シャトーブリアンからの手紙 (2013年) 真実の物語を記憶しよう

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 むかし、『ブリキの太鼓』という奇妙な傑作があった。そのフォルカー・シュレンドルフ監督の、10年ぶりの新作は、抑えた筆致で描いた戦争ドラマ。

1941年10月20日、ナチ占領下フランスで一人のドイツ将校が暗殺される。ヒトラーは即座に、報復として、収容所のフランス人150名の銃殺を命令する。人質は主に政治犯から選ばれ、シャトーブリアン郡の収容所でも、23人の人質が選ばれた。その中には、占領批判のビラを配って逮捕された、まだ17歳の少年ギィ・モケもいた―。

『ブリキの太鼓』のようなキッチュな奇怪さは無い。チラシにあるとおり、感傷の入る余地のない透徹した演出が潔い。ドイツ人であるシュレンドルフ監督が、フランスを舞台にフランス側の悲劇を綴ったことに意味がある。
彼らが残す遺書となった手紙の実物や、まだ存命の当事者たちが、ラストで登場してくるわけでもない。手の込んだ感傷には寄らず、真実を淡々と描くだけ。
ドイツとフランス、理不尽な命令に板ばさみとなる官と軍の面々と、人道的に動く事など不可能だった時代を通して、二度と命令の奴隷になってはならないと、強く現代に語りかける。

突然、死を宣告された23人の人質たちが、いかに不当な銃殺に立ち向かったか。感情移入すれば恐ろしい。ただ、それにもかかわらず、彼らの側にだけいるのではない。突然、銃殺する立場となった一介のドイツ兵の恐怖や、150人の死に煩悶する暗殺実行犯たち、馬鹿げているとわかりながら何もできない軍人らの苦しみを、ドイツとフランスの双方から達観する。

報復が報復を生むことは、いまでも変わらない。平和な世はなかなか訪れない。和解する難しさは深まるばかり。せめて、日本くらい、死ぬ気で平和主義を守り通してほしいけれど、戦争の記憶が世代ごと薄れていることは、戦争を知らないわたしにだって見ていてわかる。

終戦後、ナチ抵抗の悲劇の象徴となったギィ・モケの名前は、パリ地下鉄の駅の名前になったそうだ。 
(フランス=ドイツ合作/91min)
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# by haru733 | 2015-02-11 16:20 | 多国合作映画 | Comments(0)

鉄くず拾いの物語 (2013年) 生きることを闘う

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 むかし10年以上前、『ノー・マンズ・ランド』という、奇妙で不条理なすばらしい反戦映画があった。
監督はダニス・タノヴィッチ。『美しき運命の傷痕』以降、ひさしぶりの新作となった本編は、母国ボスニア・ヘルツェゴビナを舞台に、実際のロマの家族が体験した貧困と差別が生む悲劇を、当事者本人に演じてもらう手法で描いた、まるでドキュメンタリーのようなドラマ。

ナジフとその妻セナダは、二人の娘たちに囲まれ慎ましいながらも幸せな生活を送っていた。ナジフは拾った鉄くずを売って一家の生計を支え、セナダは3人目の子をお腹に身ごもっている。そんなある日、ナジフが帰宅すると、セナダが強い腹痛を訴え横になっていた。翌日、病院で診てもらうと、5か月の胎児は腹の中で死んでいて、すぐにでも手術を受けないと命に関わる状態だというのだ。しかし、貧しい鉄くず拾いで保険証を持たない夫婦には、980ボスニア・マルク(500ユーロ)の大金はとうてい用意できないのだった。手術をしてもらえないセナダを抱え、一家は路頭に迷う事になる―

保険制度がとりあえず平等にある日本人目線では、とんでもないお話。ひとりの人の命を前に、お金を持ってこなければ手当てしませんと、突っぱねられる恐怖。
倹しくお隣さんと助け合いながら暮らしてきた一家を救ったのは、結局、心ある内政機関でもロマの協会でもなく、身内から借り受けた保険証だった。

