カテゴリ:日本映画( 98 )

東京難民 (2013年) 社会の底辺へと転落する若者の恐怖

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 大学生の時枝修(中村蒼)は、生活費を工面していた父親が借金を抱えたまま失踪して、突然、大学を除籍になってしまう。アパートからも強制退去、ネットカフェ難民となった修は、日払いのバイトでなんとか食いつなぐのだが、騙されて入店したホストクラブで高額な料金を支払えず、その店でホストとして働くようになるのだった―。

ブルーな気分で130分、辛くて酷なドラマ。社会派に分類しようか迷うけれど、格差社会の歪だけではない、無思慮な主人公が招いた当然の成り行きはシリアスとは全然ちがう。

あれよという間に一文無しになって、ホストになって、あとはボロボロ。修に貢ぐヒロイン(大塚千弘)の心理も、夜な夜なホストクラブに通う家出少女(山本美月)の気持ちも、なにもかも理解しがたく、誰にもさいごまで感情移入は難しかった。ただただ痛々しい、愚かさや都会の孤独以外になにもない。

ホストクラブへ行き着くまえに、その時々に、もっと違う軽率でない別の道があった。どんなに堕ちてどうにか生きれてしまう人の怖さと、それが避けられた不幸であるところに、ため息が出る。

結局、彼に正しい道を教えるのは、日雇い労働者の男と、修を保護したホームレスのおじいさんだった。ありがちで綺麗事がお茶を濁す、とびきり憂鬱なドラマ。
中村蒼くんがちっとも良くなくてざんねん。ハッとして懐かしかったのは、日雇い労働者を演じた小市慢太郎氏のすてきな佇まい。  (130min)
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by haru733 | 2015-02-09 19:02 | 日本映画 | Comments(0)

百円の恋 (2014年) 一子、32歳、独身、ひきこもり。いざ人生のリターンマッチへ

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 これおもしろい。期待した以上。安藤サクラちゃんがすごい!

 自宅にひきこもり、自堕落な生活を送ってきた一子(安藤サクラ)は、離婚した妹が出戻って以来、イライラ募る毎日だ。ある日、取っ組み合いの喧嘩の果てに家を出る決心をした一子は、百円ショップの深夜アルバイトをはじめる。
クセだらけのバイトメンバーにうんざりな一子の、唯一の楽しみは、帰りに通りかかるボクシングジムで、ストイックに練習に励むボクサー・狩野(新井浩文)の姿を覗き見ることだった。
ある日、そのボクサーがお店にやってきて、ふたりは急速に距離を縮めていくのだが―。

実家の弁当屋に寄生する、救いようのなかった三十路の一子が、2時間でモーレツに変わっていくそのパワーにノックアウト。
恋というよりセイアイ的であった狩野との関係が終わって、スイッチがはいったようにボクシングにのめりこんでいく一子がカッコ良かった。これまでしょうがない人生だったぶんだけ、本気出した凛々しい一子は、意思も心も体も強い。こんなステキな安藤サクラちゃんをみるのは初めて。そして、こんな力の抜けてカッコイイ新井浩文氏を見たのもはじめて。映画とはおもえないお似合いなふたりが、言葉少なに無様な生き様を晒し、互いの人生に向き合っていく姿が、なぜか泣ける。

バイト先に集う面々の個性は豊かで、そのほとんどがダメ人ばかり。同僚も、店長も、客も、廃棄弁当をたかる元店員も、底辺で蠢くような彼らは、きっとそのまま変わらない。
スタートは一緒でも、みるみる変貌していった一子は変われた。なにもかも自分次第、意思ひとつなんだと力の湧く物語だ。

無謀な初試合に挑んだ一子の、リング上での壮絶な殴りあいがあまりにもリアルだった。プロと思しき相手を前に、何度倒れても立ち上がるサクラちゃんは本気の形相。痛々しくて観てられないけど、会場に駆けつけた家族や狩野のように、必死に彼女の事を応援して、見届けてあげたくなる。気がつけばヒロイン”一子”の全力のリターンマッチに、涙が出てでてしかたがなかった。

