カテゴリ:ギリシャ映画( 2 )

こうのとり、たちずさんで (1991年) 一歩を踏み出せば異国か、死か

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 ギリシャにはテオ・アンゲロプロス氏という名匠がいた。”20世紀三部作”の最後となる三作目を撮影中、交通事故に遭ってこの世を去ったのは2012年のこと。
どこにもない映像世界は、いつも憂鬱なグレー色。誰にも真似できない詩的な語り口が胸をざわつかせるけれど、長い歴史に裏打ちされた言葉にならない包容力があった。もう新作が観られないとおもうと寂しい。

本編も難民たちの物語である。
番組作りのため北ギリシャの国境地帯にやってきたテレビレポーター(グレゴリー・カー)は、10年前に失踪した政治家(M・マストロヤンニ)を見つけて追跡調査をするうちに、ひとりの〈少女〉と知り合う。ふたりは運命的に愛を交わす。
やがて、町は年に一度の集会に沸き、越境してきた民族同士が河を隔てて互いの無事を確かめ合う儀式がはじまる。今年は結婚式も執り行われ、花嫁はあの〈少女〉で、対岸に暮らす少年が花婿だ。
しかし、幸福に満ちる国境に銃声が轟いて、混乱のなかを、記憶をなくした政治家は、ひとり再びレポーターの前から消えていなくなるのだった―

自国の歴史や難民問題をテーマにしたアンゲロプロス作品は、たしかにどれも雰囲気がよく似ている。
SFもホラーも笑いもないかわりにあるのは、象徴的な瞳に焼きついて離れない絵画的シーンの数々。
複雑な社会背景と、見事な沈黙に心砕いて解釈をがんばる前に、一作見るごと、忘れられない幻想的なカットが記憶に刻み込まれていく。画面に一目惚れさせる人。

 (143min/ギリシャ=フランス=スイス=イタリア合作)
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by haru733 | 2015-01-29 12:21 | ギリシャ映画 | Comments(0)

その男ゾルバ (1964年)

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 原作を読んだは初夏だった。
実在の人物をモデルにした不朽の名作はとっつきやすく、豪快で鮮烈なゾルバの生き様に心が動いたっけ。
ギリシャの名匠マイケル・カコヤニス監督がアメリカ資本で描いた本作は、全編英語にかかわらず、個性的なギリシャの風土に満ちた佳作。

譲り受けた炭鉱を再開するためクレタ島へ赴いた作家のベイツ(アラン・ベイツ)は、そこで楽天的で壮健なゾルバ(アンソニー・クイン)という男に出会い、やがて堅い友情で結ばれていく。古い慣習の残る島で作家は、人を愛し、人生を謳歌するゾルバから、生きることの喜びや悲しみ、だれしも免れることない死についてを学ぶ―。


クレタの民が繰り広げる忌まわしい風習の数々を中和するように、バックに軽妙な音楽が流れている。その不思議な音色は、ゾルバ唯一の旅荷サントゥーリではなく、ギターのような形をした民族楽器ブズーキによるものなのだった。
陽気な音楽に合わせて幾度も描かれる踊りは、民族ダンスのシルタキ。これがまた堪らなくいい。
気持ちが高ぶると言葉が言えなくなり、憑かれたように踊りだすゾルバが、砂浜でベイツと肩を組んで踊りだすラストシーンは映画史に残る名場面だとおもう。

名優アンソニー・クインは原作のゾルバそのもの。
大食漢で大酒飲み、女たらしで放浪癖あり、頑強で寛容なゾルバは、破天荒だけれど憎めない。本当の意味で人生の本質を生きている。
彼を愛した元高級娼婦(リラ・ケドロヴァ)の最期さえ、そのゾルバに看取られるという安らぎひとつで、哀れな死をほんのわずかでも免れるのだ。
d0235336_11184030.jpg反面、生真面目な作家のベイツは、美しい未亡人と恋に落ちてついに結ばれるのだが、、彼女に想いを寄せていた青年が海に身を投げたことで、未亡人は村八分にされた挙句、刺し殺されてしまう・・・・。
ギリシャ悲劇を思わせる未亡人の死に様は、堅い友情で結ばれているゾルバとベイツの振る舞いの違いを際立たせていく。

厳粛な教会と、古い慣習ののこるギリシャ、クレタ島。
主演4人の素晴しさもさることながら、異色な風土と、詩的でダイナミックな映像美が魅力。全財産を投じた炭鉱のケーブルが自壊する壮大なシーンから、浜辺のふたりのダンスに至るシーケンスが秀逸で、とても忘れられない。
原作に劣らない本編は、2時間20分とすこし長いのが玉に瑕。

ゾルバのように人生を生きられたら幸せだろうか。本が友達のベイツ的自分の半身はゾルバを憧憬するけれど、ゾルバにはなれない。因われているものがおおすぎて。



 製作・監督・脚本/  マイケル・カコヤニス
 原作/  ニコス・カザンザキス
 音楽/  ミキス・テオドラキス

 (142min/アメリカ=イギリス=ギリシャ合作)
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by haru733 | 2012-11-18 22:56 | ギリシャ映画 | Comments(0)


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by haru733

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