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悪魔憑き考 『汚れなき祈り』『エクソシスト』  

 悪魔憑きを猜疑の目でみてしまう、カトリシズムとは無縁なわたしでも、本当に怖かった悪魔祓い映画があった。それは1973年製作の『エクソシスト』。懐かしい傑作ホラーを再見しながら、現代にあってなお悪魔憑きに振り回される、欧米社会に浸透する暗をおもう。

『汚れなき祈り』 (2013年) 
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  ルーマニアの孤児院で育った後、国を出てドイツで働くアリーナ(クリスティーナ・フルトゥル)は、おなじ孤児院で一緒に育ったヴォイキツァ(コスミナ・ストラタン)に会うために、ルーマニアを訪れる。
唯一の友・ヴォイキツァと一緒にいることを願っていたアリーナだったが、修道院の暮らしで神の愛に目覚めたヴォイキツァは、今の生活に満足していて、院を出ることを拒むのだった。彼女を取り戻そうと次第に心を病んでいく彼女が、思いもよらない悲劇を引き起こしていく―。
2005年に実際に起きた事件を元に、人里離れた修道院で悪魔祓いの犠牲となった2人の若い女性の悲劇を描く。

凍えそうな冬の修道院。神父を”お父様”と慕う、清貧なシスターたちは互いに助けあい暮らしていた。その静寂をもろくも崩した、アリーナの異質さにヒリヒリする。
彼女に信仰はなく、あるのは一途にヴォイキツァを求める想いだけ。それは同性愛的ですらある。
情緒不安定な彼女の振る舞いに、秩序を失っていく修道院の面々は、狂い出した歯車をとめるどころか加速させながら、悲惨な結末へとむかうばかり。

怖いのは、理解できないものを排除する心理。心の病かと疑いつつも、良かれとして行われる儀式のほう。
病院を追い出されてしまったら、あとは宗教に頼るしかない思考停止が、集団ヒステリーを生む悪循環に寒気がする。外からみれば、悪魔憑きとは、こんなに滑稽であるのに。

神経質な顔のアリーナと、いかにも可憐なヴォイキツァ、対照的なふたりの女優さんが印象にのこる。ムンジウ監督は『4ヶ月、3週と2日』でも、対照的な女性を配置して、こころの機微を穿っていた。
つい10年前に起こった出来事とは、にわかに信じがたい。ヴォイキツァは、何もできずに親友から引き離され、ただ見ているしかなったけれど、いまも神に仕えて、いまも拘束されたまま死んでいったアリーナの無念を祈っているのだろうか。

 (監督 クリスティアン・ムンジウ /ルーマニア=フランス=ベルギー合作/150min)


『エクソシスト ディレクターズカット版』 (1973)
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 オリジナルに10分ほど追加された2000年公開バージョンで再見。もう、文句なしにいま観てもおもしろい。
 人気女優(エレン・バースタイン)のひとり娘リーガン(リンダ・ブレア)は、あるときから、不可思議な言動を繰り返すようになり、エスカレートさせていく。彼女の肉体に憑依した悪魔と、悪魔払いに立ち上がったエクソシストの恐怖の死闘を描いた大傑作。

愛らしかった12歳のリーガンが、あれよというまにおぞましい存在へと変わるショック!奇行を繰り返し、暴力を振るい、猥言を吐き散らすさまは、とても子どもとは思えない、リンダ・ブレアちゃんの怪演が最高。
他の悪魔憑き映画と一線を画すのは、なんといっても、終始、心身の病を疑う視点から描かれる展開。脳のカテーテル検査はじめ、あらゆる先進医療に頼って、心の病を疑い、それをリアルな映像でみせる説得力。
なにをやってもリーガンの様子は酷くなるばかりで、万策が尽きたところでようやく疑心暗鬼でたどり着くのが、悪魔祓いの儀式なのだった。

教区の神父カラス(ジェイソン・ミラー)は、貧しいスラムの人々をおもうように救えず、老いた母の介護もままならず、信仰を揺るがさせている。その不確かさがいい。当初、悪魔祓いの儀式にさえ懐疑的なのだ。
イラクから呼び戻された、学者でありカトリック神学者でもあるエクソシスト、メリン神父(マックス・フォン・シドー)と悪魔の対決を目の当たりにして、はじめて、想像を絶する世界を信じ、対峙していくことになる。

