カテゴリ:アメリカ映画( 64 )

アメリカン・スナイパー (2014年) イラク戦争とはなんだったか

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 劇場で観てからやや経つけれど、ひとこと残しておきたい作品。

 イラク戦争に狙撃手として派遣された殊部隊ネイビー・シールズの、故クリス・カイルの自伝を基にした人間ドラマ。
敵の間では“悪魔”と呼ばれ、18万の懸賞金を懸けられた、アメリカ軍史上最強の狙撃手クリス(ブラッドリー・クーパー)は、度重なるイラク派遣に徐々に心を蝕まれていく―

これまでもイラク戦争を描いた作品は撮られてきた。戦争映画は、どれも極限状況やPTSDを描くし、愛する家族から離れていく兵士の心の闇も捉えてきた。だから、そこに既視感は否めないのだが、これは何んの戦争かと改めて問うとき、かのイラク戦争であることがクリアに実感されてくる。

狙撃手は、常に引き金を引く判断を迫られる。恐ろしい戦場にいて、彼自身が18万の懸賞金が懸かる標的だった。心の病ははじめから時間の問題だったが、それでも4度に渡って戦場へ行き続けた。
そうしてアメリカの英雄は、最後の派遣から無事に帰還したにもかかわらず、38歳の若さでこの世を去ってしまう...。
戦争映画のもうひとつの側面であるPTSDは、どんな戦争にもある闇の部分。クリス・カイル射殺事件は、被害者だけでなく加害者にとっても、戦争が引き起こした悲劇だった。帰還兵の自殺者も含めて、それはすべて戦死におもえてしかたがない。

巨匠クリント・イーストウッドは、人生の最晩年にきてまだ衰えることをしらないのだな。
エンタテイメント性を忘れず、2時間越えをまったく飽きさせない。完全にモードを操られることが一時期くやしい時期もあったけど、いまでは敬愛する映画人のひとり。

 (132min)
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by haru733 | 2015-03-06 09:53 | アメリカ映画 | Comments(0)

市民ケーン (1941年) 奇跡のような名作

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 なんてすごい映画。当時25歳のオーソン・ウェルズが、製作・脚本・監督・主演をみずから務めた処女作。
実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルに、超一級の風刺で描くミステリアスなドラマ。

荒廃した大邸宅で”バラのつぼみ”という最後の言葉を残して、新聞王ケーンは死んだ。彼の死を報ずるニュース映画が長々と映し出されたあと、物語ははじまる。
社の経営陣は、ケーンが遺した”バラのつぼみ”の意味を求めて、生前の彼をよく知る5人の人物を歴訪する。やがて立ち現れてくる、ケーンの真の姿とは―

構成そのものが、現代映画となんら変わらない。これが75年前に作られたものだなんて、にわかに信じられない。時間軸の交差、回想形式のおもしろさ、カメラワーク、違和感のない老けメイクまで、すべてにおいて驚異的だ。

破産寸前のインクワイアラー紙を買いとり、あれよという間に軌道に乗せる。偏った紙面で、姑息な手段もいとわず、ニューヨークで一番の新聞社へと育て上げるのだった。
やがて政治の舞台に踊りだし、知事選勝利まであとわずかに迫ったとき、オペラ歌手スーザンとの不倫を報じられ、落選。はじめて人生の挫折を味わったケーンは、この時から滑り落ちるように、冒頭の荒廃へとひた走っていく。
エゴで満ちた人生に、なにがあったのか。
幼い頃、両親から引き離されて深い孤独のなかで育ったケーンの、栄光と挫折の生涯を、回想形式で紐解きながら描いていく。

野望でギラギラした男から、愛情表現さえまともにできない惨めな男まで、奇才オーソン・ウェルズは撮り分け、演じ分ける。
しかも、キーワードの”バラのつぼみ”には、実在の新聞王ウィリアム・ハーストを揶揄する秘密まであるという。
本編では、田舎に暮らしていた懐かしい思い出の橇に描かれていた絵が”バラのつぼみ”だったというオチだが。実際は、新聞王が愛人の秘部をしてそう呼んでいると知ったオーソン・ウェルズによる悪意ある設定だという。

