じる奇跡は訪れなくて、待ち受けるのは、なにを持ってしても変えらえない運命の人との別離だけ。
幸福だった過去へと逆回転していくラストシーンに、切ない余韻がこみ上げる。
d0235336_13112036.jpg

懐かしくも素敵な選曲で踊る奇妙なダンスは、その名も”ピグルモア”。作り物の脚がヘンテコ。
通いの医者役を演じているのは監督自身で、これがまた味のある演技で見所なのです。131分あるのは、本国フランスでのディレクターズカット版、今回観たのは海外向けに編集されたインターナショナル版、95分の方でした。ここまで遊んでいれば、95分がベストタイムだとおもう。酷評も多いけれど、ファンとしてはディレクターズカット版を観たものであってほしいです。
ハリウッドで撮った前々作『グリーン・ホーネット』がちっとも面白くなかったので、ゴンドリー節が健在でうれしかった。

(原作 ボリス・ヴィアン 『うたかたの日々』『日々の泡』/95min)
[PR]
by haru733 | 2014-07-05 13:01 | フランス映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

カテゴリ

全体
日常



旅行
おでかけ
雑貨
鑑賞
映画index
ポーランド映画
スペイン映画
フランス映画
イギリス映画
イタリア映画
ドイツ映画
トルコ映画
ブルガリア映画
アメリカ映画
日本映画
多国合作映画
韓国映画
中国映画
香港映画
ノルウェー映画
フィンランド映画
デンマーク映画
スウェーデン映画
ロシア・ソ連映画
オーストリア映画
カナダ映画
オランダ映画
ベルギー映画
キルギス映画
ギリシャ映画
スイス映画
アルバニア映画
セルビア映画
南アフリカ映画
インド映画
インドネシア映画
イラン映画
メキシコ映画
ウルグアイ映画
ニュージーランド映画
ポルトガル映画
アイルランド映画
ボスニア=ヘルツェゴビナ映画
ルーマニア映画
モノローグ
脱原発

記録

タグ

(172)
(109)
(82)
(69)
(68)
(59)
(56)
(54)
(46)
(28)
(28)
(26)
(23)
(23)
(22)
(22)
(16)
(16)
(14)
(13)

最新の記事

『記憶の絵』 森 茉莉
at 2015-03-16 22:05
悪魔憑き考 『汚れなき祈り』..
at 2015-03-07 13:16
U Want Me 2 Ki..
at 2015-03-07 09:55
わたしはロランス (2012..
at 2015-03-06 12:41
アメリカン・スナイパー (2..
at 2015-03-06 09:53
市民ケーン (1941年) ..
at 2015-02-23 09:49
ゆうばり国際ファンタスティッ..
at 2015-02-22 21:41
『麦ふみクーツェ』 いしいしんじ
at 2015-02-22 16:00
藻岩山 *冬
at 2015-02-19 18:00
ありがとう
at 2015-02-15 22:08

最新のコメント

はじめまして 映画に詳..
by ミキ at 18:11
このごろの暖かさ、いつか..
by haru733 at 21:04
昨日は穏やかな良い天気で..
by kanae at 17:04
あのシチュエーションで飛..
by haru733 at 21:24
おかえりなさいませ。 ..
by kanae at 19:51
あけましておめでとうござ..
by haru733 at 22:07
あけましておめでとうござ..
by kanae at 08:01
Merry X'mas☆..
by haru733 at 22:22
merry christ..
by kanae at 23:46
こんばんは。手放しにおも..
by haru733 at 21:35

ブログパーツ

以前の記事

2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
more...

フォロー中のブログ

はなももの別館
ジャックの談話室
salvage anti...
古本とビール アダノンキ
手製本工房 O塾
Собака и Кошка
やぁやぁ。
OSOに恋をして

ライフログ


麦ふみクーツェ


掏摸(スリ) (河出文庫)


話を聞かない男、地図が読めない女


図書館の神様


爪と目