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市民ケーン (1941年) 奇跡のような名作

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 なんてすごい映画。当時25歳のオーソン・ウェルズが、製作・脚本・監督・主演をみずから務めた処女作。
実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルに、超一級の風刺で描くミステリアスなドラマ。

荒廃した大邸宅で”バラのつぼみ”という最後の言葉を残して、新聞王ケーンは死んだ。彼の死を報ずるニュース映画が長々と映し出されたあと、物語ははじまる。
社の経営陣は、ケーンが遺した”バラのつぼみ”の意味を求めて、生前の彼をよく知る5人の人物を歴訪する。やがて立ち現れてくる、ケーンの真の姿とは―

構成そのものが、現代映画となんら変わらない。これが75年前に作られたものだなんて、にわかに信じられない。時間軸の交差、回想形式のおもしろさ、カメラワーク、違和感のない老けメイクまで、すべてにおいて驚異的だ。

破産寸前のインクワイアラー紙を買いとり、あれよという間に軌道に乗せる。偏った紙面で、姑息な手段もいとわず、ニューヨークで一番の新聞社へと育て上げるのだった。
やがて政治の舞台に踊りだし、知事選勝利まであとわずかに迫ったとき、オペラ歌手スーザンとの不倫を報じられ、落選。はじめて人生の挫折を味わったケーンは、この時から滑り落ちるように、冒頭の荒廃へとひた走っていく。
エゴで満ちた人生に、なにがあったのか。
幼い頃、両親から引き離されて深い孤独のなかで育ったケーンの、栄光と挫折の生涯を、回想形式で紐解きながら描いていく。

野望でギラギラした男から、愛情表現さえまともにできない惨めな男まで、奇才オーソン・ウェルズは撮り分け、演じ分ける。
しかも、キーワードの”バラのつぼみ”には、実在の新聞王ウィリアム・ハーストを揶揄する秘密まであるという。
本編では、田舎に暮らしていた懐かしい思い出の橇に描かれていた絵が”バラのつぼみ”だったというオチだが。実際は、新聞王が愛人の秘部をしてそう呼んでいると知ったオーソン・ウェルズによる悪意ある設定だという。

得てして、新聞社による妨害行為や脅しに屈して、上映を禁止する映画館が続出。当時、興行的には大失敗に終わったにもかかわらず、いまだに傑作映画ベストテンに登場する高評価ぶりで、愛されている。
ほんとうにものすごくよくできた作品だった。
にもかかわらず、理解できないほどの睡魔に襲われて、途中なんど挫折しながら見終えたか知れない。
すごくおもしろかったのに。

 (119min)
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by haru733 | 2015-02-23 09:49 | アメリカ映画 | Comments(0)

東京難民 (2013年) 社会の底辺へと転落する若者の恐怖

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 大学生の時枝修(中村蒼)は、生活費を工面していた父親が借金を抱えたまま失踪して、突然、大学を除籍になってしまう。アパートからも強制退去、ネットカフェ難民となった修は、日払いのバイトでなんとか食いつなぐのだが、騙されて入店したホストクラブで高額な料金を支払えず、その店でホストとして働くようになるのだった―。

ブルーな気分で130分、辛くて酷なドラマ。社会派に分類しようか迷うけれど、格差社会の歪だけではない、無思慮な主人公が招いた当然の成り行きはシリアスとは全然ちがう。

あれよという間に一文無しになって、ホストになって、あとはボロボロ。修に貢ぐヒロイン(大塚千弘)の心理も、夜な夜なホストクラブに通う家出少女(山本美月)の気持ちも、なにもかも理解しがたく、誰にもさいごまで感情移入は難しかった。ただただ痛々しい、愚かさや都会の孤独以外になにもない。

ホストクラブへ行き着くまえに、その時々に、もっと違う軽率でない別の道があった。どんなに堕ちてどうにか生きれてしまう人の怖さと、それが避けられた不幸であるところに、ため息が出る。

結局、彼に正しい道を教えるのは、日雇い労働者の男と、修を保護したホームレスのおじいさんだった。ありがちで綺麗事がお茶を濁す、とびきり憂鬱なドラマ。
中村蒼くんがちっとも良くなくてざんねん。ハッとして懐かしかったのは、日雇い労働者を演じた小市慢太郎氏のすてきな佇まい。  (130min)
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by haru733 | 2015-02-09 19:02 | 日本映画 | Comments(0)

百円の恋 (2014年) 一子、32歳、独身、ひきこもり。いざ人生のリターンマッチへ

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 これおもしろい。期待した以上。安藤サクラちゃんがすごい!

