アメリカン・スナイパー (2014年) イラク戦争とはなんだったか

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 劇場で観てからやや経つけれど、ひとこと残しておきたい作品。

 イラク戦争に狙撃手として派遣された殊部隊ネイビー・シールズの、故クリス・カイルの自伝を基にした人間ドラマ。
敵の間では“悪魔”と呼ばれ、18万の懸賞金を懸けられた、アメリカ軍史上最強の狙撃手クリス(ブラッドリー・クーパー)は、度重なるイラク派遣に徐々に心を蝕まれていく―

これまでもイラク戦争を描いた作品は撮られてきた。戦争映画は、どれも極限状況やPTSDを描くし、愛する家族から離れていく兵士の心の闇も捉えてきた。だから、そこに既視感は否めないのだが、これは何んの戦争かと改めて問うとき、かのイラク戦争であることがクリアに実感されてくる。

狙撃手は、常に引き金を引く判断を迫られる。恐ろしい戦場にいて、彼自身が18万の懸賞金が懸かる標的だった。心の病ははじめから時間の問題だったが、それでも4度に渡って戦場へ行き続けた。
そうしてアメリカの英雄は、最後の派遣から無事に帰還したにもかかわらず、38歳の若さでこの世を去ってしまう...。
戦争映画のもうひとつの側面であるPTSDは、どんな戦争にもある闇の部分。クリス・カイル射殺事件は、被害者だけでなく加害者にとっても、戦争が引き起こした悲劇だった。帰還兵の自殺者も含めて、それはすべて戦死におもえてしかたがない。

巨匠クリント・イーストウッドは、人生の最晩年にきてまだ衰えることをしらないのだな。
エンタテイメント性を忘れず、2時間越えをまったく飽きさせない。完全にモードを操られることが一時期くやしい時期もあったけど、いまでは敬愛する映画人のひとり。

 (132min)
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# by haru733 | 2015-03-06 09:53 | アメリカ映画 | Comments(0)

市民ケーン (1941年) 奇跡のような名作

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 なんてすごい映画。当時25歳のオーソン・ウェルズが、製作・脚本・監督・主演をみずから務めた処女作。
実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルに、超一級の風刺で描くミステリアスなドラマ。

荒廃した大邸宅で”バラのつぼみ”という最後の言葉を残して、新聞王ケーンは死んだ。彼の死を報ずるニュース映画が長々と映し出されたあと、物語ははじまる。
社の経営陣は、ケーンが遺した”バラのつぼみ”の意味を求めて、生前の彼をよく知る5人の人物を歴訪する。やがて立ち現れてくる、ケーンの真の姿とは―

構成そのものが、現代映画となんら変わらない。これが75年前に作られたものだなんて、にわかに信じられない。時間軸の交差、回想形式のおもしろさ、カメラワーク、違和感のない老けメイクまで、すべてにおいて驚異的だ。

破産寸前のインクワイアラー紙を買いとり、あれよという間に軌道に乗せる。偏った紙面で、姑息な手段もいとわず、ニューヨークで一番の新聞社へと育て上げるのだった。
やがて政治の舞台に踊りだし、知事選勝利まであとわずかに迫ったとき、オペラ歌手スーザンとの不倫を報じられ、落選。はじめて人生の挫折を味わったケーンは、この時から滑り落ちるように、冒頭の荒廃へとひた走っていく。
エゴで満ちた人生に、なにがあったのか。
幼い頃、両親から引き離されて深い孤独のなかで育ったケーンの、栄光と挫折の生涯を、回想形式で紐解きながら描いていく。

野望でギラギラした男から、愛情表現さえまともにできない惨めな男まで、奇才オーソン・ウェルズは撮り分け、演じ分ける。
しかも、キーワードの”バラのつぼみ”には、実在の新聞王ウィリアム・ハーストを揶揄する秘密まであるという。
本編では、田舎に暮らしていた懐かしい思い出の橇に描かれていた絵が”バラのつぼみ”だったというオチだが。実際は、新聞王が愛人の秘部をしてそう呼んでいると知ったオーソン・ウェルズによる悪意ある設定だという。

得てして、新聞社による妨害行為や脅しに屈して、上映を禁止する映画館が続出。当時、興行的には大失敗に終わったにもかかわらず、いまだに傑作映画ベストテンに登場する高評価ぶりで、愛されている。
ほんとうにものすごくよくできた作品だった。
にもかかわらず、理解できないほどの睡魔に襲われて、途中なんど挫折しながら見終えたか知れない。
すごくおもしろかったのに。

 (119min)
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# by haru733 | 2015-02-23 09:49 | アメリカ映画 | Comments(0)

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015

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 はじめての『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』へ。メイン会場であるアディーレ会館ゆうばりには、大勢の観客や関係者が集まってすごい熱気です。
25周年を迎えた映画祭が、年に一度、過疎の町に人を集める立派なお祭りとして定着している。目の当たりにすると、こころからいいなとおもいます。
夕張のゆるキャラ、メロン熊くんが、迫力の襲い芸でお出迎え。ガウガウされるとまぢおっかない。


こんかい鑑賞したのは『インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門 プログラムD』でした。


d0235336_2063928.jpgd0235336_2065134.jpg『カー子のスワローハット』 大岩智佳監督 2014 日本/28min
『Green Glows』 白田明日香監督 2014 日本/20min


d0235336_207381.jpgd0235336_207228.jpg『恵まれたマシーン ⅴ』 ジョシー・マリス監督 2014 アジアプレミア/12min
『真田志郎、5年生になる』 ダニエル ・トイヴォネン監督 2014 ワールドプレミア/30min