得てして、新聞社による妨害行為や脅しに屈して、上映を禁止する映画館が続出。当時、興行的には大失敗に終わったにもかかわらず、いまだに傑作映画ベストテンに登場する高評価ぶりで、愛されている。
ほんとうにものすごくよくできた作品だった。
にもかかわらず、理解できないほどの睡魔に襲われて、途中なんど挫折しながら見終えたか知れない。
すごくおもしろかったのに。

 (119min)
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by haru733 | 2015-02-23 09:49 | アメリカ映画 | Comments(0)

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (2011年)

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 『リトル・ダンサー』『愛を読むひと』のスティーヴン・ダルドリー監督。過去の巧みなストーリー・テラーぶりを思い出せば、本編のソツなさが頷けた。父を失った喪失感から立ち直っていく少年の姿を、手作り感いっぱいに描くビルドゥングスロマン。

9・11以降のアメリカと、3・11以降の日本。テロと自然災害という大きな差異はあれど、作られた映画はちょっとちがう。タブーが多く、ドキュメンタリーが続々作られるところは日本らしい。一方で、悲劇を織り込んだ見事なエンタテイメントを育み受け入れる前向きな態度はアメリカらしい。そして今回はそれが少し羨ましいなとおもえた。

9・11のテロで仲良しだった父を亡くしたオスカー少年は、ある秘密を抱え、一年以上たったいまも、その死を受け入れられずに苦しんでいた。あるとき、偶然父の部屋のクローゼットで、封筒の中に1本の“鍵”を見つける。これは父が残したメッセージかも知れない―。オスカーはその鍵の謎を探しに、ニューヨークの街へと飛び出していくのだが―

アスペルガー症候群を疑われるほど自閉症傾向のあるオスカーが、父の最期のメッセージを必死に求め街へ出る。生前よくやった謎解きゲームの要領で、科学的根拠に基づいて、資料を整理して、合理的手段で手当たり次第に”ブラック”姓の人物を訪ね回る。
オスカーの悲しい秘密が浮き彫りになるころ、真実は感動に包まれて、彼を喪失から救い出すのだが、その定石どおりを、細部まで作り込んだ見事な画遊びの数々が、まるで翼が生えたみたいに想像の力で補っていった。ただただ、オスカーの秘密には、ほんとうに悲しい涙が流れた...。

美形のオスカー少年はじめ、脇を固めるのはトム・ハンクス、サンドラ・ブロックという演技派な両親の面々。祖母の家に間借りする謎の老人が手助けしてくれるなど、絵に描いたようなシチュエーションなのに、ビジュアルの遊び心がすべてを反故にしてしまうところがすごい。手書きのファイリングブックや、オスカーの趣味で溢れた部屋など、理屈抜きで愛してやまない小道具でいっぱいの世界だった。  (130min)
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by haru733 | 2015-01-17 16:47 | アメリカ映画 | Comments(0)

インターステラー (2014年) 新しい地平へ

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 『2001年宇宙の旅』以来の革新的な世界観。宇宙物理学を駆使した内容は、コンパクトに表現することさえ私には難しい。いつかお気に入りだったN○Kの科学番組を思い出しつつ、未知の観念と圧倒的なビジュアルに興奮する3時間。
砂嵐が町を襲う、終焉間近の冒頭から、もうずっと目を逸らせない。家族の未来を救うため、宇宙船の乗組員となった元パイロットのクーパー(マシュー・マコノヒー)は、いつ帰還できるともしれない旅に出る。
時は重力の影響下、クルーに流れる時間は、地球のものとは違う。愛する家族は、残り時間わずかな地球で、ただただ任務の成功を願い、失望し、祈り、信じることしかできない―