 自宅にひきこもり、自堕落な生活を送ってきた一子(安藤サクラ)は、離婚した妹が出戻って以来、イライラ募る毎日だ。ある日、取っ組み合いの喧嘩の果てに家を出る決心をした一子は、百円ショップの深夜アルバイトをはじめる。
クセだらけのバイトメンバーにうんざりな一子の、唯一の楽しみは、帰りに通りかかるボクシングジムで、ストイックに練習に励むボクサー・狩野(新井浩文)の姿を覗き見ることだった。
ある日、そのボクサーがお店にやってきて、ふたりは急速に距離を縮めていくのだが―。

実家の弁当屋に寄生する、救いようのなかった三十路の一子が、2時間でモーレツに変わっていくそのパワーにノックアウト。
恋というよりセイアイ的であった狩野との関係が終わって、スイッチがはいったようにボクシングにのめりこんでいく一子がカッコ良かった。これまでしょうがない人生だったぶんだけ、本気出した凛々しい一子は、意思も心も体も強い。こんなステキな安藤サクラちゃんをみるのは初めて。そして、こんな力の抜けてカッコイイ新井浩文氏を見たのもはじめて。映画とはおもえないお似合いなふたりが、言葉少なに無様な生き様を晒し、互いの人生に向き合っていく姿が、なぜか泣ける。

バイト先に集う面々の個性は豊かで、そのほとんどがダメ人ばかり。同僚も、店長も、客も、廃棄弁当をたかる元店員も、底辺で蠢くような彼らは、きっとそのまま変わらない。
スタートは一緒でも、みるみる変貌していった一子は変われた。なにもかも自分次第、意思ひとつなんだと力の湧く物語だ。

無謀な初試合に挑んだ一子の、リング上での壮絶な殴りあいがあまりにもリアルだった。プロと思しき相手を前に、何度倒れても立ち上がるサクラちゃんは本気の形相。痛々しくて観てられないけど、会場に駆けつけた家族や狩野のように、必死に彼女の事を応援して、見届けてあげたくなる。気がつけばヒロイン”一子”の全力のリターンマッチに、涙が出てでてしかたがなかった。

いろんな痛みを経て成長した一子を、そっと出迎える狩野のさりげない優しさ。ふたりが、その後どうなるのかなんてどうだっていい。胸をジーンとさせながらこころからエールを送ったラストだった。

巨匠C・イーストウッドによるアカデミー賞受賞作、『ミリオンダラー・ベイビー』を否応なく思い出す。
当時のヒラリー・スワンクはもう本当に凄まじくすばらしく、作品としても超一級品だったけれど、邦画の小品に滲んだ安藤サクラちゃんの気迫も、それに負けてなかったと、確信持っていえる。

 (113min)
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by haru733 | 2015-02-05 00:00 | 日本映画 | Comments(0)

メビウス (2013年) 断ち切れないもの

評価の大きく分かれるキム・ギドク監督最新作。
おぞましさもある意味極限まできた、全編台詞なしで描かれる、とある家族の狂気と欲望の物語。

夫の浮気を知り嫉妬に狂った妻が、夫の性器を切断しようとして失敗し、代わりに思春期の息子の性器を切りとって、そのまま家を飛び出してしまう。深い罪悪感を抱いた父は、外科手術で自らも性器を切断し、自尊心を失った息子のため、性行為の代わりにオーガズムを得る方法を必死にネットで探すうち、とある自傷行為へと辿りつくのだった。父と息子の間は再び絆で結ばれるのだが。そんな折に妻が戻り、家族はさらなる破滅へと向かっていく―。

煩悩、業、連綿と続く人間の性。それらを壮絶なビジュアルで自虐的に描ききるのがギドク氏の流儀。
父の浮気相手に近づいていく息子は、関係を迫っても性器は持たない。肉体の痛みでオーガズムを得る奇妙な性行為に嵌っていく。
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男たちが色と暴力ばかりで救いがたいのと同じくらい、女たちもまた醜く、浮気相手の下品で猥りがわしいところ、妻の蛮行など、どちらも目を覆いたくなるほどの赤裸々ぶりだ。
驚くことに、女優イ・ウヌが、妻と不倫相手の二役を大胆見事に演じきっている。

多々タブーを描いていながら、拒絶反応がおこらないのは、極限のおぞましさに監督が真摯に向き合っているのがわかるため。結末を理解できる気持ちになる。
父親の性器を移植した息子と、父と母の三角関係を、業といわずしてなんといおう。

