カテゴリ:ベルギー映画( 4 )

聖者たちの食卓 (2011年) みんなで作ってみんなで食べる、古くて新しい食卓の形

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 インド北西部、パンジャーブ州の都市アムリトサル。黄金寺院と呼ばれる”ハリマンディル・サーヒブ”はシク教の総本山であり、毎日10万食のカレーが巡礼者や旅行者のために無料で提供される。
宗教も人種も職業も関係ない、みんなが公平にお腹を満たす、「聖なる場所」の一日を見つめるドキュメンタリー。

ものすごい混沌かつユニティー。大食堂での食事とキッチン裏を一度に疑似体験できてしまう、1時間の小トリップ。
いくつもの大鍋で大量に作られる食事は、猛烈なスケールで完成していく。薪が運ばれ、食材が届き、刻む者、捏ねる者、焼く者、炒める者、配る者、洗う者、無数の分業と信心深さのなせる技。無償の尊い労働力が日に10万食というおそるべきキッチン・システムを成り立たせていく。
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中庭に満ちる人工池の聖なる水はすべてを浄化するように、豊富にふんだんに汲まれ撒かれる。水はまさに生命力。インドの熱気のなかに息づく、人々のパワーが黄金寺院のたった一日の姿にもよくわかる。

来るもの拒まずとはいえ、旅行者らしきひとは意図的にか映ってはおらず、聖地には頭にカラフルなターバンを巻いたシク教徒が多い。本棚の『地球の歩き方』を覗いてみると、信者でなくても天まで昇るような神聖な気持ちになれる場所なので是非訪れたい、とあった。
そういえば、インドの旅のあいだに訪れたヒンドゥー教の寺院は、どこも靴を脱ぎ、灼熱に耐えながら見学したものだった。シク教はさらに厳しく、バッグに靴をしまうことさえ許されない。必ずターバンを巻き、おかわりはいいけど残してはいけない、というのがルール。
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おもしろいのは、食事を待つ人々もお手伝いをすること。家族そろって涙を流しながら玉ねぎを切り、にんにくを剥き、素早い手つきで野菜を刻む。ビニールシートに集められた大量の野菜は、運び人の手によって大鍋に運ばれていき美味しいカレーになる。

しばらくは、仏教的にでも、食べる事に感謝を抱きながら過ごせそう。インドという混沌たる国のパワフルな魅力は、いつかまた旅したいと切実に願わせた。   (65min)
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by haru733 | 2014-11-30 21:44 | ベルギー映画 | Comments(2)

エコール (2004年) 少女たちが暮らす謎めいた学校、イノセンス

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 なんて奇麗な映画。”少女”だけが持つ美しさ、無垢で残酷。少女愛好家の気持ちがわかるといえば語弊があるけれど....少しだけわかる気がする。タブーを至極ピュアに描ききった好編であるとおもいます。
巧みに、メインとなる”少女”が代わって、反抗と順応の流れを繰り返していく。塀の中の学校に閉じ込められた”つぼみ”たちの反撥と諦めを、凛とした美意識のなかに描いたミステリー。

原作は1890年に完成した、ドイツの劇作家フランク・ヴェーデキントによる『春のめざめ』。実際、こんな学園が存在したのだろうか。存在するとして、彼女たちの行く末はいかに。
おなじ原作で同時期製作された『ミネハハ』は、総じて評価が低く、『エコール』では曖昧に留めたところまで描いているという。靄に包まれた真相は、観ずにいて知らない方がしあわせなのかもしれない。せめてこの美しいイメージだけは穢さないように。
それでも知りたいと思うとき、例えばせんじつ読み終えた本で知った17世紀フランスの劇作家モリエールによる『女房学校』の内容は、ヒントとなるのだろうか。
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学年ごと決められたカラーのリボンを結び、純白の制服に身を包んだ少女たち。バレエ、棺桶、森、幼い死、四季の移ろい―揃えられた映像のアイテムがいちいちこころを捉える。
毎年、年長者のなかから、バレエの素質と容姿で選ばれたたったひとりだけが、未来ある塀の外へと出ていくことができる。祈るようにしてその時を待っていても選ばれなかった5人は、女へと脱皮したいま、いったいどこへ行くのだろう。
無防備な笑顔のその先に待ち構えているものを想像するとき、チクっと切ないため息が出たのはわたしが女だからだろうか。男子禁制を解かれた後は、処女性を守ってくれるものなどもうなにもない。

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塀の外、5人がまず手にする自由な外の世界、目にする年頃の青年たち。
街角で当たり前のように戯れる彼らがいるのは噴水で、それが男根の象徴におもえて仕方なかった。

監督はルシール・アザリロヴィック。
『カノン』『ミミ』でタッグを組んできたギャスパー・ノエとは公私にわたるパートナー。
なるほど、『カノン』もいかがわしき少女愛の物語であった。

(121min/ベルギー=フランス合作)
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by haru733 | 2013-11-19 22:10 | ベルギー映画 | Comments(0)