いろんな痛みを経て成長した一子を、そっと出迎える狩野のさりげない優しさ。ふたりが、その後どうなるのかなんてどうだっていい。胸をジーンとさせながらこころからエールを送ったラストだった。

巨匠C・イーストウッドによるアカデミー賞受賞作、『ミリオンダラー・ベイビー』を否応なく思い出す。
当時のヒラリー・スワンクはもう本当に凄まじくすばらしく、作品としても超一級品だったけれど、邦画の小品に滲んだ安藤サクラちゃんの気迫も、それに負けてなかったと、確信持っていえる。

 (113min)
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by haru733 | 2015-02-05 00:00 | 日本映画 | Comments(0)

地獄でなぜ悪い (2012年) 史上最も命がけの映画クランクイン

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 構想から15年、新たに加筆して完成された園子温監督によるコミカルな極道アクション。
「なぜ悪い」ではなく、「なにが悪い!!」と聞こえてきそうな、血飛沫、肉片が乱舞する、ハチャメチャすぎる内容。しかし、映画愛を前面に出す事すことで批判は回避。どんな映画でも撮らせてもらえる、大物ぶりが窺える一本。

ヤクザの武藤組組長・武藤(國村隼)は、娘のミツコ(二階堂ふみ)を主演にした映画製作を決意する。組を守るため殺人を犯し刑務所に入った妻しずえ(友近)の夢を叶えるためだ。映画の神様を信じるうだつのあがらない映画青年(長谷川博己)と仲間たち、拉致してきた青年(星野源)を監督に迎え、スタッフ&キャストは全員ヤクザで構成。対立する池上組(堤真一、他)を巻き込んで、事態はとんでもない方向に展開してゆく―。

ハミガキ粉のCMで子役デビューした過去を持つミツコ。「ギリギリ歯軋りLet´s go♪」とかいう、キテレツなCMソングが脳裏に焼きつく。二階堂ふみちゃんの極道娘っぷりがカッコよくもセクシー。
池田組の城に乗りこんだ武藤組は、己を貫く映画バカたちと協力し合い、生涯最高で最後の傑作を撮る。皆殺しの大殺戮の大盛宴と化していく。すべては、出所間近の愛する極妻・しずえのために―。

これまでほとんど出演作を観ていない長谷川博己という役者さんの弾けっぷりに驚く。舞台で培ったらしい、発声と滑舌をフルに使い、台詞をまくし立てる。育ちのよさそうなこの人は、お父上が著名な建築家で大学教授なのだそうだ。
どこに出ていたかわからない岩下志麻さんなど、キャスティングは豪華絢爛。
遊びすぎているといえ、近頃はク○映画ばかりだぜ!そんなメッセージの色濃いパワフルな園様映画だった。

 (130min)
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by haru733 | 2015-02-01 17:42 | 日本映画 | Comments(0)

ちゃんと伝える (2009年) 余命宣告をうけた父と息子の絆

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 コンスタントに新作を送り出す園子温監督が、『愛のむきだし』の翌年に発表したのが本編。
亡き父とのエピソードを元に映画化したという『ちゃんと伝える』は、同じ監督とはおもえないほど平凡な家族ドラマだった。108分の本編をもう一度観るくらいなら、4時間の大作『愛のむきだし』をもう一度二度と再見したい、そのほうがよほど有意義だと、わたしはおもう。

EXILEのAKIRA氏演じる主人公・史郎は、地元の高校サッカー部で鬼コーチとして知られた父(奥田瑛二)がガンで余命幾ばくかであることを知る。そんな史郎も、胃の痛みを訴えて受けた検査は悪性のガンで、父よりも症状が重いというのだ。父は息子の死を看取ってから、あの世へ行くことになるかもしれない・・・・。
両親にも恋人にも、その事実を告げられない史郎は、いつかちゃんと想いを伝えるために、苦悩しながらも後悔せず生きていくことを決意するのだが―