悲劇の夜、街を彷徨った妻の前に現れる謎の男は、ショーウィンドーの仏像に跪き、イスラームの仕草で祈りを捧げる。あらゆる要素を網羅した、俗っぽくも根源的な物語だった。
男の正体を知ったとき、かすかな希望が湧くのを覚えた。

 (83min)
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by haru733 | 2015-01-29 16:43 | 韓国映画 | Comments(0)

こうのとり、たちずさんで (1991年) 一歩を踏み出せば異国か、死か

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 ギリシャにはテオ・アンゲロプロス氏という名匠がいた。”20世紀三部作”の最後となる三作目を撮影中、交通事故に遭ってこの世を去ったのは2012年のこと。
どこにもない映像世界は、いつも憂鬱なグレー色。誰にも真似できない詩的な語り口が胸をざわつかせるけれど、長い歴史に裏打ちされた言葉にならない包容力があった。もう新作が観られないとおもうと寂しい。

本編も難民たちの物語である。
番組作りのため北ギリシャの国境地帯にやってきたテレビレポーター(グレゴリー・カー)は、10年前に失踪した政治家(M・マストロヤンニ)を見つけて追跡調査をするうちに、ひとりの〈少女〉と知り合う。ふたりは運命的に愛を交わす。
やがて、町は年に一度の集会に沸き、越境してきた民族同士が河を隔てて互いの無事を確かめ合う儀式がはじまる。今年は結婚式も執り行われ、花嫁はあの〈少女〉で、対岸に暮らす少年が花婿だ。
しかし、幸福に満ちる国境に銃声が轟いて、混乱のなかを、記憶をなくした政治家は、ひとり再びレポーターの前から消えていなくなるのだった―

自国の歴史や難民問題をテーマにしたアンゲロプロス作品は、たしかにどれも雰囲気がよく似ている。
SFもホラーも笑いもないかわりにあるのは、象徴的な瞳に焼きついて離れない絵画的シーンの数々。
複雑な社会背景と、見事な沈黙に心砕いて解釈をがんばる前に、一作見るごと、忘れられない幻想的なカットが記憶に刻み込まれていく。画面に一目惚れさせる人。

 (143min/ギリシャ=フランス=スイス=イタリア合作)
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by haru733 | 2015-01-29 12:21 | ギリシャ映画 | Comments(0)

ちゃんと伝える (2009年) 余命宣告をうけた父と息子の絆

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 コンスタントに新作を送り出す園子温監督が、『愛のむきだし』の翌年に発表したのが本編。
亡き父とのエピソードを元に映画化したという『ちゃんと伝える』は、同じ監督とはおもえないほど平凡な家族ドラマだった。108分の本編をもう一度観るくらいなら、4時間の大作『愛のむきだし』をもう一度二度と再見したい、そのほうがよほど有意義だと、わたしはおもう。

EXILEのAKIRA氏演じる主人公・史郎は、地元の高校サッカー部で鬼コーチとして知られた父(奥田瑛二)がガンで余命幾ばくかであることを知る。そんな史郎も、胃の痛みを訴えて受けた検査は悪性のガンで、父よりも症状が重いというのだ。父は息子の死を看取ってから、あの世へ行くことになるかもしれない・・・・。
両親にも恋人にも、その事実を告げられない史郎は、いつかちゃんと想いを伝えるために、苦悩しながらも後悔せず生きていくことを決意するのだが―

死にゆく者と、残される者の泣けるドラマが数多くあるなかで、本編にしかないようなトコロはない。難癖ある父と、その息子のわだかまった関係というのも、最近では『流星ワゴン』など在りがちだ。恋人を演じた伊藤歩ちゃんのナチュラルな涙には共感できるのだが、本業を離れ役者としても活躍するAKIRA氏の演技は可もなく不可もなかった。

もしかしたらこれは、ファンタジーだったのだろうか。
生前の約束を守るため、父の亡骸を束の間さらった史郎は、一緒に釣りに行く約束だった湖を目指す。ベンチに並んで腰かけ、父の亡骸とふたりで釣竿を垂らすシーンなど、泣けるどころかかなり滑稽だ。
とても死体らしくない奥田瑛二氏の生物学的矛盾を突き抜けた死後硬直をみせないところに、余計ファンタジックなキレイ事をみる。
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by haru733 | 2015-01-24 12:02 | 日本映画 | Comments(0)

天才スピヴェット (2014年) 泣き方だけがわからない

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 敬愛するジャン=ピエール・ジュネ監督最新作。キッチュで手作り感たっぷりなジュネ・ワールドに陶酔あるのみ。そろそろダークサイドが恋しくなるけれど、文句なしに楽しかった。シアターキノでは2Dにて上映ちゅう。

