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ぼくを葬る (2005年) 自らの死と向き合い過ごす最期の時間を静かに見つめる

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   パリで活躍する気鋭の人気ファッション・フォトグラファー、ロマンは、ある日撮影中に突然倒れてしまう。診断の結果は末期のガン。化学療法を拒んだ彼の余命は3ヶ月と告げられる。折り合いの悪かった家族には、このことを秘密にすると決めたロマン。一方、恋人の青年サシャには、冷たく別れを告げてしまう。そんな中、唯一心を許す祖母にだけは自分の苦しみを素直に打ち明けるのだが―。

主人公が命の期限を知り、自らの死と向き合う。テーマはありがちだけれど、こういう形で死を扱うフランス映画は珍しいような、そんな印象を受けました。『まぼろし』から、死をめぐる三部作として撮られた2番目の作品。 これからあと一作、死をテーマにした作品が生まれるということでしょうか。

主人公ロマンはゲイ。彼の家族はむかしから不仲で、愛情足りなく育ちました。ゲイであることを隠さないながらも、どこかで負い目を感じ続けてきたロマンは孤独で、余命わずかと知っても家族に一切を知らせません。
唯一心を開けるのは遠方に住む祖母(ジャンヌ・モロー)だけ。彼女には真実を話し、別れの挨拶と「愛してる」を遺すのですが・・・

自分が死ぬとき、ロマンのようにはひとりでいられない。恋人の青年にさえ真実を告げず別れて、自分を孤独へと追いやっていく痛々しい死に様です。
少年の頃から男の子が好きだった・・・そんな負い目や懐かしい記憶と共に、彼が見たくてやりたくて求めてるものは、自らの孤独を埋める過去を遡る行為のようでした。過去を埋め、傷を癒して、ほんとに求めてる場所へ行くのが、一番楽かのように。

死に様がキレイすぎるとか、ガンに対するリアリティがないとか、当然のように感じますが、このいいとこどりな上手さがフランソワ・オゾンという人の味なのかなと思います。精度が高く、うつくしく、上手い。だけれど、これまで観たどの作品も、心かき乱されたり鷲掴みにされたりすることがありません。本作では、直接死を扱っているけれど、それでも淡々とした感情が湧くに留まりました。

演じたメルヴィル・プポーは素敵です。そつなく上手い。だんだん痩せて、最期には頬もこけ、髪を刈って丸坊主にしたロマンが、いかに死を見つめたか、プポーの演技でしんみり感じとることができました。
一番の見所といっても過言ではない祖母とのシーンでは、大女優ジャンヌ・モローが情感たっぷりに演じています。 たったひとりでも、理解者がいたら寂しくない。ロマンは孤独だったけど、祖母の愛に満ちていたことが、ひとりで死ぬ勇気にもなっていたのかもしれません。

そして、代理出産の父親に突如なるエピソード。彼にとって見ず知らずの女性とセックスして子孫を遺すことは、どんな意味があったのでしょう。自分の分身を遺す。それは生きた証を得ることだけど、それは愛のない他人という間柄であったからこそ、できた偶然の出来事。愛する人の間にではないことも、大きなポイントであると思います。

カメラマンでありながら、家族を一切撮らなかったロマンが、家族にファインダーを向け始める。この変化は、弱いけれど心に残ります。 写真はいつか、なにも知らされなかった家族の目に入るのでしょう。けれど、一切を見せずに物語は終っていく―。
ちなみにこの作品も、また、海が行き着くところ。

 (監督 フランソワ・オゾン/カラー/81分)
# by haru733 | 2007-08-20 00:00 | フランス映画 | Comments(0)

永遠(とわ)の語らい (2003年) 地中海文明を巡る遥かなる時空の旅

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  2001年7月、ポルトガル。父親に会うため地中海を巡る船旅に出た母娘は、ポンペイ、アテネ、イスタンブール、エジプト、様々な国の人々と出会い、その道中で人類の歴史と文化の足跡に触れる。
ある夜、2人はアメリカ人の船長(マルコビッチ)から、船内での夕食の席に招かれる。そこでは、異なった国籍を持つ3人の女性たちが、それぞれ自国の言葉で話しながら楽しく人生を語り合っていた―。

まるでドキュメンタリーのように、母娘はたくさんの国を巡り、西洋の歴史を見つめながら語り合う。一緒に旅をしてるかのように穏やかな前半部、母が語って聞かせる伝説は、幼い娘とのふつうの会話で、字幕を追うのがちょっと大変なくらい。飾らない船旅の途中で出会う人々との会話もドキュメンタリーのような趣。

ある夜、船長の友人であるギリシャ、イタリア、フランスの著名な女性達に出会い、度肝を抜かれる衝撃のラストシーンが待っている―。
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彼女達が話すのはそれぞれの母国語で、このシチュエーションが好きだった。相手の言ってる事をちゃんと理解して、それに答えるのは自国の言葉。船長の英語と、主人公のポルトガル語を加わえれば5言語が飛び交うことになる。日本語しか話せない私には、とんでもなくややこしいと思える、まるでイリュージョン。

