カテゴリ:ドイツ映画( 11 )

東ベルリンから来た女 (2012年) 東と西、自由と使命と愛の狭間

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 緊張感に溢れたムダのない小品。これ、すごくおもしろかった。
 ベルリンの壁崩壊の9年前。東ドイツの小さな町の病院に、ベルリンから女医バルバラ(ニーナ・ホス)が赴任してくる。秘密警察に目をつけられ、左遷されたバルバラは、常に監視され孤立しながらも気丈に振舞う。同僚の医師アンドレ(ロナルト・ツェアフェルト)は、バルバラの確かな腕と、美しくも陰のあるところにすぐに惹かれていき、そんな彼女もまた、心優しきアンドレの人柄にほだされていくのだが。西に恋人のいる彼女には、国外脱出する運命の日が刻々と迫っているのだった―。

なにが起こるかわからない、ギリギリのバルバラを見守る事しかできない。医師として立派な彼女の生き様に打たれながら、アンドレがするように、西への逃亡計画が辿る道を、ただ黙って静観するだけ。すべてを決めるのは彼女だ。
そんな鉄の女を揺るがせたのは、患者として出会った少女ステラと、実直なアンドレと、医師としての使命だった。矯正収容施設から逃亡してきたステラは、バルバラに命を救われてから母のように彼女を慕い、救いを求める。医療ミスを犯し自らも左遷されてきたアンドレは、気取らない温厚さで、緊張で張り詰めた彼女の心を解かしていく。

情熱的な愛と、献身的な愛。西の恋人と、東の同僚。どちらを選べば幸福な未来があるだろう。
ただただわたしは、あまりにも誠実な同僚アンドレの人柄に、できれば寄り添ってほしいと、切に願ってしまった。
出奔の日、虚をつく出来事のあと。彼女の選んだ道は、胸をふるわす結末へと続いていた。

(監督・脚本 クリスティアン・ペッツォルト/105min)
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by haru733 | 2015-02-01 13:57 | ドイツ映画 | Comments(0)

壮麗な自然と人間の狂気 『アギーレ/神の怒り』

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 16世紀末、黄金郷エル・ドラドの発見をめざし、アマゾン奥地を進むスペイン軍。インディオに襲われ、あるいは熱病で全滅していく一行.....王国を築くという夢にとり憑かれた副官アギーレ(クラウス・キンスキー)の野望と狂気を描く。 (映画大全集より)

はじめてのヘルツォークは画の力がすごかった。背景に目を奪わせる画力映画体系。イタリアのフェリーニ、ギリシャのアンゲロプロス、メキシコのホドロフスキー、日本の黒澤明など、大掛かりなセットにこだわった各国の作品群は映画を観る醍醐味とおもう。
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過酷な自然や熱病、未開の原住民が放つ毒矢を前に、軍はなすすべなく破滅を突き進む。野望と狂気に苛まれたアギーレ率いる面々は、分隊として河を行き、神父も奴隷も女たちも、例外なく次々に命を落としていく。
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切り立つ山を一列になって下る冒頭の長回しから、巨大筏での川下りまで、終始圧巻だった。
なにが待ち受けるかわからないアマゾンの奥地は恐ろしく、輪をかけて、顔力すさましいギョロ目のクラウス・キンスキーは相当クレイジーで不気味なのだった。

(93min/1972年/西ドイツ)
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by haru733 | 2014-02-15 17:17 | ドイツ映画 | Comments(0)

エデンへの道 ある解剖医の一日 (1995年) 体は魂の入れ物にすぎない

d0235336_154884.jpg またひとつすごい作品に出会う。
ブダペストの解剖医師ケシェリュー・ヤーノシュは、生命の華やかさや死後の世界、そして死に向けての準備について揺るぎない視点を持っている。
生死を追求する彼の哲学を、本当の解剖シーンを通して描く《デッド》ドキュメンタリー。

すべての解剖映像がリアル、そのことは、どんな酸鼻を極めたホラー映画をも凌いでしまう。
次々運び込まれる遺体を解剖する馴れた手つきは、まるで屠殺場や肉屋で家畜を屠る手際の良さとなんら変わることがなくて、そこに、無神論者で愛を信じないヤーノシュ医師の、揺るぎない死生観や哲学、仕事への誇りや家長としての私生活が挟まれることで、おぞましいキワモノとしてではない確かな存在の意義が生まれてくる、という異色のドキュメンタリー。