車の貸し借りから、子守まで、ご近所同士の助け合い精神に、目から鱗がおちる。弟だろうが隣人だろうが、無用な気遣いいっさいなし。古き良き日本で、お隣から醤油を借りるような気安さがいい。それはロマという流浪の民特有のものかもしれないけれど。だって、都会の大病院に温情は皆無だった。

民間兵士として闘ったナジフはいう。紛争後、国から保障されたものはなにもなかったと。景気は悪く、失業率は高く、現実は厳しい。
極寒のただ中、廃車をバラした鉄くずだけではどうにもならない窮地に、愛くるしい娘たちがただ元気に笑っていることは救いだった。だけど、「めでたし、めでたし」で終わらない場合の結末は、想像に難くない。
そしてたぶん、そんなことが実際に起こりうる母国の闇と、世界へ向けた警鐘のため、タノヴィッチ監督はひさしぶりにメガフォンを取ったのかもしれない。飾らない真摯なドラマだった。

 (74min/ボスニア・ヘルツェゴビナ=フランス=スロベニア合作)
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# by haru733 | 2015-02-11 13:39 | ボスニア=ヘルツェゴビナ映画 | Comments(0)

東京難民 (2013年) 社会の底辺へと転落する若者の恐怖

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 大学生の時枝修(中村蒼)は、生活費を工面していた父親が借金を抱えたまま失踪して、突然、大学を除籍になってしまう。アパートからも強制退去、ネットカフェ難民となった修は、日払いのバイトでなんとか食いつなぐのだが、騙されて入店したホストクラブで高額な料金を支払えず、その店でホストとして働くようになるのだった―。

ブルーな気分で130分、辛くて酷なドラマ。社会派に分類しようか迷うけれど、格差社会の歪だけではない、無思慮な主人公が招いた当然の成り行きはシリアスとは全然ちがう。

あれよという間に一文無しになって、ホストになって、あとはボロボロ。修に貢ぐヒロイン(大塚千弘)の心理も、夜な夜なホストクラブに通う家出少女(山本美月)の気持ちも、なにもかも理解しがたく、誰にもさいごまで感情移入は難しかった。ただただ痛々しい、愚かさや都会の孤独以外になにもない。

ホストクラブへ行き着くまえに、その時々に、もっと違う軽率でない別の道があった。どんなに堕ちてどうにか生きれてしまう人の怖さと、それが避けられた不幸であるところに、ため息が出る。

結局、彼に正しい道を教えるのは、日雇い労働者の男と、修を保護したホームレスのおじいさんだった。ありがちで綺麗事がお茶を濁す、とびきり憂鬱なドラマ。
中村蒼くんがちっとも良くなくてざんねん。ハッとして懐かしかったのは、日雇い労働者を演じた小市慢太郎氏のすてきな佇まい。  (130min)
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# by haru733 | 2015-02-09 19:02 | 日本映画 | Comments(0)

冬篭る

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 せっかくの休日を、眠ってすごしてしまう今日このごろ。ソファーのうえで本を読みながら、気がついたら寝てて、目を開いても、読書を再開したらまた寝ているのでした。
ことしは、ひさしぶりに雪祭りにでも、出かけたいものです。あしたは映画館へいこう。

篭ってばかりではと、せんじつ、藻岩山に登りました。冬山はじめての姉を誘って。
とても寒い日だったけど、すっきり市内が見渡せました。山頂のフェンスには、型で作った雪だるまが並んでいます。観光客へのおもてなしかしら。
あったかいコーヒーをテイクアウトして、会話がたのしい一日でした。


*


勇気のある人間が賢くなり、賢い人間が勇気をもってはじめて、人類の進歩というものが感じられるようになるだろう―

 来月公開される邦画の原作を文庫で6冊読み終えました。『飛ぶ教室』からのこの引用が、今回のイスラム国人質事件と絡んで気に止まります。
登場人物たちと同世代のわたしには、バブル崩壊間近の時代背景がことに懐かしいのでした。前編・後編あるものは、映画の体裁としては苦手で、DVDを待つことになりそうですが。
いまはケストナーの『飛ぶ教室』のほうがちょっと気になる。
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# by haru733 | 2015-02-06 00:00 | 日常 | Comments(0)


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