NASAの登場、宇宙空間の静寂、巨大ブラックホール”ガルガンチュア”の造形、5次元空間。あらゆる展開とビジュアルが目を見張るおもしろさ。
SF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』は神で、2001年を越す作品はとうてい出ないとしても、本編がすばらしいのは、フィルム撮影にこだわり、CGを極力廃して作り上げた見事なリアリティ。同時に秀逸な人間ドラマまで描きながら、エンタテイメント大作である万能ぶり。
画面の中心は壮大な宇宙空間で、人も宇宙船も、端っこに頼りなくちっぽけに存在させる、ミクロでありマクロである、人と愛の有り様を巧みに描きとる。
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 穏やかな夜に身を任せるな
 日暮れに老いても、燃やせ
 消え行く光に向かって 怒れ、怒れ


イギリスの詩人ディラン・マーレイス・トマスの詩の一遍が印象的。
21世紀になっても、宇宙にある物質で解明されているのは、全体のわずか5パーセントにすぎない。それでも私たちは、宇宙への情熱を忘れ、夜空を見上げるより進化した手元のスマホばかりを見ている、とノーラン監督は言う。主人公クーパーも言っていた。「昔の人はもっと空を見上げていたものだ」と。
アメリカの月面着陸は捏造―そんな黒歴史まで動員して、ノーラン監督が描きたかったのは、意識を外へ外へ、未知なる宇宙に向かって人類は進化していかなければならない、ということなのだそうだ。

時空を越える作品にロマンはつき物。伏線の多用されたドラマチックな不可思議ストーリーと、立派な科学者へ成長する娘との確執と絆に涙した。
これまで、『インセプション』も『ダークナイト』も、熱狂するほどではなく、ここに感想を認めることさえしてこなかったのに、クリストファー・ノーラン監督はやはりすごかった。と同時に、いかにキューブリックの『2001年宇宙の旅』がずーっと先をいっていたか、ひれ伏したいおもい。しかし、HALという恐るべき人工知能もさることながら、本編の変形式モノリス形ロボは、最高に使えて、最高にシュールに動く。

 劇的な環境変化によって、寿命が尽きかけている未来の地球。新たに発見された宇宙のワームホールを利用し、居住可能な新たな惑星を探すという、生きて帰れるかわからない重大な使命を担う壮大な旅に、まだ幼い子供を持つ元エンジニアの男(マシュー・マコノヒー)と、数少ないクルーが選ばれる。人類の限界を超え、不可能にも思える史上最大のミッションのため、前人未到の未開の地へ旅立った一行は、自らの使命を全うし、愛する家族の元へと生還することができるのか……。 (goo映画より) 

 (169min)
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by haru733 | 2014-12-02 18:08 | アメリカ映画 | Comments(2)

蟻パニック! 『黒い絨毯』『フェイズIV 戦慄!昆虫パニック』

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  近未来SFの『フェイズⅣ戦慄!昆虫パニック』と、南米アマゾンを舞台にした替え玉夫婦のメロメロドラマ『黒い絨毯』をみる。似て非なる、蟻映画ふたつ。
アーティスティックな怪作なら前者。うじゃうじゃの蟻にリアルな戦慄を覚えたいなら後者をおすすめ。


『フェイズⅣ戦慄!昆虫パニック』 (1974年)

 宇宙の怪現象で高度な知能を得た蟻たちと、科学者たちの人類存亡をかけた戦いを描く。
グラフィックデザイナーのソウル・バス監督、劇場未公開作品。
時代特有のローテンポと、派手さのまったくない地味さを補うには足りないアーティスティックな画面。
驚くべきことに、蟻が演技しているらしい。人類との死闘に敗れた仲間たちの遺骸をキレイに並べて弔う蟻。
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緻密に攻撃を仕掛けてくる知能を持った蟻の恐怖が、じんわりと迫る。
砂漠の真ん中、登場人物はほぼ、研究施設の科学者ふたりと、生き残った地元の美しい少女だけ。
緩くて緩すぎてうとうとしてるうち、いつしか『2001年宇宙の旅』を彷彿する、モノリスモドキ、日の出と共に、新人類の幕開けがやってくる。
むずむずする蟻への恐怖はないけれど、異色のビジュアリSFだった。