真正面から捉えた人体の解剖工程は、ときに直視できないほどの、常人にははじめてみる世界。
解体のすすむ体はまさに魂のない抜け殻で、血と骨と肉でできたただの物質にすぎないとおもう。だけど“魂”なんて、ほんとうに存在しているのしょうか...
すべては脳が司っていて、肉体が死んだときにすべてが終わる、そんな想念に憑かれてしまいます。
心は脳の内的現象で、身体環境システムの別称(だそう)。だから死後の世界は幻想にすぎず、体は単に遺伝子を乗せたマシンなのかもしれません。
まあ、毎日、生死と向き合っているヤーノシュ医師が言うのだから、“魂は存在する”そう信じましょう。

解剖後は、日本の納棺師のように遺体に衣装を着せ死化粧を施し、尊厳を持って送り出すドクター。ホラーファンや、ともすれば屍体愛好家の悦ぶ系統といえなくはないけれど、真摯に見届けたいヒューマン・ドキュメンタリーでした。

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  (監督・脚本 ロバート・エイドリアン・ペヨ/86min)
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by haru733 | 2013-03-29 21:01 | ドイツ映画 | Comments(0)

コミュニストはSEXがお上手? (2006年)

d0235336_22473556.jpg 東ドイツを舞台にした佳作、『グッバイ、レーニン!』や『善き人のためのソナタ』を観たあとは、こんなドキュメンタリーがたのしいかも。

戦後、東西に分断されたドイツ。
同じ民族でありながら対照的な社会制度の下、東ドイツのほうが性的にはるかに解放されていた実態と、その歴史的背景を、多くの映像資料や識者の証言を基に解き明かしていく―。 (allcinemaより)

経済的に豊かで自由を謳歌していた西ドイツより、性的にオープンで、女性が自立し、早くからピルや妊娠中絶や離婚が認められていたのは東ドイツだった。
理由をきけばナットクの背景がある。

                                     
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社会主義国家の下、自ずと身近なところで快楽の追求が行われた東ドイツ。それしかなかった、ともいえる。
男女間で一番大切なのはセックスだ!と言い切る当時の東ドイツのカップルが、一様に不幸せには見えなくて、あっけらかんとしたところが好ましい。
西ドイツで性の解放が遅れたのは、保守的な教会の力によるのだそうだ。

それでは日本のセックスはどうだろう。
性教育は相当出遅れて、女性の自立もまだまだ。結婚すると男と女は、お父さんお母さんになってしまう・・・ぜんぜんダメな国といえるかもしれない。
たとえ満たされなくても、補うものが多様に存在しているから、別段困ることもなくなおざりにできてしまう。
欧米流男女でいるために、配偶者に対するいろんな強迫観念を植えつけられた気がする。

  監督・脚本  アンドレ・マイヤー (52min)
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by haru733 | 2012-11-21 23:05 | ドイツ映画 | Comments(0)

善き人のためのソナタ (2006年)

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 東西が分断されてから統一されるまでのドイツ映画をみると、ほとんどが西ドイツ映画だ。一介の映画ファンとしてはそんなところに東の厳しい実情など想像していたのだけれど、本編で知った国家保安省“シュタージ”の冷酷さは想像以上だった。なにもかもが国家によって監視・諜報されていた東ドイツの闇。骨太な社会派ドラマ。

局員ヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は真面目でやりての男。彼が新たに命ぜられたのは、反体制の劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)と、その同棲相手の女優クリスタ(マルティナ・ゲデック)を監視することだった。寡黙で孤独なヴィースラーは盗聴を続けていたあるときから、芸術を愛するドライマンらの生き方に共鳴していくことになる。それは抑えきれない感情で、現実に置かれた立場との狭間で苦しむのだが―。
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盗聴する側とされる側。彼らは数奇な運命を辿る。監視対象の生き方に突き動かされる形で、たったひとり体制に背いた男と、それによって過酷な運命を生きながらえた男。そしてふたりの男に愛された女の悲劇。
社会主義国家の非人道的な怖さのなか、ギリギリのところで信念を貫いた人々の誠実さや強さが胸にひびいた。骨太なドラマは、数年先を描くことで、ロマンを添えて幕を閉じる。