死にゆく者と、残される者の泣けるドラマが数多くあるなかで、本編にしかないようなトコロはない。難癖ある父と、その息子のわだかまった関係というのも、最近では『流星ワゴン』など在りがちだ。恋人を演じた伊藤歩ちゃんのナチュラルな涙には共感できるのだが、本業を離れ役者としても活躍するAKIRA氏の演技は可もなく不可もなかった。

もしかしたらこれは、ファンタジーだったのだろうか。
生前の約束を守るため、父の亡骸を束の間さらった史郎は、一緒に釣りに行く約束だった湖を目指す。ベンチに並んで腰かけ、父の亡骸とふたりで釣竿を垂らすシーンなど、泣けるどころかかなり滑稽だ。
とても死体らしくない奥田瑛二氏の生物学的矛盾を突き抜けた死後硬直をみせないところに、余計ファンタジックなキレイ事をみる。
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by haru733 | 2015-01-24 12:02 | 日本映画 | Comments(0)

ヨコハマメリー (2005年) ドゥドゥビ ドゥビ ドゥビ ドゥビドゥバー

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 かつて横浜の街角に佇む、ひとりの老婆がいた。その名は”ハマのメリーさん”。白塗りの顔でゴージャスなドレスに身を包み、若い頃は米兵相手のパンパンだった。
1995年の冬、突如姿を消したメリーさんとは何者であったか。過去と、その後の消息を知るわずかな人々が証言した、凄まじい半生とその晩年に出会う、心揺さぶる旅路。思いもよらない切なさに襲われて涙腺が緩んでしかたなかった、珠玉のドキュメンタリー。

人が人目を憚らずに生きていくことはむずかしい。
路上で暮らしていても身繕いを欠かさず、生の施しは受け取らなかったメリーさんは、気味悪がられても排斥されても、気高くあり続けた稀有の人。
いつしか街の景観の一部となっていた彼女の真実の物語を知るのは、今は亡きシャンソン歌手の永登元次郎さんをはじめ、彼女を写した写真家や、かつて賑わったヨコハマに暮らす人たち。

メリーさんの人生を追いながら、戦後の猥雑とした日本の一時代に、男も女も奮闘してきた痕のようなものをみる。ひとりの娼婦の物語であり、日本の戦後史でもあった。中村高寛監督の構成の妙は、無二のものだった。

物語の終わりごろ。映し出される”その後”のメリーさんに、感慨深さがあふれ出る。横浜を離れ、田舎の老人ホームで暮らすメリーさんは、変わらない華奢な体つきで薄化粧。
慰問に訪れた、余命いくばくもない元次郎さんの歌声を、懐かしそうに聴き入る穏やかな表情を見つめていたらとめどなく泣けてきた。
年老いたメリーさんを田舎へ帰すべく尽力した元次郎さんは、撮影中ずっと末期がんを患っていて、彼の魂から湧き出るような名曲「マイ・ウェイ」は、メリーさんの奇妙な人生と合わせて、とてもとても忘れられない。
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(92min)
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by haru733 | 2014-12-31 13:35 | 日本映画 | Comments(0)

愛の予感 (2007年) あなたなしでは生きられない 

d0235336_2214034.jpg 事件や事故が起こったあと、人はどうやって罪と罰を赦し、乗り越えていくのだろう―
主演も務める小林政広監督は、日常場面のシーケンスを徹底して反復させたその先に、驚くほどリアルに心の機微を浮かび上がらせた。
ダルデンヌ作品を彷彿するけど、あのくどさはなく、根源的な物語は、複雑な人間心理を穿って目を逸らすことができなくなる。

 (あらすじ) 中学生の娘を同級生に殺害された父親(小林政広)と、その加害者の母親(渡辺真起子)が、希望をなくして移り住んだ北海道の小さな町で偶然再会して、やがて再生の予感が生まれるのだが―