『黒い絨毯』 (1954年)
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 『フェイズ』に期待したおぞましさを求めて、ずいぶん久しぶりに再見。バイロン・ハスキン監督。
南米アマゾンの上流を開拓しカカオ農園を経営しているクリストファー(チャールトン・ヘストン)の元に、替え玉結婚をして以来、はじめて顔を合わせる妻ジョアンナ(エレノア・パーカー)がやってくる。
しかし男気溢れる俺様男クリストファーは、美貌の持ち主で気位が高いジョアンナになかなか心を開こうとしない。しかも、彼女の結婚が2度目であることを知ると、アメリカに帰るよう一方的に命じるのだが―。

中年童貞夫のこじれっぷりに1時間。蟻パニックは残りの30分だったとは!記憶になくて驚いたけれど、これがどうして、どちらもおもしろい。d0235336_11133872.jpg
もどかしい恋愛模様にじれじれしているうち、アマゾンには数十年ぶりかで、すべてを食い尽くす軍隊蟻マラブンタの大群が黒い絨毯をなして迫り来る。農場を守るべく屋敷に立てこもったクリストファーと、彼と共に闘うと誓ったジョアンナは、夥しい数の蟻との死闘を繰り広げる。
人間さえあっという間に白骨と化す、知能を持ち、川さえ渡る。蟻パニック!『フェイズ』のような高度さはないけれど、大群をなすものはやはり怖い。これだけの蟻さん総出演版で『フェイズ』がリメイクされたときには、是非観てみたい。
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by haru733 | 2014-11-17 23:36 | アメリカ映画 | Comments(0)

河 (1951年) 恋ははしかのようなもの

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 ガンジス川流域のベンガル地方に暮らす、製麻工場の支配人をつとめるイギリス人大家族。その14歳になるナイーブな長女ハリエット(パトリシア・ウォルターズ)と、奔放な18歳の工場主の娘ヴァレリー(エイドリアン・コリー)、アメリカ人の父を持つ混血娘メラニー(ラーダ)は大の仲良しだった。あるとき、メラニーの家に、第二次大戦で片足を失った米人青年ジョン(トーマス・ブリーン)がやってきて、3人はそれぞれ恋に落ちるのだが―。

悠久の河の流れを背景に、慈愛に満ちた家族に見守られながら始まり、やがて終わっていく初恋がまぶしい。戦争で深手を負い自棄になっているジョンの暗鬱も、そんなジョンへの熱病のような恋も、誠実な一家の紡ぐ人の世の永続性を前にしてはささやかなことになる。
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原作者ルーマー・ゴッデンの半自叙伝的な同名小説をもとに、少女らの成長と、同時にアジアの死生観を漂わせた、全篇ベンガルロケの情景がいい。インドの民をとくに魅力に描こうとしていなくても、ひときわ自然の美をたたえていた混血娘メラニーのアイデンティティーに迷う聡明な眼差しが忘れがたい。人種に優劣はないけれど、インド人の顔立ちはほんとうに美しいとおもいます。

監督は印象派の画家オーギュスト・ルノワールの子息、ジャン・ルノワール。大画家の審美眼が、愛すべき”映画”の世界で受け継がれていくことに、深いロマンを感じる。
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アジア映画 /死ぬまでに観たい映画1001本 /『河』―記憶していたキーワード。ほんとうはツァイ・ミンリャンの『河』を観るつもりだったというのは、また別のお話。

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by haru733 | 2014-10-28 00:22 | アメリカ映画 | Comments(0)

ポゼッション (2012年) 呪いの木箱を巡る実録ホラー

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 これを観てアメリカ人はほんとうに怖いのだろうか…真剣に疑問におもってしまった。
西洋文化特有の刷り込みをもってしても、悪魔祓い系でいまなお怖い作品があるのだろうか、つと悩む。