いまとなっても演出にまったく古臭いところがない。えぐいシーンのオンパレード。語り草となっている、リーガンの蜘蛛歩きと、ゲロシーンなど、まさに悪魔憑き映画の金字塔だとおもう。
ラストで、なんの抵抗もなく、悪魔の存在をちょっとだけ信じさせる、不気味な幕引きがすきだ。


1976年にドイツで、悪魔憑きを法廷で争った事件を基にしたのが、法廷サスペンス映画の『エミリー・ローズ』(2005年)。
昨年観た『ポゼッション』は、2004年に起こった出来事を基にしていたらしい。
こうみても、欧米では悪魔がとり憑くという概念がまだ存在している。それは日本にいると、とても奇妙な現象で、馬鹿げているけれど、概念の刷り込まれる恐ろしさは、宗教に限らず目に見えないとても恐ろしいことにちがいない。

 (監督 ウィリアム・フリードキン/アメリカ/132min)
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by haru733 | 2015-03-07 13:16 | ルーマニア映画 | Comments(0)

U Want Me 2 Kill Him ユー・ウォント・ミー・トゥ・キル・ヒム (2013年)

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 2003年に英国で実際に起きた事件の映画化。
 高校生のマーク(ジェイミー・ブラックリー)は、インターネットを通じて知り合った女性レイチェル(ジェイミー・ウィンストン)に好意を抱く。チャットの世界に没頭するうち、とんでもない情報操作によって殺人まで犯していく、青年たちの危ない心理を描いたサスペンス。

一度も会ったことのない相手に本気になれる気が知れない。とはいえ、好きになった人から、いじめられっこの弟と仲良くしてあげてと頼まれたら、クラスにいる弟ジョン(トビー・レグボ)に目を掛けてあげるようにはなるだろう。ふたりは気が合い、急速に友情を深めていった。
ある日、チャットルームからレイチェルが消え、ジョンから“姉が死んだ”と告げられるマーク。アパートの屋上からの飛び降り自殺だった。
恋人のケビンからDVを受けていたことを知るマークは、ケビンの仕業だと思い込み復讐を計画するが―
しかし、おそるべきは、その先。
ケビンを囮に、テロリストを追っているという英国諜報部MI5のエージェントがマークに接触してきて、本物であることを確信した彼は、ケビンではなく別の人物の殺害依頼を受けてしまう。その標的とは、継父がイスラム過激派であると噂される、親友のジョンだった....。

架空の出来事を信じさせてしまう、凶器としてのネット。そこはウソで溢れている。無思慮な一面を持つマークは、だけど激しい怒りで判断力を欠き、英雄になれるというMI5からの言葉を鵜呑みにしてしまった。
親友を殺す、という...信じられない行動にまで出て。

ネタバレになるので割愛しつつ。マークが掛かったのは、あまりにも姑息な、もっとも身近な者が仕掛けた驚くべき罠だった。英国諜報部なんて存在しないのだ。
地味な本編の強みは、ただひとつこれがノンフィクションであるという事実だ。

ちなみに。スチール奥のおしゃれパーマの青年がマーク。彼は決行前に頭を刈るのだが、イケメンな雰囲気は髪型から漂っていたようで、坊主になったマークをすぐに認識する事ができなかった。持論では、ほんとうにカッコ良い人は、坊主も似合う。

 (監督 アンドリュー・ダグラス/92min)
 
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by haru733 | 2015-03-07 09:55 | イギリス映画 | Comments(0)

メビウス (2013年) 断ち切れないもの

評価の大きく分かれるキム・ギドク監督最新作。
おぞましさもある意味極限まできた、全編台詞なしで描かれる、とある家族の狂気と欲望の物語。

夫の浮気を知り嫉妬に狂った妻が、夫の性器を切断しようとして失敗し、代わりに思春期の息子の性器を切りとって、そのまま家を飛び出してしまう。深い罪悪感を抱いた父は、外科手術で自らも性器を切断し、自尊心を失った息子のため、性行為の代わりにオーガズムを得る方法を必死にネットで探すうち、とある自傷行為へと辿りつくのだった。父と息子の間は再び絆で結ばれるのだが。そんな折に妻が戻り、家族はさらなる破滅へと向かっていく―。

煩悩、業、連綿と続く人間の性。それらを壮絶なビジュアルで自虐的に描ききるのがギドク氏の流儀。
父の浮気相手に近づいていく息子は、関係を迫っても性器は持たない。肉体の痛みでオーガズムを得る奇妙な性行為に嵌っていく。
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男たちが色と暴力ばかりで救いがたいのと同じくらい、女たちもまた醜く、浮気相手の下品で猥りがわしいところ、妻の蛮行など、どちらも目を覆いたくなるほどの赤裸々ぶりだ。
驚くことに、女優イ・ウヌが、妻と不倫相手の二役を大胆見事に演じきっている。