冒頭とエンディングのみ台詞があり、あとは一切なんの説明も音楽もない。ただひたすら日常描写の繰り返し。
男が寝泊りする旅館の食堂に、女は働いている。鉄工所から帰り、風呂に入り、食堂にやってくる男は、来る日も来る日も、女の作った料理に手をつけることはない。
それでも男は、贖罪の日々を暮らす孤独な女を見捨てておけず、自らもつながりを求めて、不器用に彼女の日常に介入していくのだった。

死んだように孤独な男と女が、償う、赦す、赦さないの次元から離れ、互いの苦しみを分かちながら、かろうじて生きていられるだけの一握りの希望を与え合う姿に胸がふるえる。男が言った「一緒に生きていく資格」なんか、なくていいとおもえるほどに。
説明を一切排除した潔い小品は、深い傷を知っている、大人の胸にこそ、より重く響くだろうか。

 (102min)
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by haru733 | 2014-12-23 00:00 | 日本映画 | Comments(0)

あぜ道のダンディ (2010年) 不器用な男たちのダンディズム

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 妻に先立たれた中年男の淳一(光石研)は、受験を控えた浪人生の長男・俊也(森岡龍)と高校3年生の桃子(吉永淳)と三人暮らし。不器用で無口な父親に、歳ごろの子どもたちは、ろくに口も利いてくれない。淳一の悩みを聞いてくれるのは、たったひとりの親友で、幼馴染の真田(田口トモロヲ)くらいだ。
余命わずかな妻を喜ばせるため、生前無理して買った一軒家のローンに追われる空虚な毎日に、いつしか亡き妻とおなじ胃の痛みを感じる今日この頃なのだが...。

 巧みな語り口、絶妙なユーモア、人物はいつも魅力的。石井裕也監督にハズレなし。
公開当時はピンとこなかったけれど観てよかった、おもしろかった。
父も息子も娘も真田も、みんな優しくて人を思いやれる人。表向きは会話のない家族にも、流れる心はあったかい。わが子のために見栄をはる甲斐性のない父の、弱さをみせないダンディズムがステキだ。
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光石研+田口トモロヲの掛け合いが最高。芝居上手なおふたりの絶妙な会話劇が、本編のすべてといっていい。男同士のかけがえない友情の姿が、笑えて泣けて、とてもうらやましく見えてくる。

たとえば、世代はちょっと違うけど、宮藤官九郎+阿部サダヲのような歳のとり方も良いけれど、淳一と真田のような、少しカッコ悪くてもダンディが似合う歳のとり方のほうが、わたしは好きだ。

すっかり胃ガンであると思い込んで、残される子どもたちのために準備をはじめる不器用な淳一の滑稽さ。それに振り回される、真田のさらなる可笑しさ。どこまでも情けない中年男ふたりから漂う哀愁は、とてもキライにはなれない。
親を自宅介護のすえ看取ったばかりで、つかの間の自由を満喫している真田の日常から。亡き妻が、生前、子どもたちに残したカセットテープをこっそり仏壇の前で聴く淳一が、毎夜発泡酒で酔いつぶれている姿から。思いがけない哀愁が漂いでる。
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上京が決まった子どもたちのために、ないお金を搾り出す淳一の懐具合は寂しい。別れも淋しい。それをみんながよくわかっている。若者たちは希望に溢れ、おじさんたちは留まる、普遍的な構図に涙が流れる。
感謝の気持ちと、別離の寂しさとが入り混じる、二股交差点に差し掛かった人々の、ちょっと素敵なお話だった。

引越しの前夜、深酔いした淳一は幸せな夢をみる。それは、妻がテープに吹き込んだ曲「ウサギのダンス」を一家で歌い踊る幻想的な場面で、とってもいいシーンだ。
一番右の長男役、森岡龍くんは、どことなしか監督に似ていて、真っ直ぐな好青年をまるで分身のように演じていた。

(110min)
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by haru733 | 2014-12-14 21:19 | 日本映画 | Comments(0)

山田真歩サン出演作 『SR サイタマノラッパー2』『自分の事ばかりで情けなくなるよ』

『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー 傷だらけのライム』 (2010年)
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 さいきん気になる女優、山田真歩さんの出演作をふたつ。『SRサイタマノラッパー2』は前作から比べてかなり面白くなっていた!