トト・ザ・ヒーロー (1991年) トマ老人の愛おしくも滑稽な一生

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 ベルギーの寡作の監督、ジャコ・ヴァン・ドルマル氏による出色のファンタジー。
ストーリーはややこしい。赤ん坊のころ、病院でお隣の息子アルフレッドととり違えられたと信じるトマが、間違った人生を送ることになったのは彼のせいだと思い込み、養老院を抜け出して復讐を企てるところから物語ははじまる。
トマ最後の行動と並行するように、少年期の思い出や、生涯愛し続けた姉の記憶が交錯して描かれていく一風変わった復讐劇。
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現実と回想と空想が入り混じりながら、一度きりの人生をフイにしてしまうような、運命の恋を縦軸に。それは近親相姦的であってもちっともかまわない、大好きなキェシロフスキの『ふたりのベロニカ』を思い出すような。
飛行士だった陽気なパパが死に、最愛のアリスも目の前で事故で亡くなり.....失意のトマはますます思い込みの激しい内向的な大人に育っていった。生涯アリスの面影を追いながら、ほんとうは自分はお隣の子供だと信じて、いつまでも幼馴染のアルフレッドを憎んできた。
そんな二人は人生の節々で再会を繰り返す。青年期のトマが愛するのは、アリスの面影を見た人妻で、彼女の夫はアルフレッドで.....なんとも宿命的な再会を。

ファンタジック、ノスタルジック、絡まり合うディテール、見事なデッドエンド。とにかく回想シーンが珠玉。
陽気なパパがアリスのラッパに合わせて歌うシャンソンの『ブン』はしばらく忘れられそうにない。
またひとつ、お気に入りの作品が増えた。

     


(92min/ベルギー=フランス=ドイツ合作)
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by haru733 | 2013-02-11 21:55 | ベルギー映画 | Comments(0)

出発 (1967年)/フローズン・リバー (2008年)

d0235336_23175356.jpg 『出発(たびだち)』

 イエジー・スコリモフスキ監督初期のモノクロ作品。監督復帰してからの2本と比べてみると、作風の違いがよくわかる。まだ若い感性はゴダールを彷彿とさせるヌーヴェル・ヴァーグの匂いがした。

(あらすじ) ブリュッセルで美容師見習いをしているマルクはカーレースに熱中する19歳の青年。オートレース出場に備えて、店主のポルシェを無断で借り、夜の町を走り回っている。ある夜、ミシェールという娘に恋をした彼は、彼女と共にレース用の車を手に入れるべく様々な手をつくして夜の街を彷徨うのだが・・・・。

カーレースにしか生きがいを見いだせない青年を、ジャン=ピエール・レオが素のようにして演じている。若さを持て余した気だるいモノクロの青春は、澱が沈んだような息苦しさで、わたしにはちょっと苦手。どちらかというと『アンナと過ごした4日間』の、不器用で倒錯した恋のほうが好きだ。
ヌーヴェル・ヴァーグ一連の作品を愛するオシャレさんにとっては、たまらない傑作なのかもしれない。

 (製作国 ベルキー/90min)


d0235336_2318337.jpg 『フローズン・リバー』 

 サンダンス映画祭でグランプリを受賞したヒューマン・ドラマ。
 カナダ国境近く、先住民モホーク族の保留地を抱えるニューヨーク州最北部の町。ふとしたことから出会った2人のシングルマザーが、それぞれに抱えた苦境を乗り越えるため、密入国を手助けする違法な仕事に手を染めていくさまを、リアルに描き出していく――。

ケン・ローチ監督の『この自由な世界で』をふと思い出す。イギリスとアメリカの違いはあれど、シングルマザーの逼迫した厳しい状況や、やがて犯罪に手を染めていくまでは似ているといっていい。ローチ作品の母親には嫌悪を覚えたのだったが、本作の主人公たちには体温を感じて感情入しながら見ていた。
護身用の拳銃を持ち歩くような国で、密入国者を運ぶ緊迫感と、凍った川に車を走らせる恐怖・・・それでもお金がなければ、夜逃げした夫の代わりに育ち盛りの子どもたちを食べさせていくことはできない。母親は、似た境遇にあるモホーク族の女に言われるがまま、犯罪の手助けをしてしまうのだが、前金を支払った新居を失うのを恐れ、いつしか危ない橋を渡りつづけるようになる。
常に緊迫感漂うなか、決定的な転落をみせるラストは容易に想像できる。それでも人を想う温かさがあるから、その先にはほんのり光が差している。悪ガキと付き合いながらも心の根の優しい長男と、まだ幼い無邪気な次男は、母を頼り慕っている。母親は子供たちをこころから愛している。罪人を人の道へとかえすのは、やっぱり愛であり、誰かに必要とされることなのだろう。
最悪な出会いから、いつしか人種を超えて友情を抱くようになるシングルマザーふたりの関係にも救われた、小粒な良作品だった。

 (製作国 アメリカ/97min)
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by haru733 | 2012-08-28 00:00 | ベルギー映画 | Comments(3)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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