多々タブーを描いていながら、拒絶反応がおこらないのは、極限のおぞましさに監督が真摯に向き合っているのがわかるため。結末を理解できる気持ちになる。
父親の性器を移植した息子と、父と母の三角関係を、業といわずしてなんといおう。

悲劇の夜、街を彷徨った妻の前に現れる謎の男は、ショーウィンドーの仏像に跪き、イスラームの仕草で祈りを捧げる。あらゆる要素を網羅した、俗っぽくも根源的な物語だった。
男の正体を知ったとき、かすかな希望が湧くのを覚えた。

 (83min)
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by haru733 | 2015-01-29 16:43 | 韓国映画 | Comments(0)

殺人の告白 (2012年) 真犯人を炙り出す真実

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 目のつけ所にハッとさせられる設定と、冒頭の掴みの良いどぎついアクションがいい。
しかし、だんだんそのあくどさに気づいてくると、またしても萎えてしまう、お国柄出るサスペンス。

世間を騒がせた連続殺人事件から15年。犯人だと名乗り出た男イ・ドゥソク(パク・シフ)は、自分の犯した殺人事件について詳細に記した本を出版する。その衝撃的な内容と美しいルックスが相まって、一躍人気者となったイ・ドゥソク。だが、犯人を探し続けてきた刑事チェ・ヒョング(チョン・ジェヨン)や、恨みを抱く遺族たちが、ただ黙って見ているはずもなかった。最後の未解決失踪事件については触れられておらず、疑念が残るそんな中、さらに自分こそが真犯人だと主張する男が現れるのだが―

逮捕寸前で連続殺人魔を取り逃がした過去のあるチェ刑事は、最後の事件で婚約者を連れ去られ、未だにその生死も消息もわからぬまま悶々と15年を過してきた。
果たしてイ・ドゥソクは本物なのか....。犯人を暗殺しようと企む遺族たち面々に命を狙われながらも、イ・ドゥソクはメディアを利用した挑発的な態度をとり続けていく。その裏には、思いもよらない真実が隠されているのだった。

この騒動に一枚噛んでいる執念の刑事を演じた、チョン・ジェヨンの男気がいい。反面、サプライズな思惑を隠し持つ犯人役には、アイドル扱いされるイケメンが必要だったのだろうが、韓流への拒絶反応起こさせるパク・シフの風貌がどうしても苦手だった。
彼の立ち位置が大いに崩れていく終盤から、すました表情もすっかり崩れてゆくのだけど。

あざとい。どうしてこうもやりすぎるのだろう。未解決事件を扱ったサスペンスでは、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』のが、よい。
韓国の男優スターは、美形よりも、ソン・ガンホ氏はじめ無骨な演技派がより強大に魅力的だ。
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by haru733 | 2015-01-24 14:38 | 韓国映画 | Comments(0)

友よ、さらばと言おう (2014年) 命を張っても守りたい者がいる

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 職場からの帰りに自動車事故を起こし、幼い子どもを含む3人を死に追いやった過去を持つ刑事のシモン(ヴァンサン・ランドン)と、その車に同乗していた親友の刑事フランク(ジル・ルルーシュ)が、6年後、麻薬密売グループとマフィアの報復殺人を目撃してしまったシモンの息子テオの身を守るため、再びタッグを組む姿を、臨場感溢れるアクションで描き切る。

なんてカッコいい男の友情か。同時に息つく間もないスリルと、迫力満点なアクションが、狂ったみたいに突き抜けている。おもしろい!
出所後も、罪の意識から逃れられず、幼い息子テオや妻から離れていったシモンの苦悩を共に抱え、親友フランクはどうにか友を救いたいとおもう。そこには、冒頭から幾度も回想される、事故当日の断片的な記憶の伏線が張られており、真実を滲ませたまま、結末まで一気に走り抜けていく―
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マフィアのアジトに乗り込んだ2人は激しい銃撃戦に巻き込まれる。追ってきたボスの弟を殺し、見事逃げおおせた2人を、今度は怒りに狂ったボスと騒ぎを嗅ぎ付けた警察までが追い始めるのだった。身を案じたフランクは、シモンとテオ、妻のアリスを特急列車TGVに乗せて、パリに身を隠すよう手配するのだが。