高校時代に結成したラップグループ5人の面々は、今では散り散り。実家のコンニャク屋を手伝いながら退屈な毎日を過ごしているアユム(山田真歩)は、かつての仲間、ミッツ(安藤サクラ)らと共に、再度一夜限りのライヴを行おうと思い立つ。“伝説のDJ”タケダ先輩の聖地をライブの場所に選んだ5人は、そこで、同じく聖地を探して来た埼玉のラッパー、イック(駒木根隆介)とトム(水澤伸吾)に出会うのだが―。
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さまざまな現実が立ち塞がる、20代後半の女の子たちが、もう一度夢を懸けて挑む復活ライブへの道。そうそう甘くはないリアルに挫けながらも、すべてを受け入れ開放するのに、ラップのリズムは最高に無様で最高にかっこいい!そして口ずさみたくなる楽曲。

特徴ある声音の山田真歩さんが、鬱屈した主人公の葛藤と情熱とラップ魂を、見事な存在感で演じて、とにかくお似合い。
叩きつける音楽と言葉の応酬に予期せぬカタルシスが待っている。
これから始まる選挙戦もラップ調で過ぎていけばいいのに....そんな妄想を頭によぎらせつつ。

 (95min)


『自分の事ばかりで情けなくなるよ』 (2013年)
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 人気バンド“クリープハイプ”のメンバー尾崎世界観の原案を元に作り上げたミュージックビデオ3本に新作「傷つける」を加えて再編集した劇場版。
なるほど、音楽が前面に出た、きっとファンならばたまらない作品。音楽以外の間口から入った者は、置いてけぼりにされながらも、こういう世界はけしてキライではないけれど。

主要人物は、元カレが忘れられないピンサロ嬢。大好きな“クリープハイプ”のライブ当日に残業するOL。一途な想いを爆発させるオタク青年。そして、トレーラーハウスで生活する謎の青年と家出少女の恋……。
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ミュージックビデオならありでも、映画にするには物足りない。こういうの、マスターベーション映画と呼ばれかねない。とくに池松壮亮氏主演の最終話は、ありがちでこそばゆいばかり。
OL役の山田真歩さん、さいきん気になる池松氏など、キャスティングと音楽が良いだけにざんねん。

 (106min)
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by haru733 | 2014-11-28 22:24 | 日本映画 | Comments(0)

凶悪 (2013年) ああ、無常 

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  獄中の死刑囚・須藤(ピエール瀧)の告発をもとに、記者の藤井(山田孝之)は白日にさらされていない殺人事件の究明をはじめる。須藤が語ったのは、首謀者である不動産ブローカー、通称”先生”(リリー・フランキー)と起こした事件の仔細で、藤井は取材を進めていくうち、家庭を顧みることも忘れて事件に没頭していくのだが―。
雑誌『新潮45』の報道をきっかけに注目された、実際に起こった殺人事件の全貌を描くサスペンス・ドラマ。

とにかく”悪”がいっぱい。目に見える悪人だけでなく、借金のカタに家族の命を売る、名もなき市民の悪や、家族をないがしろにする藤井自身の悪。寒々しい画面のなかで、みんなの掌には、隠していてもはっきりとそれが見えていて、しじゅう居心地が悪い。