アメリカ北西部のモンタナ。牧場を営む父(カラム・キース・レニー)、昆虫博士の母(ヘレナ・ボナム=カーター)、アイドルを夢見る姉(ニーアム・ウィルソン)に囲まれ暮らすスピヴェット(カイル・キャトレット)は、10歳にして天才科学者だ。双子の弟が死んで以来、家族それぞれの心にはぽっかり穴があいていた。
ある日、スミソニアン学術協会から、最も優れた発明に贈られる賞を獲得したスピヴェットは、ひとりワシントンDCで開かれる授賞式に向かうため家出を決意する。大陸横断の冒険の中で、スピヴェットは様々な人と出会いながら本当に大切なものに気付いていく―。

喪失感を扱いつつも、劇場に笑いがこぼれるユーモアいっぱいのロード・ムービ。ジュネ作品に、広大な北アメリカ大陸の景観が、こんなにもよく似合うとは。
往年のジュネ・ファミリー、ドミニク・ピノンの登場に頬を緩めつつ、昆虫標本に囲まれたヘレナ・ボナム=カーターの部屋など垂涎もので、色使い、言葉遣い、モンタージュの画面、どこを切り取ってもワクワクするアイテムに満ち満ちた世界。
古いヘレナ・ファンとしては、ふつうの顔色でこんなに愛ある立派なお母さんを演じているとうれしくてたまらない。

両親の愛を確信できず、弟の死を自分のせいと思い込んでいる、スピヴェット少年の流す涙はあまりに純粋。ついつい貰い泣いたり。
新人のカイル・キャトレット少年の品のある愛らしさは、確実に、『ホーム・アローン』で絶頂期のマコーレー・カルキン少年を越えていた。 

 (フランス=カナダ合作/105min)
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by haru733 | 2015-01-18 17:10 | フランス映画 | Comments(0)

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (2011年)

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 『リトル・ダンサー』『愛を読むひと』のスティーヴン・ダルドリー監督。過去の巧みなストーリー・テラーぶりを思い出せば、本編のソツなさが頷けた。父を失った喪失感から立ち直っていく少年の姿を、手作り感いっぱいに描くビルドゥングスロマン。

9・11以降のアメリカと、3・11以降の日本。テロと自然災害という大きな差異はあれど、作られた映画はちょっとちがう。タブーが多く、ドキュメンタリーが続々作られるところは日本らしい。一方で、悲劇を織り込んだ見事なエンタテイメントを育み受け入れる前向きな態度はアメリカらしい。そして今回はそれが少し羨ましいなとおもえた。

9・11のテロで仲良しだった父を亡くしたオスカー少年は、ある秘密を抱え、一年以上たったいまも、その死を受け入れられずに苦しんでいた。あるとき、偶然父の部屋のクローゼットで、封筒の中に1本の“鍵”を見つける。これは父が残したメッセージかも知れない―。オスカーはその鍵の謎を探しに、ニューヨークの街へと飛び出していくのだが―

アスペルガー症候群を疑われるほど自閉症傾向のあるオスカーが、父の最期のメッセージを必死に求め街へ出る。生前よくやった謎解きゲームの要領で、科学的根拠に基づいて、資料を整理して、合理的手段で手当たり次第に”ブラック”姓の人物を訪ね回る。
オスカーの悲しい秘密が浮き彫りになるころ、真実は感動に包まれて、彼を喪失から救い出すのだが、その定石どおりを、細部まで作り込んだ見事な画遊びの数々が、まるで翼が生えたみたいに想像の力で補っていった。ただただ、オスカーの秘密には、ほんとうに悲しい涙が流れた...。

美形のオスカー少年はじめ、脇を固めるのはトム・ハンクス、サンドラ・ブロックという演技派な両親の面々。祖母の家に間借りする謎の老人が手助けしてくれるなど、絵に描いたようなシチュエーションなのに、ビジュアルの遊び心がすべてを反故にしてしまうところがすごい。手書きのファイリングブックや、オスカーの趣味で溢れた部屋など、理屈抜きで愛してやまない小道具でいっぱいの世界だった。  (130min)
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by haru733 | 2015-01-17 16:47 | アメリカ映画 | Comments(0)

ニキフォル 知られざる天才画家の肖像 (2004年)

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 ニキフォル(1885~1968)はアール・ブリュットの聖人といわれるポーランドの天才画家。
彼の晩年の生活を支えた、一人の男マリアン(ロマン・ガナルチック)との物語を描くドラマ。湿っぽいところのないポーランド映画の飾らない余韻がいい。
なにより特筆すべきは、ニキフォルを演じたのが女性であること。当時80代のベテラン、クリスティーナ・フェルドマンによる熱演は、どう見てもおじいちゃんにしか見えない、性別の垣根越える名演技だった。