ヴィースラー大尉を演じたウルリッヒ・ミューエ氏の、早すぎる死があらためて悔やまれた。盗聴器のヘッドフォンをつけて、セリフ以上に表情で語る名演は、おおきな存在感を放っている。自身も東ドイツの出身で、当時は監視下におかれていたのだそう。
ちなみに、遺作『わが教え子、ヒトラー』もシニカルに時代を抉っていて好きです。

この見事な人間ドラマを描いたのはドイツの新鋭監督フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。なんと当時弱冠33歳で、本編がデビュー作というからおどろき。


(監督・脚本  フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク/138min)
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by haru733 | 2012-10-16 00:00 | ドイツ映画 | Comments(2)

マーラー 君に捧げるアダージョ (2010年)

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 お気に入りのマーラー、ではなく、『バグダッド・カフェ』のパーシー・アドロン監督ということで、手にとってみる。息子のフェリックス・アドロンとの共同監督。マーラー生誕150年、没後100年を記念して撮られた伝記ドラマで、実話ベースのフィクションには、時代を代表する著名人たちが登場、世紀末のオーストリアの雰囲気を再現している。
19歳も歳の離れた美人聡明な妻アルマの不倫に心痛めて、精神科医フロイトの元を訪ねるマーラー。逆光のなかに淡く浮かび上がるセンチメンタルな苦悩は、感情移入とはまた別のお話。間に幾度も挿入される、彼をよく知る者たちによるゴシップ風のモノローグが、伝記ドラマにある真摯さよりも、コミカルさを演出していく。
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舞台上で指揮をする壮大な演奏シーンはほぼなく、妻との関係に悩み、作曲に没頭する、人間らしいマーラーが描かれていた。背景に流れ続ける情感たっぷりのアダージョが、ファンにはたまらないのかもしれない。
音楽映画でありながら、私的には、精神分析医フロイトのカウンセリング場面におもしろ味を感じてしまった。『ヒトラーの贋札』で主人公を演じたカール・マルコヴィクス扮するフロイトの、飄々とした人物像がコミカルさを増している。カウンセリングによって浮かび上がるのは、彼自身は忘却していた、アルマに対する冷淡な仕打ち。妻の不貞に悩む老いて頼りなげなマーラーへの同情は、いつしか、彼によって才能の芽を摘まれた若妻へのものとなっていく。
これでアルマが、もっと淑女ならばよいのだけれど、抑圧される前から気性の荒い魔性の女なので、手放しの同情も感情移入にもならないのだが。フロイトの助けが必要なのは、よりアルマな気がしてしかたがなかった。
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マーラーの音楽にピンとこず、これまで使用されてきた映画タイトルを調べてみたら、忘れてはいけない、大好きなヴィスコンティの『ベニスに死す』があったことを思い出した。しかも、ダーク・ボガード演じる、主人公で作曲家のアッセンバッハは、マーラーをイメージしていたのだった。美青年に心奪われ神経脆弱した中年作曲家が、浜辺に横たわり死化粧で死んでいく耽美さ――。共通するはミゼラブルなマーラー。果たして史実に基づくものなのか、ケン・ラッセルの描いた『マーラー』も観たくなった。


(監督・脚本  パーシー・アドロン、フェリックス・アドロン/102min/ドイツ=オーストリア)

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by haru733 | 2012-04-06 10:30 | ドイツ映画 | Comments(0)

メトロポリス (1926年)

d0235336_22361259.jpg 映画えらびの参考にしている本に、『死ぬまでに観たい映画1001本』があります。
映画創成期から2001年までの、ほぼ一世紀中に作られた作品のなかで、選りすぐりの1001本を紹介してくれる一冊。
こちらも、そこで選ばれています。
 
 映画史初のSF大作で、空想科学の世界を見事なセットと特撮で表現した、サイレント時代の金字塔。
2026年の未来社会、地上の楽園で暮らす支配者層以外の人間はみな、地下の工場で労働者として働いていた。そんななか、労働者の娘マリア(B・ヘルム)の希望ある演説はストライキの気運を生んでいた。偶然、地下に降りた、社長の息子フレーダ(グスタフ・フレーリッヒ)はそんな彼女に恋してしまう。
しかし、社長と科学者が手を組み、実験に成功したばかりの人造人間にマリアの風貌を使ったことで、地下工場はパニックに陥る・・・・。