人と人との出会い、旅を通して繋がりあう様がステキだった。そのなかで印象に残ってるのは、「英語が世界を支配した―」「誰もギリシャ語を話さない」、そんな言葉たち。
自国の言葉を大切にしていきなさい、そんな監督のメッセージに聞こえてくる。会話シーンが活きているのは、多言語での会話によるのでもある。
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終盤、母娘の存在を忘れたかのように、船長と友人たちの会話シーンばかり続いたあと。
このままどうなっていくのか、想像も出来ない未知数なたのしさの先に、なんともショッキングなラストシーンが待ち受ける...!
ハリウッドにはない、すごい作品。

 (監督 マノエル・ド・オリベイラ/ポルトガル=フランス=イタリア合作/95min)
# by haru733 | 2007-07-24 00:00 | 多国合作映画 | Comments(0)

ふたりの5つの分かれ路 (2004年) 別れに至る2人の5つのシーン

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 たった今、離婚の成立したジルとマリオン。ふたりのターニングポイントとなったある時々のエピソードを、時間を遡りながら描いていくミステリアスなラブストーリー。

恋人同士とは少し違う夫婦間の関係。肌を重ねあうべきときそうしなかった二度のエピソードは、始まりで嫌がる妻を無理矢理抱いた、夫ジルの行動への伏線となっていきます。
過去に遡ったある時のディナーと、さらに新婚初夜のエピソード。重なりあうべき時そうしなかった、ほんの些細な二つの出来事―。現実でも、小さなすれ違いの積み重ねが、夫婦間に修復不可能な溝を芽生えさせるのかもしれない。
二つ過去に遡った出産の時のエピソードは、女としてはかなり衝撃でした。突然の妊娠異常で、マリオンは未熟児を出産するのですが、支えになるどころか彼はその場から逃げ出してしまう...

やるせないのは、瑞々しい出会いが冒頭の離婚へと至ること。恋の移ろいやすさが虚しくて脆くて、ふたりにはなにが欠けていたのだろう。。思いやりか、一度ずつ犯した過ちか、本当は愛ではなかったのか。
ある一点では上手くいっていても、次の時点でもそうであるとは限らない、人間関係の不安定さに、絶対はなにだと改めて思う。自由な社会になればなるほど離婚が増えるけれど、夫婦関係を保っていくのは、けっこう大変なことなんじゃないだろうか。
自分の結婚生活を、見直してみたりする。


†   †   †

監督 フランソワ・オゾン
脚本  フランソワ・オゾン  エマニュエル・ベルンエイム
音楽  フィリップ・ロンビ
出演  ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ  ステファン・フレイス  ジェラルディン・ペラス
    
# by haru733 | 2006-08-17 00:00 | フランス映画 | Comments(0)

ウイスキー (2004年)

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 ウルグアイの靴下工場を経営するハコボの元に、ブラジルから、疎遠になっていた弟エルマンが訪れることになった。ハコボは、従業員マルタに夫婦の振りをして欲しいと頼む。偽造夫婦のもとに、エルマンが加わり、嘘の生活が始まるのだったが―。

 サンダンス映画祭出品作、カンヌなどで二つの賞を受賞しています。
日常のなかにある非日常を、淡々と静かに描く。主要登場人物は中年男女の三人だけで、カメラは固定。
なんとも地味なのに目が離せなくなるのは、役者さんの魅力と、飾らなすぎてよりリアルに映る、普通の人々の生活が面白いから。

靴下工場経営者のハコボ(右)と従業員マルタ(中央)は、互いに独身。 長年一緒に働いてきて、遠慮はあるけれど気の知れた仲です。ある日、ハコボの弟エルマン(左)が久しぶりにウルグアイに帰ってくることになり、ハコボはマルタにおずおずと、偽の妻役を演じてくれるように頼むのです。
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認知症の母親を亡くなるまで一人で看病し続け、今にも潰れそうな小さな工場を切り盛りしてきた兄の人生と、外国で大きな靴下工場を経営して、家族もお金もある弟の人生はあまりに違う。
全てにおいて負けている弟への、羞恥心や、嫉妬心、憎しみの気持ちはとても複雑。少しでも良く見せたくて、偽の妻を用意したけれど、、善良な人間ゆえ、当たり障りの無い態度で感情を表に表わすことはない。
だからこそ、観る側は、その心の内を想像して余計に感情移入していくようでした。

数日が過ぎたとき、話の流れで一緒に小旅行へ出ることになってからは、ささやかなロードムービーの始まり。
ここから、ただの経営者と従業員だったふたりの心境が、少しずつ変化していく様が楽しめます。陽気な弟エルマンになんとなく惹かれていくマルタと、嫉妬を覚えるハコボの微妙な関係に注目です。

あえて劇的な何かがなくっても、映画は楽しいもの。淡々とした日常や、その中にある非日常を観ることの醍醐味が味わえます。
毎日は同じことの繰り返し。その日常が破られて、またそこへ戻った時、何かが変わってしまっている…
監督が意図して残した曖昧な結末と、その余韻に、じっくり浸かれる良い作品でした。

ちなみにタイトルの「WHISKY」は、写真を撮る時に言う言葉。日本の「はい、チーズ」です。
作中で何度かこの「WHISKY~」という言葉がでてきます。作り物の笑顔と一緒に。


監督  ホアン・パブロ・レベラ 、パブロ・ストール                   
製作  フェルナンド・エプステイン             
編集  フェルナンド・エプステイン             

  

         
# by haru733 | 2006-05-23 00:00 | ウルグアイ映画 | Comments(0)


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by haru733

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