個人的に気に入ったのは、アニメーション作品の『Green Glows』でした。不思議な姿をした動物たちが、うつくしい森で、吐息のように生きては死んでいく―。ささやくようなオリジナル言語のやわらかさとはうらはらに、残酷で、儚い。とても惹かれる世界でした。
驚いたのは、いかにもアニメ怪獣大国日本らしい、軽いノリの『真田志郎、5年生になる』という作品。なんと、山田洋次監督の映画に憧れて留学してきたという、フィンランド人学生の卒業製作。客席に笑いが起こる遊び心満載な作品で、日本人の感性をよく捉えていてびっくり。
『恵まれたマシーン ⅴ』は創世記からとどまることを知らない人類殺し合いの歴史を、風刺を込めて現代に至るまで描いたおもしろくも考えさせられるアニメーション。台詞がないのが魅力。
『カー子のスワローハット』だけが全編こそばゆくて、どうも苦手でした。「新潟市水と土の文化創造市民プロジェクト」だそう、なるほど。

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上映後は、監督たちのトークライブを。撮影の苦労や裏話をきいて、会場をあとにしました。


ここまでやってきたからにはと、迷わず寄り道した先は。もちろん『幸福の黄色いハンカチ』―思い出ひろば。来たことあるような、ないような。
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喫煙所を囲む、すりガラスの風情が懐かしい。むかしの家はみんなこんなガラスだった。

立て付けの悪いドアをこじ開け、長屋のなかへと入ると、そこは一面黄色のメッセージカードで埋め尽くされた、一見怖いくらいの空間が広がっています。(ローカル表現では、幸福駅のよう)

高倉健さんが亡くなって、はじめて、テレビの追悼放映で観た『幸福の黄色いハンカチ』はおもしろかった。
大御所たちの、うら若きころ。ロードムービーが映し出す、懐かしい北海道各地の風景に目を見張りました。
さすが山田洋次作品は、いつだってコミカルでユーモラスで、それでいて切ないぬくもりがあります。敬愛すべき名匠です。
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帰り際に、メッセージカードを書きました。

「健さん、ありがとう。映画ばんざい。」 

これからもいろんな映画に出会って、泣いたり笑ったり叫んだりすることがすごく楽しみになりました。わたしは本当に映画が好きなんだ。
いつか、もうすこし近い場所で関わっていけるように、この一年をがんばろう。
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# by haru733 | 2015-02-22 21:41 | 鑑賞 | Comments(0)

『麦ふみクーツェ』 いしいしんじ

 はじめて『麦ふみクーツェ』を読んだとき、”いしいワールド”にすっかり嵌ったものでした。
おすすめして読んだ家人が、たいそう面白がっているのをみてじぶんも再読したくなって、いま久しぶりに手にとっています。
なかなか長編が書かれなくなり、短編やエッセイや旅本のようなものが多いこのごろのいしいさん。
とりあえず出たばかりの『京都ごはん日記』を買ってあるので、ちかく読みたいとおもうけど、薄気味の悪い奇妙な長編物語の新作を、また読みたいものです。

いつか書いた『麦ふみクーツェ』の感想を、ふるいブログからお引っ越し。


                      
*



 すごくおもしろかった、はじめてのいしいしんじ作品。曖昧で、やさしくて、滑稽で、あったかい。
人生の真実が背筋を伸ばしてちゃんとあり、あらゆる音に満たされている。

音楽家を目指した少年が経験する、デタラメだけれど温かい、人生賛歌の成長物語。
数学教師の父と、ティンパニストの祖父と、3人で暮らすぼく。
みんなは祖父の真似をして、ぼくのことを「ねこ」と呼ぶ。

おじいちゃんが束ねる街の音楽隊、港町をおそった災難、用務員さんの事故死、「ねずみ男」の最期・・・・・
ゆっくりと時間軸が前後して、さまざまなことが起こる。
つらいことも、嬉しいことも、とびきりおかしなことも、愛おしい出来事も。出会った人々や事件をとおして、ぼくは成長していく。

普段、当たり前のように感受している、音や色を、無性に愛おしくなる本だった。
人ごみの喧しさも、色の氾濫も、うちゃっておくにはもったいないほど大切なものに思えて、読んでいる間じゅう、いつもより五感を研いでいた気がする。

登場人物は、みんなが魅力的な変人で、しかもなにかしらビョーキ。
背骨の湾曲したひと、盲目のひと、‘ねこ’は体の大きくなりすぎるビョーキだし、数学者の父は心の病だったと思う。
だれもがビョーキ持ちなんだけれど、それぞれの歴史が滲む人生は、誰ひとりとして捨てておけないいいものなのだった。おかしすぎる言動がこころをくすぐる。

私的に好きだったのは、チェロの先生と、その娘のみどり色と、ボクサーのおじさん。
茶色いもやもやのつなぎを着たチェロの先生に、ぼくがはじめて弟子入りした日。初対面の先生の台詞がいい。

「さあ、やれよ」
「部屋をかたづけてくれよ」
「床もふけよな」
「そうだな」
「それはすごいな」

一読すると、ものすごく可笑しなメチャクチャ会話なのに、そのうち潔いこの人の生き様に打たれてしまう。
そういったことの繰り返し。だれもが魅力的なのだ。
清々しく潔く生きる人々の浪漫がいっぱいに広がる。
ゆくゆく恋人同士になるのだろう、”みどり色”という名の女の子とぼくの関係も、またたのしい。

ぼくにしかきこえない、かわいたクーツェの声。あれは、いったいなんだったのだろう。麦ふみの音は。
無表情なそれは、もしかしたら、父と同じように心を病んでいた、ぼくの幻聴だったのかもしれない。
出会いと成長と共に、ぼくは治っていって、たしかな幸せの音を聴いた。
読後感の爽やかな幸福さがとてもよかった。  (2010.8.29)

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# by haru733 | 2015-02-22 16:00 | | Comments(0)


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