その存在を知ってから、気になるアウトサダー・アートの世界は、自己が自己であり続けるために創造される魂むき出しの迫力。『非現実の王国で』のヘンリー・ダーガー氏もそう、自己流でも歪でも、稚拙であっても、直感で惹かれてしまう魅力がある。

言語障害と重度の肺結核を患う晩年のニキフォルを支えたのは、役所で働き、画家としても活動するマリアンだった。マリアンは、突如アトリエに居ついてしまった老画家を、当初は追い出そうとするけれど、彼の作品に本物の芸術性を見出しやがて魅了されていく。

最初で最後かもしれない展覧会会場へと向かう後半は、さながらロード・ムービーのよう。世間の注目を浴びはじめるニキフォルと、彼を支えるマリアンのあいだには、たしかな心の疎通が芽生えていく。
彼に振り回されっぱなしのマリアンを理解できない家族は、彼の元を一度は去ってしまうけれど、最晩年のニキフォルに寄り添う彼の傍にはそっと妻が戻ってくる、なんて素朴なラスト。

多作のニキフォルが残した絵画は4万点。ポーランドの原風景に、ニキフォルが多く描いた教会やイコンがよく似合う。部屋に飾りたくなるような、すてきに歪な絵画たち。

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by haru733 | 2015-01-16 00:00 | ポーランド映画 | Comments(0)

あぜ道のダンディ (2010年) 不器用な男たちのダンディズム

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 妻に先立たれた中年男の淳一(光石研)は、受験を控えた浪人生の長男・俊也(森岡龍)と高校3年生の桃子(吉永淳)と三人暮らし。不器用で無口な父親に、歳ごろの子どもたちは、ろくに口も利いてくれない。淳一の悩みを聞いてくれるのは、たったひとりの親友で、幼馴染の真田(田口トモロヲ)くらいだ。
余命わずかな妻を喜ばせるため、生前無理して買った一軒家のローンに追われる空虚な毎日に、いつしか亡き妻とおなじ胃の痛みを感じる今日この頃なのだが...。

 巧みな語り口、絶妙なユーモア、人物はいつも魅力的。石井裕也監督にハズレなし。
公開当時はピンとこなかったけれど観てよかった、おもしろかった。
父も息子も娘も真田も、みんな優しくて人を思いやれる人。表向きは会話のない家族にも、流れる心はあったかい。わが子のために見栄をはる甲斐性のない父の、弱さをみせないダンディズムがステキだ。
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光石研+田口トモロヲの掛け合いが最高。芝居上手なおふたりの絶妙な会話劇が、本編のすべてといっていい。男同士のかけがえない友情の姿が、笑えて泣けて、とてもうらやましく見えてくる。

たとえば、世代はちょっと違うけど、宮藤官九郎+阿部サダヲのような歳のとり方も良いけれど、淳一と真田のような、少しカッコ悪くてもダンディが似合う歳のとり方のほうが、わたしは好きだ。

すっかり胃ガンであると思い込んで、残される子どもたちのために準備をはじめる不器用な淳一の滑稽さ。それに振り回される、真田のさらなる可笑しさ。どこまでも情けない中年男ふたりから漂う哀愁は、とてもキライにはなれない。
親を自宅介護のすえ看取ったばかりで、つかの間の自由を満喫している真田の日常から。亡き妻が、生前、子どもたちに残したカセットテープをこっそり仏壇の前で聴く淳一が、毎夜発泡酒で酔いつぶれている姿から。思いがけない哀愁が漂いでる。
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上京が決まった子どもたちのために、ないお金を搾り出す淳一の懐具合は寂しい。別れも淋しい。それをみんながよくわかっている。若者たちは希望に溢れ、おじさんたちは留まる、普遍的な構図に涙が流れる。
感謝の気持ちと、別離の寂しさとが入り混じる、二股交差点に差し掛かった人々の、ちょっと素敵なお話だった。

引越しの前夜、深酔いした淳一は幸せな夢をみる。それは、妻がテープに吹き込んだ曲「ウサギのダンス」を一家で歌い踊る幻想的な場面で、とってもいいシーンだ。
一番右の長男役、森岡龍くんは、どことなしか監督に似ていて、真っ直ぐな好青年をまるで分身のように演じていた。

(110min)
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by haru733 | 2014-12-14 21:19 | 日本映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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