ここから、手に汗握る展開にずっと釘付け。TGVにマフィアが乗り込んだと気づいたフランクは、何も知らぬ3人に迫る危機を覚り、圏外の携帯電話片手に、烈火のごとく車を飛ばし特急列車を追いかける!
TGV内の銃撃戦は文句なしにすごい!あのTGVがものすごいことになっていく。鉄道ファンも大喜びの様相と化す。

6年前のあの夜の過去に一物持ちながら、腹の底から信頼しあう中年男たちの哀愁と執念のパワーにしびれるばかり。逃避行の先の幸せを祈るように見つめながら、ふたりの友情のカッコ良さと男気に涙した。
明かされる過去の真実の重さに胸がふるえた。
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(監督 フレッド・カヴァイエ/90min)
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by haru733 | 2014-12-29 17:23 | フランス映画 | Comments(0)

昔々、アナトリアで (2011年) いつか話そう、この夜のことを―「昔々、アナトリアで....」

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トルコのとある田舎町。闇に包まれた草原で、容疑者と警察による遺体捜しがはじまる。同行するのは、検察官と検死医、それに発掘作業員たち。
容疑者の供述に振り回されながらの長い夜。まるで非現実の世界が幻想的に連なる。見つからない遺体にやり場のない怒りをぶつける者、この夜に所在無く存在する者。息子を殺めた容疑者の哀惜と後悔の涙。

だれにとってもこの夜は長く、長回しで映し出される光と闇のコントラストがリリックで美しい。
やがて、遺体が見つかり、果てしなくおもえた夜も終わりを告げる。彷徨の果てに発露しだす類稀な情感は、眠気も覚ますリアリティー。

数時間前の夜が嘘のように、検死医の元で開胸される死体は、やけにリアルな音を立てた。
夜と朝、光と闇、死者と生者。一個の死を前にして、一夜を共にしたそれぞれの人の人生が、思いがけない切なさを帯びて迫ってくる。
もう一個の死の物語がおもしろい。検察官が話す、死を予告して死んでいったという美しい人妻の逸話は、冒頭から検死医の心を捉えて離さない。検察官の妻らしい、その女の自死の真相が語られるとき、観るものの心まで巻き込んで余韻ある物思いに沈めてしまう。

劇場未公開の本編は、蠍座にて国内初上映されたもの。カンヌ審査員特別グランプリ受賞。
説明のない映画はほんとにおもしろい。
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(157min/トルコ=ボスニア・ヘルツェゴヴィナ合作/監督 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)
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by haru733 | 2014-12-24 15:27 | トルコ映画 | Comments(0)

ゴーストライター (2010年) 知りすぎた男

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 国家を揺るがすスキャンダルの渦中にある大物政治家の回顧録を書くことになったゴーストライターが、巨大な陰謀に巻き込まれていく姿を見事な緊迫感で描き出す―

元英国首相アダム・ラング役にピアース・ブロスナン、ゴーストライター役にユアン・マクレガー。
サスペンスの名手・ポランスキーによる極上のエンタテイメントは、わかっていても気持ちよく騙されてしまった。
ナインスゲート』もそう、ポランスキー氏はきっと本好きに違いない。原稿用紙の無造作な束、ページをめくる音、名作へのオマージュとしかいいようのない素晴らしい紙ふぶきのラストカットなど、紙フェチにはたまらない作品。ポランスキーの絵面と音楽は、抗いようなくいつでも魅力的だ。
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舞台はイギリスからアメリカへ。米国で講演中のラングの元へ急遽飛んだゴーストライターは、高額の報酬と引き換えに、前任者が不慮の事故で未完となったままの自叙伝を、たった一ヶ月で完成させる命を帯びる。
やがて、ラングの容疑と過去に疑念を抱き始めたライターは、ラングの右腕だった前任者の不可解な死を追い、いつしか恐ろしい秘密に触れていくのだった。

キーとなる謎めいた女がふたり。ラングの美しくも情緒不安定な妻ルース(オリヴィア・ウィリアムズ)と、優秀な秘書のアメリア(キム・キャトラル)だ。不幸な影を抱く謎めいたルースは、アメリアが夫と不倫していることを知っている。
あれよと言う間に取り込まれて、ルースと一夜を共にする、THEハンサム・マクレガーこと、ゴーストライターの運命に手に汗握る。騒然となるマスコミとデモで、事態は悪化の一途を辿り、正体を知った大物政治家のバックに命を狙われ出すゴーストライターの目の前で、ラングもまた暗殺者の手にかかって死んでゆく....。