3ヶ月前に離婚した中年男クライド(ジェフリー・ディーン・モーガン)は、週末になると、2人の愛娘たちと一緒に過ごしていた。ある時、次女エミリー(ナターシャ・カリス)が、ガレージセールでアンティークな木箱を手に入れるのだが、それからというもの、箱に異常な執着を示し、やがて凶暴な振る舞いすら見せるようになってしまう。崩壊した家族と、エミリーに巣食った邪悪な何かとの対峙を描く―。
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ゾンビ映画は笑いながら、という見方がある。しかし悪魔ものはどうしてもおもしろくない。悪魔つきは精神の病、そんな観念から抜け出せないせいだろうか。
本編の家族も両親が離婚したばかりで、木箱にこじつけて本当は、感じやすい次女エミリーが心を痛めた結果に見えてしかたがなかった。爪の先ほども恐怖できなくてがっかり。。

まだ観ぬ恐怖を探して、とある『ホラー映画論』の新書を読んで未見のタイトルをメモしてみたりもしたけれど、やはりホラーは悪趣味系かスプラッター系が好きだな。

(92min/アメリカ=カナダ合作)
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by haru733 | 2014-10-07 23:37 | アメリカ映画 | Comments(0)

モールス (2010年) 初恋が来たす道

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 凍てつく鉛色の情景に描かれた、スウェーデン映画の『ぼくのエリ 200歳の少女』は、ピュアな初恋が恐ろしくも切なくて忘れられない。
世界的にヒットしたダークファンタジーをハリウッドでリメイクした本編は、CGの多用で興を削ぎ、前作を超えることはなかった。12歳の少年が下す旅立ちの決断に、おなじような切ない余韻はあるものの、静謐さの失われたホラーでは見所を失ってしまう。
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先日、劇場で観た『思い出のマーニー』もそうだった。仕草や表情で読みとる作業の余地がないのが、さみしい。
解釈できるギリギリまでしか描かないスウェーデン版から、想像の余地を与えないほどわかりやすくなったリメイク版は、味気ない作品に生まれ変わってしまったと言わざるをえなくて。
モノローグで語らせない、想像と解釈の自由が、映画を楽しくすると信じています。

ちなみに、中性的であってほしい吸血鬼の少女アビーに、クロエ・グレース・モレッツちゃんは、ちょっと儚さと陰が足りないかも。まったくおなじ理由でリメイク版『キャリー』への食指が動かないのも、またさみしい。
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by haru733 | 2014-09-02 20:02 | アメリカ映画 | Comments(0)

恋はデジャ・ヴ (1993年) 時間の迷宮で恋の迷路に迷い込む

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  傲慢なお天気キャスターが、聖燭祭で毎年訪れるペンシルベニア州のパンクサトーニーで、同じ日を延々と繰り返す時の迷宮に迷い込んでしまった!
来る日も来る日も2月2日を繰り返す主人公のフィルを、若き日のビル・マーレイが小気味よく演じる。フィルの心境の変化と、それによって変わっていく周囲の人々や恋模様を、事細かに描いた見事な脚本が文句なしにおもしろかった。

ただでさえうんざりな聖燭祭を、延々繰り返すことになってしまったフィルが気の毒。毎朝、グラウンドホッグデーのリポートをやっつけ仕事的にこなして、あとは暴言吐いたり、ずるく立ち回ったり、暴れたり、、さらには自暴自棄になったり。いつしか、ロケに同行する美人プロデューサーのリタ(アンディ・マクダウェル)に心惹かれるのだが、偏屈な性格から、素直に思いを伝えることはなかなかできないのだった。

こんな迷宮に嵌れば、だれしもそうなってしてしまうのか?自棄を起こしたあとは、ありとあらゆる自殺の方法で2月2日の終りを試みる。しかし、目が覚めればリセット。2月3日は訪れてはくれない。
やがて居丈高だったフィルが辿り着く心の佳境は、ステキな人助けの精神、それによってフィル自身が救われていくのだった―。