 ドイツ表現主義の時代の作品。
「カリガリ博士」ほどのねじ曲がった歪な不気味さはないものの、20年代とは思えないほど、スケール大きな近未来の悪夢が壮大に描かれていた。
労働者の娘マリアと、ロボットを二役で演じたB・ヘルムの演技たるや、見事というしかない。怖ろしい形相で皆を先導する、彼女のギャップが一番コワイ。
そして、地下工場の造形がまたすごいのだ。チャップリンの『モダン・タイムス』(1936)は、ここからヒントを得たのでは、と思われるような大がかりなセットと、機械にコキ使われる人間の非力さと虚しさをいっぱいに表現している。

心優しい御曹司とマリアの恋は、定石どおりに実るハッピーエンド。物語ぜんたいも協調という形で収束はするが、文明社会にたいする警鐘は、いまなおを褪せることなく、観る者を不安感に陥れる。すごい映画だった。

フリッツ・ラング監督が同名で90分の作品に作りなおした1984年製作『メトロポリス』も、いつか観てみたい。
彩色されて、現代的音楽がつけ加えられた復刻版というのだから、そそられる。
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by haru733 | 2011-06-15 22:36 | ドイツ映画 | Comments(0)

プリンセス・アンド・ウォリアー (2000年) 出会ったのが運命なら迷わず突き進め

 本編の2年後に作られた大好きな『ヘヴン』を二倍に希薄したような、やや冗長なラブサスペンス。
詰め込み気味の130分が残念ではあったけれど、これを96分という密度の濃い作品『ヘヴン』に昇華していくティクヴァ監督のすごさを再認識できただけでも、観てよかったとおもう。

 《あらすじ》 交通事故に遭い瀕死の状態だったところを、逃走中の強盗犯・ボド(ベンノ・フユルマン)に助けられた看護師のシシー(フランカ・ポテンテ)。その後、再会を果たしたふたりの運命は大きく変わっていく―。

精神病院で働く母のもと院内で育ったシシーは、大人になり、誰より患者たちに慕われる看護師へと成長する。良くも悪くも、病院での生活に縛られていたシシーが、運命の恋によって、はじめてしがらみという囚われの城から抜け出していく物語。それと同時に、過去にトラウマを抱えたゴロツキのボドも、偶然シシーの命を救ったことがきっかけで、新しい人生を歩み始める。やはり、キーワードは偶然と運命。

精神病院が舞台という私的偏愛シチェーションの特異な環境のなかで、よい意味で斬新な映像で見せる恋愛劇は、魅力的な俳優陣に支えられ、時おりハッとするような良い場面があった。
ラストの”逃避行”というキーワードもまた『ヘヴン』へと繋がっていくのです。

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 (130min /監督・脚本 トム・ティクヴァ )
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by haru733 | 2009-07-30 00:00 | ドイツ映画 | Comments(0)

マリアの受難 (1993年) マリアは生まれ変わる

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 愛のない生活と介護に疲れ、自分を解放することなく抑圧だらけの人生を歩んできたマリア(ニナ・ペトリ)が、壊れながらも新しく生まれ変わっていく姿を、回想シーンを織り交ぜて描くサスペンス。

主人公マリアの名は、聖母マリアに掛けたものです。彼女を生んだ後、母親はすぐに亡くなり、父親とふたりきりで育った家に、今は寝たきりとなった父と、カタブツの夫と三人で暮らしています。
人間生まれ変わるには、死ぬほどの苦しみが必要だというけれど、まさしくその苦しみが描かれていく。
デビュー作にして、この視点。20代でこの原案を思いつき、映画にしようと考えたティクヴァ監督は、やはりすごい人だと思えてしょうがないです。

疲れ切った生活の中で、窓から見える隣の男と見つめ合うようになるマリアは、男に救いを見出し、誘われるまま男の家を訪れます。そこは、趣味で集められた膨大な書物に囲まれた異空間で、彼女にとってはなにもかもが新しい。
戸惑いながらも言葉を交わすうち、生まれて初めて、自分の人生を第三者の目から確認するマリアは、あまりの姿に慄き、男の家を飛び出して、衝動的に自宅の戸棚を壊すのでした!
そこには、子どものころから大切な人形へ宛てて認めてきた無数の手紙が。繰り返し、繰り返し・・・何十年にも渡って綴られてきた何百通にも及ぶ思い。時を経て開封してみるマリアには、忘れていた少女のころの思い出や痛みが蘇ります。それは解放とアイデンティティを求めて、大きな変化を遂げていく序章の始まりなのでした。
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マリアのように生きるなんて、同じ女としては辛すぎる。変わり始めたマリアのことを、だから心底応援してしまうけれど、簡単になにもかも上手くいくはずはありません。
抑圧された時は長すぎて、変わる為の犠牲があまりにも大きいのです。悲劇は必然で、ティクヴァ監督らしいグロイシーンを交えつつ、新しい恋との狭間で壊れていくマリアは怖い!

