カテゴリ:メキシコ映画( 3 )

闇のあとの光 (2012年) 魔術的リアリズムに溺れる、鮮烈の映像美

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 メキシコ発、奇妙なアートフィルム。よくわからないけれど、こういうの好き。
メキシコの田舎町に暮らす四人家族の物語は、冒頭から不気味な赤いCGの動物が現れて、不穏な展開を呈していった。

プロローグの長回ですでに惹きつけるなにかがあるのです。刻一刻と表情を変えていく夕暮れのなか、カメラは牧場を駆け回る一家の幼い娘の目線で景色を捉えていきます。とても愛くるしい少女なのに、胸がざわざわしてきて、遠くの空で轟く雷鳴が、静かな興奮状態を作り上げる。この空の色の美しさひとつとっても、アーティスティックで蠱惑的。

いつかの『ユフス三部作』を思い出す、自然の音に、瑞々しい描写の数々。ほぼ全編、ビジュアル・エフェクトの効いた不思議な気分になる映像が美しく、水を意識して生命力に溢れています。
なぜか意味もわからず挿入される、ラグビー・シーンや、乱交部屋や、日常を綻びさす赤い動物の謎。戸惑うけれど、アートフィルムというだけで、ヘンテコを楽しめてしまうのでした。

ちょっぴりウトウトしかけたころ、つと目を開けば、なぜか夫婦は乱交部屋にいる。かなりびっくりして、以降ふたたび眠くなることはなかった。ド肝を抜かれるクライマックスまで、美しくも悪夢的な世界観に身を委ねるのみ。

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余談ですが。映画館へ行く朝、ミニシアター2館のプログラムを見比べながら、一等見たいとおもったのは、この『闇のあとの光』でした。それは、かってに全幅の信頼をおく蠍座館主さんの解説に惹かれたのでもあります。
そして鑑賞後、ヘンテコなもの見たーと心ざわざわ帰路につく道すがら。最新のプログラムに目を通していたら、もう一度この作品について書かれた箇所を見つけたのです。

いまアートシネマは危機的状況にあります。人びとはわかりやすい映画しか見たがらなくなり、劇場も恐れをなして番組に入れようとしなくなっています。そのうち日本国内でアートシネマは輸入すらされなくなるでしょう。大げさでなくそれくらい商売として成りたちがたくなちました。 (一部省略)
『闇のあとの光』はへんな映画ではありますが、決してつまらなくはない。一度見たら忘れられない鮮烈なシーンをいくつも持っています。好きな映画だけをかける、お客の動員を第一に考える、とは少しばかり異なる動機で蠍座は映画を選んでいるとわかっていただければいいのですが。
 (Vol.217 蠍座通信より)

月曜日、14:50分の回に、観客はなかなか多く、アートシネマを好んで見たい、需要がまだあることの証明のようでうれしかった。きっとそう簡単には無くならないぞと。こういう作品を選びかけてくれる館主さんがいて、考えながら見る映画がすきな観客がいるかぎり。
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(115min/メキシコ=フランス=ドイツ=オランダ合作)
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by haru733 | 2014-07-17 01:36 | メキシコ映画 | Comments(0)

エル・トポ (1969年) 伝説のカルト西部劇

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 ことし初めの映画日記は、一年のはじまりにも相応しい、映像的隠喩に満ちたヘッド・ムービーの巨匠ホドロフスキーによる異色西部劇。
性愛と野心が渦巻く前半部はドンパチの絶えない序章。怪しげな地底人たちの中で覚醒する、二十年後の後半部は、聖人のように生きて死す、悟りの境地を描く。エログロナンエンスな、血と暴力の物語を楽しむもよし。とっぷりと啓発気分に浸るもよし。聖と俗を並べて扱いながら、ビジュアルからは想像しえないほど、そこには聖の勝る世界があって、崇高さがとても得難い傑作です。

冒頭、見初めた女マーラィ(マーラ・ロレンツィオ)と旅立つために、幼い息子を捨ててしまうエル・トポ。
そのマーラィにそそのかされて、4人の高潔なガンマンたちと決闘を繰り返す彼は、東洋哲学者、超能力者、自然主義者、砂漠の聖者を次々と卑劣な手段で倒していく。しかし、途中で拾った女ガンマン(ポーラ・ロモ)とマーラィが同性愛に堕ち、裏切られたエル・トポは銃弾に倒れてしまう....。
ここまででも十分に見ごたえある物語は、さらに後半部へ休むことなく突入。
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二十年後。地底で目覚めたエル・トポは、そこに暮らすフリークスたちに命を救われ、神として崇められていたことを知る。やがて、小人の妻を娶り、愛し、生まれ変わった彼は、地底の人々を救うために尽力することになるのだが―。