ひとは変わる。その変わっていく姿が、コミカルな中にとても見事で、どうして優しくなれるのか、どうして人柄はじぶんを助けるのか、とてもよくわかる。
傲慢ちきなままで、心優しいリタはぜったいに愛してくれない。繰り返す時間のなかに、本を読み、ピアノを習い、身につけられた教養や嗜みは、フィルを豊かにする。他者と関わってだれかの為になにかすれば人望が篤くなり、人脈をつくればそのぶんだけ奥行やのりしろが広がる。中身を磨く方法をしる教科書がここにはある。
果てしのない長期戦の果てにたどり着く、彼女への究極の言葉が素敵だ。

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毎回一本の映画を取り上げて哲学する『哲子の部屋』というバラエティがある。本編は、前回取り上げられていた作品で、人気ラブコメを題材に迫ったのは、20世紀最大の哲学者ジル・ドゥルーズ哲学だった。
”なぜひとは学ぶのか”―あたらしい概念がとてもクリアに浸み入る番組。「映画を使って」というところがなにより魅力。
哲学者・國分功一郎さんの語り口はソフトで、人生を楽しくする哲学をいつもやさしく教えてくれる。
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by haru733 | 2014-08-26 21:10 | アメリカ映画 | Comments(0)

トータル・リコール (1990年) 火星に呼ばれた男

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 子どもの頃、最も心奪われた近未来SFといえば『ターミネーター』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でしょうか。
それぞれの第2作目、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(1989年)、『ターミネーター2』(1991年)の登場は、いまでも忘れられない。次々現れる見たこともない世界観にわくわくして、映画好きを加速させていったものでした。
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SF映画の金字塔が立て続けに誕生した当時は、SFXの進化がどこまでいくのか楽しみでしかたなかったし、いつか飽和状態がきて、ハリウッドのネタは尽きて、3D時代がやってくるなんてことを思ってもいなかった。
そんななか、なぜか何度地上波放送されても、決して食指が動かなかったのが、この『トータル・リコール』という作品でした。
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「死ぬまでに観たい映画1001本」にも選ばれている有名作は、しかし、こんなにもおもしろかった!
フィリップ・K・ディックの短編小説『追憶売ります』を基にした内容は、まったく古くなっていず、2012年のリメイク化も頷けてしまう。

(あらすじ) 西暦2084年。火星の夢にとりつかれた一人の技師が、夢による疑似体験を受けようとした事から何者かに命を狙われ始める。今の記憶が植え付けられた物である事を知った男は本当の自分を探すため火星へと飛び立つのだった―。

こうして選んだスチールだけ眺めても、いかにグロくて残酷シーンが多いかがわかるというもの。それもそのはず、ポール・ヴァーホーヴェン氏は、あの影のダーク映画大国、オランダが生んだ監督さん。
大好きなテレビ映画の時間に、『ロボコップ』『トータルリコール』『氷の微笑』と総拒絶していたタイトルがすべてヴァーホーヴェン作品なのがおもしろい。
ちょっと大人になって『ショーガール』と『インビジブル』のころからは、なんじゃこりゃーと悪態つきながら観はじめたことから、子どもにはちょっとドギツくエロかったのだな。いまではすっかりウェルカムになりましたが。

なんもといえない安っぽさのある近未来、火星で出会うキッチュな奇形の人々や、血糊の惨状がいまでもすごい。シュワちゃん演じる主人公が好人物だし、記憶とアイデンティティを求め探す旅から、やがてレジスタンスたちと共に、火星の支配者と闘う壮大なサスペンスアクションへと展開していく脚本がおもしろかった。
『ブレードランナー』の世界観といい、模造記憶を売る<リコール社>の存在といい、原作者ディック氏が生んだプロットが、のちのSF作品に脈々と受け継がれてることを知ると、より映画を見るのが楽しくなります。

 (113min)
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by haru733 | 2014-08-21 15:22 | アメリカ映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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