事件の真相とおなじくらい丁寧に描かれていくのは、藤井と妻(池脇千鶴)との確執。痴呆の母を自宅で介護する藤井は、事件にのめり込むことで、さらに母親をないがしろにする。介護疲れの妻を精神的に追い詰める。やがて互いに暴力を振るうまでなったふたりを横目に見ながら、最後まで上の空で生気のない偽善者夫っぷりが、誰より狂気の似合う山田孝之ゆえ、一等物静かで不気味だった。私的には、寒々しい藤井家のリビングを観てるだけで泣きそう。
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誰にも感情移入できないまま、回想形式で明らかにされていくのは、凄惨な殺人事件の奥に潜んだ、人間心理の闇か。断罪する観客の側にも、正義とはなにかを突きつける。

頑張って悪人を演じる胡散臭いピエール氏と、シュールな悪役が似合うリリー氏と、偏執的でありながら努めて静かな山田孝之氏と、3人揃ってどこまでも弾けないのはなぜだろう。内容の割りに常軌を逸することなく、脱力。
イカレっぷりが凄まじくて実に魅力的だった『冷たい熱帯魚』は、おなじく脚色ありのノンフィクションだった。女ひとり描くのも、黒沢あすかと池脇千鶴では雲泥の差で、”凶悪”を描くには度量が違う。でんでん氏と、吹越満氏の役者根性は、抑えた演技など目もくれないすばらしさ。園子温監督がいかに奇才かを知らしめる。
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上司からゴーサインのないまま、ジャーナリスト魂に突き動かされて事件の裏をとっていく、藤井に待ち受ける境地とは…告発の真の狙いとは・・・。
法廷で放たれる最後の言葉ともども、意外性はなく、どこまでも魅力に乏しかった。

 (監督 白石和彌 /128min)
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by haru733 | 2014-11-17 22:25 | 日本映画 | Comments(0)

夢と狂気の王国 (2013年) ロマン出る国より

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 いつか、そう遠くない未来、ジブリという会社はなくなってしまうのかもしれない。
実感を伴いはじめた寂しさのなかで、ジブリの裏側をほんのちょっぴり覗き見させてくれる、貴重なドキュメンタリー。
ふたりの奇才、高畑勲と宮崎駿、敏腕プロデューサー鈴木敏夫の50年にも及ぶ、愛憎と確執と信頼の歴史。身を切るような厳しい世界の、緊張感に溢れた制作現場から見える景色は、狂気でもなければ続けてこられないと語る。

時は、昨夏。ちょうど『かぐや姫の物語』と『風立ちぬ』の完成へ向けて、ジブリが大わらわなころ。自然光と緑溢れるスタジオで、ひとつの作品が出来上がっていく過程を見つめる。『風立ちぬ』の声優が庵野秀明氏に決定する瞬間などはそのライブ感が、すごい。

驚くべきは、高畑勲監督の超然とした変人ぶりと、この人こそジブリの頂点だったのではないかと気づかされる驚異の存在感かもしれない。『かぐや姫の物語』が素晴らしかったことを、『風立ちぬ』以上に再認識させられるほど。
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宮崎駿監督の佇まいをみればみるほど、いつも、わたしは同じ時代に生きれたことを幸せにおもいます。多感な時期に出会えて、作品を観続けられたこと。刷り込まれた審美眼や観念に、これからも従属していくじぶんが見えるから。

少し前まで、スタジオ・ジブリに立派な後継者が出てきてほしい、そう祈るような気持ちでいたけれど、これを観たいまではもうちがう。奇才といわれる逸材はそうはいなくて、いまのジブリにはいない。『山賊の娘ローニャ』が倒れんばかりにおもしろくないのも事実。
そんななかで、庵野秀明氏は逸材で、宮崎監督らから全幅の信頼と親愛を受けていたことが印象深かった。これからのジャパニメーションをリードしていくのはジブリじゃない。その一握りの”奇才”と呼ばれる人たちなのでしょう。寂しいけれど。

(監督・脚本 砂田麻美/118min)
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by haru733 | 2014-11-04 14:45 | 日本映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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