ゴーストライターの存在を世間は誰も知らない。彼の身になにが起ころうと世界は回り続ける。
こうして名もなきゴーストライターはほんとうのゴーストとなり、物語は幕を閉じた。どんでん返しの見事さに拍手。

(128min/フランス=イギリス=ドイツ合作)
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by haru733 | 2014-12-24 09:50 | 多国合作映画 | Comments(0)

蟻パニック! 『黒い絨毯』『フェイズIV 戦慄!昆虫パニック』

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  近未来SFの『フェイズⅣ戦慄!昆虫パニック』と、南米アマゾンを舞台にした替え玉夫婦のメロメロドラマ『黒い絨毯』をみる。似て非なる、蟻映画ふたつ。
アーティスティックな怪作なら前者。うじゃうじゃの蟻にリアルな戦慄を覚えたいなら後者をおすすめ。


『フェイズⅣ戦慄!昆虫パニック』 (1974年)

 宇宙の怪現象で高度な知能を得た蟻たちと、科学者たちの人類存亡をかけた戦いを描く。
グラフィックデザイナーのソウル・バス監督、劇場未公開作品。
時代特有のローテンポと、派手さのまったくない地味さを補うには足りないアーティスティックな画面。
驚くべきことに、蟻が演技しているらしい。人類との死闘に敗れた仲間たちの遺骸をキレイに並べて弔う蟻。
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緻密に攻撃を仕掛けてくる知能を持った蟻の恐怖が、じんわりと迫る。
砂漠の真ん中、登場人物はほぼ、研究施設の科学者ふたりと、生き残った地元の美しい少女だけ。
緩くて緩すぎてうとうとしてるうち、いつしか『2001年宇宙の旅』を彷彿する、モノリスモドキ、日の出と共に、新人類の幕開けがやってくる。
むずむずする蟻への恐怖はないけれど、異色のビジュアリSFだった。


『黒い絨毯』 (1954年)
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 『フェイズ』に期待したおぞましさを求めて、ずいぶん久しぶりに再見。バイロン・ハスキン監督。
南米アマゾンの上流を開拓しカカオ農園を経営しているクリストファー(チャールトン・ヘストン)の元に、替え玉結婚をして以来、はじめて顔を合わせる妻ジョアンナ(エレノア・パーカー)がやってくる。
しかし男気溢れる俺様男クリストファーは、美貌の持ち主で気位が高いジョアンナになかなか心を開こうとしない。しかも、彼女の結婚が2度目であることを知ると、アメリカに帰るよう一方的に命じるのだが―。

中年童貞夫のこじれっぷりに1時間。蟻パニックは残りの30分だったとは!記憶になくて驚いたけれど、これがどうして、どちらもおもしろい。d0235336_11133872.jpg
もどかしい恋愛模様にじれじれしているうち、アマゾンには数十年ぶりかで、すべてを食い尽くす軍隊蟻マラブンタの大群が黒い絨毯をなして迫り来る。農場を守るべく屋敷に立てこもったクリストファーと、彼と共に闘うと誓ったジョアンナは、夥しい数の蟻との死闘を繰り広げる。
人間さえあっという間に白骨と化す、知能を持ち、川さえ渡る。蟻パニック!『フェイズ』のような高度さはないけれど、大群をなすものはやはり怖い。これだけの蟻さん総出演版で『フェイズ』がリメイクされたときには、是非観てみたい。
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by haru733 | 2014-11-17 23:36 | アメリカ映画 | Comments(0)

凶悪 (2013年) ああ、無常 

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  獄中の死刑囚・須藤(ピエール瀧)の告発をもとに、記者の藤井(山田孝之)は白日にさらされていない殺人事件の究明をはじめる。須藤が語ったのは、首謀者である不動産ブローカー、通称”先生”(リリー・フランキー)と起こした事件の仔細で、藤井は取材を進めていくうち、家庭を顧みることも忘れて事件に没頭していくのだが―。
雑誌『新潮45』の報道をきっかけに注目された、実際に起こった殺人事件の全貌を描くサスペンス・ドラマ。

とにかく”悪”がいっぱい。目に見える悪人だけでなく、借金のカタに家族の命を売る、名もなき市民の悪や、家族をないがしろにする藤井自身の悪。寒々しい画面のなかで、みんなの掌には、隠していてもはっきりとそれが見えていて、しじゅう居心地が悪い。