地底と地上とを結ぶトンネルを掘りすすむエル・トポは、さらに試される試練に出会う。むかし捨てた息子が、教会の神父になって偶然目の前に現れたのだ。じぶんを捨てた父を憎み、復讐心に燃えていた息子の変化と、されるがままになるエル・トポの諦念が、悉くおもしろい。変わり果てた父をみて、やがて息子はトンネル掘りや資金作りのフリークショウまで手伝うようになっていくのだから。

十牛図か、錬金術か、という悟りの道をいくエル・トポが苦行と善行を重ねていくその姿は、すでにキリストのようで、生き様も死に様も、きっとホドロフスキー氏の理想像であるのかもしれない。おなじく憧れ羨ましくおもう観客を、一緒に連れて行って体感させてくれるのは、ヘッド・ムービーの高僧だからこそのなせる技。
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やがて、無我の境地でやり遂げた役目虚しく、トンネルが貫通した暁には凄惨な悲劇が待っている。トンネルから次々と町へ出ていった地下のフリークスたちは、パニックになった住民たちに皆殺しにされてしまうのだ...。命を賭して復讐を遂げたエル・トポの死は、まさに壮絶の一語。

「血は生命力である」
「私は普通じゃないものを愛した。異形は自然の想像力が生んだ、遺伝子の想像力だ」

そう話すホドロフスキー監督は、異形の人々を見世物以上のれっきとした存在に押し上げた。美も醜も、聖も俗も、善悪も、両の極端を並べた作風は、刺激的な観念世界と無二の感性を約束してくれる。わたしにはずっと敬愛すべき才能であり続けるとおもいます。
 
 (123min)
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by haru733 | 2014-01-07 12:28 | メキシコ映画 | Comments(0)

ホーリー・マウンテン (1973年) 一大センセーションを巻き起こした伝説のカルトムービー

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 夥しい観念に彩られた濃密な世界。怖いもの見たさのカルトムービーとはいえ、カタルシスがあり最高におもしろかった。

醜悪で退廃した7人の権力者たちが、究極の知識と永遠の命を求め、錬金術師に導かれて、聖なる山=ホーリー・マウンテンを目指す―

“ヘッド・ムービーの高僧 なんていうネーミングがぴったりのホドロフスキー監督は、心理学と哲学を専攻していた大学時代、『天井桟敷の人々』に感銘を受けて演劇を志したのだという。カルトの奇才も、バティストのパントマイムに打たれたのだと思ったら、フシギと親近感が湧いてくるというもの。チリからパリへ、パリからメキシコへ、アメリカで挫折し、いままでに生み出した作品はわずか4本。

異形の人々、血、悪夢、エロス、すべてが盛り込まれた痛々しく生々しい2時間。理解不能の冒頭から、やがて悟りへ向かう物語性がはっきりしてくると、ほんとうにおもしろかった。禅や仏教要素が強くなるのも日本人には向いているのかもしれない。
冒頭から登場するキリストのような男は、街をさ迷ううちに錬金術師の元へ辿りつき、権力者たちと共に旅に出る。権力者7人それぞれが、ロシアの神秘主義や、イスラム教やユダヤ教など、なんらかの宗教の投影であったけれど、キリスト似の男が、唯一、修行に脱落したのはすごい寓意であるとおもうな。辛辣。
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観たこともないシーンの連続だったけれど、スウェーデンのロイ・アンダーソン監督などは、この人の影響をかなり受けているような気がする。『散歩する惑星』とか、欧米人が観念的に宗教を描くとこうなるものなのかもしれない。
時おり、本気ですか?と訊ねたくなるようなシーンもいっぱいで、ラブマシーンとかシュールでうけるし、錬金術師がウンコを金に変えちゃうところもすごし。でも一番は、夥しく重なり合った磔刑像のハリボテだと確信します。この絵を撮るために、どれほどの予算と手間をかけたのだろう。細部までこだわり尽くした映像ばかり。

7人の面々は無事悟りの境地へと至ることができたのか―結末はお楽しみに。ラストシーンはどう判断していいものやら、、有無をいわさず現実へ引き戻されて拍子抜けするけれど、悪夢と現実が一気に結ばれるのはありだと思えた。 

監督・脚本/ アレハンドロ・ホドロフスキー
製作/ アレン・クライン
撮影/ ラファエル・コルキディ
音楽/ アレハンドロ・ホドロフスキー  ホラシオ・サリナス
出演/ アレハンドロ・ホドロフスキー  ホラシオ・サリナス  ラモナ・サンダース
アリエル・ドンバール  ホアン・フェラーラ

(カラー/116分/アメリカ=メキシコ合作)

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by haru733 | 2009-11-04 00:00 | メキシコ映画 | Comments(0)


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