やはりキエシロフスキ作品に似た雰囲気があります。真似ではなく視点や描き方が。まるで『デカローグ』の長い一篇を観ているかのようでした。時間を忘れるほど集中しました。
アンナと隣家の男が惹かれあう様は魅力。後の作品でも、ティクヴァ監督が描く男女はいつも魅力。

孤独なアンナにとって、幼いころ伯母さんに貰ったお人形は、友達代わりであり、愚痴を聞いてくれる相手でした。だから手紙を書き続けた。まるで命を吹き込まれたかのように、アンナと一心同体化していく描写が見事でした。
幻覚に苦しみながら突如彼女が産み落としたのは、紛れもなく新しい自分自身にほかありません。その時の人形の在り方が、とてもいいのです。そのフォルムも。

劇的な最後、希望を失わせない絶妙なニュアンスのラストに、ホッとしました。男がしっかりとマリアを抱きとめてくれて...良かった。

(106min)
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by haru733 | 2009-07-15 00:00 | ドイツ映画 | Comments(0)

ウィンタースリーパー (1997年) 運命のいたずら

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 もっとも敬愛する監督のひとり、トム・ティクヴァによる初期の長編。キェシロフスキの遺稿『ヘヴン』では、運命を感じさせる演出が見事だったけれど、本作でもキーワードとなるのは、やはり運命でした。

 祖母からの遺産である広い家に、友人のレベッカと暮らすローラ。ある夜、レベッカに会いに来ていた恋人マルコの車を、通りがかりの記憶障害の男レネが、酔ったうえの遊び心で乗り逃げしてしまう。しかし、途中で小型トラックと衝突事故を起こしてしまい、やがて意識を取り戻したレネは、事故の記憶を忘れてそのまま帰宅してしまうのだった……。

酔いと出来心から自動車を盗んで、レネはローラたちと繋がり、たまたま父親の運転する小型トラックにこっそり乗り込んでいた娘は、事故で昏睡状態になる。昏睡状態の少女は、看護師であるローラと繋がり、偶然がいくつも重なって、関係は生まれ運命は回り出す。

映画の中心となるのは、対照的なローラとレベッカの恋愛。中盤で結ばれるローラとレネは、理性的でなんでも語りあうカップル。一方、レベッカとマルコは、感情的で喧嘩が絶えず、肉体的結びつきの強いカップル。
かたや精神、かたや肉体で繋がっている、二組の相反する男女の運命は、自然の働きによって自ずと幸不幸が導き出されていくのだからおもしろい。
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事故で娘が昏睡状態となった家族も、もうひとつの運命の物語をもつ。父親は、現場から消えた男を執念深く探すけれど、警察は単独事故だと信じて疑わない。それもそのはず、レネが運転していた車は路肩の雪に隠されていた。気が狂ったと囁かれ、事故のせいで破産してなにもかも失っても、父親は執念の捜索を続けて、ついに探し当てた事故車の持ち主は、もちろんマルコ...復讐は、当然マルコの元に下されてしまう...!
少女の命が決定させられる終盤。希望どおりの未来へと真実は捻じ曲げられて物語は幕を閉じた。それは予想だにしていなかった、後味の良さで。
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「ヘヴン」の究極の愛を希薄したようなローラとレネの愛に注目。ふたりの間で交わされる、連想ゲームのような理知的会話が魅力的。
人物ごとにはイメージカラーがあって、ローラの緑、レベッカの赤、マルコの青、レネの黒と、クリスマス時期の舞台はさらにカラフル。

すでに、のちのティクヴァ作品の片鱗は窺えるものの、やや長く無駄がないとはいえないけれど、見応えのあるサスペンスの小品でした。恋愛もの、人間ドラマとして観るとより楽しめそう。


 (122min /出演  ウルリッヒ・マティス、マリー・ルー・セレン、フロリアン・ダニエル、ハイノ・フェルヒ、他)
 
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by haru733 | 2009-06-18 00:00 | ドイツ映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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