事件の真相とおなじくらい丁寧に描かれていくのは、藤井と妻(池脇千鶴)との確執。痴呆の母を自宅で介護する藤井は、事件にのめり込むことで、さらに母親をないがしろにする。介護疲れの妻を精神的に追い詰める。やがて互いに暴力を振るうまでなったふたりを横目に見ながら、最後まで上の空で生気のない偽善者夫っぷりが、誰より狂気の似合う山田孝之ゆえ、一等物静かで不気味だった。私的には、寒々しい藤井家のリビングを観てるだけで泣きそう。
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誰にも感情移入できないまま、回想形式で明らかにされていくのは、凄惨な殺人事件の奥に潜んだ、人間心理の闇か。断罪する観客の側にも、正義とはなにかを突きつける。

頑張って悪人を演じる胡散臭いピエール氏と、シュールな悪役が似合うリリー氏と、偏執的でありながら努めて静かな山田孝之氏と、3人揃ってどこまでも弾けないのはなぜだろう。内容の割りに常軌を逸することなく、脱力。
イカレっぷりが凄まじくて実に魅力的だった『冷たい熱帯魚』は、おなじく脚色ありのノンフィクションだった。女ひとり描くのも、黒沢あすかと池脇千鶴では雲泥の差で、”凶悪”を描くには度量が違う。でんでん氏と、吹越満氏の役者根性は、抑えた演技など目もくれないすばらしさ。園子温監督がいかに奇才かを知らしめる。
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上司からゴーサインのないまま、ジャーナリスト魂に突き動かされて事件の裏をとっていく、藤井に待ち受ける境地とは…告発の真の狙いとは・・・。
法廷で放たれる最後の言葉ともども、意外性はなく、どこまでも魅力に乏しかった。

 (監督 白石和彌 /128min)
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by haru733 | 2014-11-17 22:25 | 日本映画 | Comments(0)

悲夢 (2008年) ふたりでひとつ

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 印鑑彫刻師のジン(オダギリジョー)は、ある日、交通事故を起こすリアルな夢を見る。翌日、現場を訪れたジンは、代わりに逮捕されていくラン(イ・ナヨン)に出会う。不思議なことに、夢遊病を患うランは、ジンが夢でみたままを代わって行動していたのだ。
奇妙な運命に導かれた男と女が、不可思議な夢の呪縛によって引き裂かれていく、切ない恋の物語。

偏愛するヘビーでグロテスクな純愛もの。ジンとラン、ふたりと別れたばかりの不実な恋人たちは二股をかけあい愛し合っていた。3つのカップルが壊れながら夢現の狭間で血に染まり、崩壊していく。
未練残るジンの見る夢は、いつも別れた恋人のこと。おかげでランは、もう二度と会いたくない男の元に、夜な夜な夢遊病で会いにいってしまう。
無意識下の行動にやがて心を引き裂かれていくランと、それに同情するジンは、いつしか眠らない努力をしはじめるのだが―。

過去の恋から、いま出会った相手に徐々に惹かれていくふたりでも、恋の道行きはあまりに激しい。
眠れば傷つくランのため、寝まいと闘うジンだけれど、猛烈な睡魔にはとうてい勝てない。ふたりは交互に眠ることを覚え、毎夜、それぞれの睡眠を監視して過ごす壮絶かつプラトニックな夜が訪れる。
眠気を殺すために、針で刺したり、ノミで突いたり。目で覆いたくなるヘビーな描写は、敬愛する塚本晋也作品を彷彿とする。キム・ギドク氏もわれらが塚本晋也氏も、壮絶な男気映画はたいていグロくてエロくてすき。
共に眠ってしまった夜、慢性不眠が決定的な犯罪を引き起こしてしまった悲劇後、幻想的な物語は観るものに解釈を委ねて終わっていった。きっとすごく幸せだけれど、悲しい結末。
二度と眠らないことを誓ったジンの壊れゆく血まみれの狂気と、精神病院のランの狂気が相まって、フシギな余韻をのこしてくれる。
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日本人俳優を起用した本編は、韓国語のなかに、オダギリジョーだけが日本語を話すという異色作。何事もなかったように会話が成立しているので、ありとおもえる。
ほかにも多言語を同時進行させていた忘れがたい作品に『永遠(とわ)の語らい』というのがある。過去の日記を調べてみると5言語、ギリシャ、イタリア、フランス、ポルトガル、英語で会話が交わされる驚くべき結末の作品だった。

(93min)
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by haru733 | 2014-11-08 11:37 | 韓国映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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