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アメリカン・スナイパー (2014年) イラク戦争とはなんだったか

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 劇場で観てからやや経つけれど、ひとこと残しておきたい作品。

 イラク戦争に狙撃手として派遣された殊部隊ネイビー・シールズの、故クリス・カイルの自伝を基にした人間ドラマ。
敵の間では“悪魔”と呼ばれ、18万の懸賞金を懸けられた、アメリカ軍史上最強の狙撃手クリス(ブラッドリー・クーパー)は、度重なるイラク派遣に徐々に心を蝕まれていく―

これまでもイラク戦争を描いた作品は撮られてきた。戦争映画は、どれも極限状況やPTSDを描くし、愛する家族から離れていく兵士の心の闇も捉えてきた。だから、そこに既視感は否めないのだが、これは何んの戦争かと改めて問うとき、かのイラク戦争であることがクリアに実感されてくる。

狙撃手は、常に引き金を引く判断を迫られる。恐ろしい戦場にいて、彼自身が18万の懸賞金が懸かる標的だった。心の病ははじめから時間の問題だったが、それでも4度に渡って戦場へ行き続けた。
そうしてアメリカの英雄は、最後の派遣から無事に帰還したにもかかわらず、38歳の若さでこの世を去ってしまう...。
戦争映画のもうひとつの側面であるPTSDは、どんな戦争にもある闇の部分。クリス・カイル射殺事件は、被害者だけでなく加害者にとっても、戦争が引き起こした悲劇だった。帰還兵の自殺者も含めて、それはすべて戦死におもえてしかたがない。

巨匠クリント・イーストウッドは、人生の最晩年にきてまだ衰えることをしらないのだな。
エンタテイメント性を忘れず、2時間越えをまったく飽きさせない。完全にモードを操られることが一時期くやしい時期もあったけど、いまでは敬愛する映画人のひとり。

 (132min)
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by haru733 | 2015-03-06 09:53 | アメリカ映画 | Comments(0)

シャトーブリアンからの手紙 (2013年) 真実の物語を記憶しよう

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 むかし、『ブリキの太鼓』という奇妙な傑作があった。そのフォルカー・シュレンドルフ監督の、10年ぶりの新作は、抑えた筆致で描いた戦争ドラマ。

1941年10月20日、ナチ占領下フランスで一人のドイツ将校が暗殺される。ヒトラーは即座に、報復として、収容所のフランス人150名の銃殺を命令する。人質は主に政治犯から選ばれ、シャトーブリアン郡の収容所でも、23人の人質が選ばれた。その中には、占領批判のビラを配って逮捕された、まだ17歳の少年ギィ・モケもいた―。

『ブリキの太鼓』のようなキッチュな奇怪さは無い。チラシにあるとおり、感傷の入る余地のない透徹した演出が潔い。ドイツ人であるシュレンドルフ監督が、フランスを舞台にフランス側の悲劇を綴ったことに意味がある。
彼らが残す遺書となった手紙の実物や、まだ存命の当事者たちが、ラストで登場してくるわけでもない。手の込んだ感傷には寄らず、真実を淡々と描くだけ。
ドイツとフランス、理不尽な命令に板ばさみとなる官と軍の面々と、人道的に動く事など不可能だった時代を通して、二度と命令の奴隷になってはならないと、強く現代に語りかける。

突然、死を宣告された23人の人質たちが、いかに不当な銃殺に立ち向かったか。感情移入すれば恐ろしい。ただ、それにもかかわらず、彼らの側にだけいるのではない。突然、銃殺する立場となった一介のドイツ兵の恐怖や、150人の死に煩悶する暗殺実行犯たち、馬鹿げているとわかりながら何もできない軍人らの苦しみを、ドイツとフランスの双方から達観する。

報復が報復を生むことは、いまでも変わらない。平和な世はなかなか訪れない。和解する難しさは深まるばかり。せめて、日本くらい、死ぬ気で平和主義を守り通してほしいけれど、戦争の記憶が世代ごと薄れていることは、戦争を知らないわたしにだって見ていてわかる。

終戦後、ナチ抵抗の悲劇の象徴となったギィ・モケの名前は、パリ地下鉄の駅の名前になったそうだ。 
(フランス=ドイツ合作/91min)
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by haru733 | 2015-02-11 16:20 | 多国合作映画 | Comments(0)

戦場のメリークリスマス (1983年) 極限状態の捕虜収容所、男だけの濃密な世界

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 こんなにも”異色”という言葉の似合う邦画の戦争映画を、ほかに知らない。
ジャワ奥地の捕虜収容所を舞台に、敵味方双方の葛藤を描いた群像劇は、銃撃戦も殺戮場面もない、まさに異色の傑作。

妖しげなメイクをほどこした若き坂本龍一が、異様な存在感で所長を演じる。収容所へやってきたセリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)を認めた瞬間、露骨に露わにされる西洋へのコンプレックスと男色の匂い。
一方、絵に描いたような日本兵の鬼軍曹ハラ(北野武)と、彼のご機嫌を取る通訳のロレンス(トム・コンティ)には、いつしか人種も立場も超えた理解と憐憫の情が育まれていく―。

中立の目線から極限状態における”日本と人間”を描いた大島渚監督の鬼才ぶりをおもう。
特有の軍人精神はいまでこそキチガイじみていて、幾度か描かれる切腹の美学など、西洋人でなくても、恐ろしいし滑稽でしかありえなかった。この国を外から描いた本編がすごいのは、戦争がなせる狂気の技とは一口では言い切れない、行き過ぎた民族性のようなものをシニカルにあぶり出したところにもあるとおもう。
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ほぼ全編にわたって熱帯の情景に限られた閉塞感。収容所内の濃密な人間模様のなかで、ゆいいつ緊張から解放させてくれるのは、デヴィッド・ボウイ演じる少佐が夢現のなかで回想する幻想シーン。歳の離れた弟との故郷での思い出は、切なくも苦く、淡い逆光のなか弟が歌うボーイソプラノはあまりにも美しくこころを奪う。

北野武も坂本龍一もみんなちんちくりんで、支配する側にありながら、西洋コンプレックスなるものを感じずにはいれない。日本軍正方の具現であった所長は、早々に敵兵の異端児に心奪われ、正気ではいられなかった...そして日本は負けた。
けれども、戦後、戦犯となり、翌日に処刑を控えたハラ軍曹が、懐かしいロレンスの面会を受けるラストには、もう同調しかなくて、たったひと握りのわだかまりさえもないのだ。
軍曹の笑顔は、清々しくて穏やかで、映画史に燦然と輝く名シーンとなっている。

「メリークリスマス ミスター ロレンス」

世界のたけしは、監督だけじゃなく、ひとりの役者としてもすばらしかった。

見終えたあとずいぶん経ったいまも、坂本龍一による珠玉のテーマ曲がまだ頭から離れない。映画界でも活躍してこられた坂本氏の、病気からの回復をこころより祈ります。

(123min/日本=イギリス合作)
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by haru733 | 2014-07-24 13:10 | 日本映画 | Comments(0)

はじまりのみち (2013年) 名匠が来た道

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 木下作品を知ったのは、この数年のことです。初めて観た『お嬢さん乾杯!』が洒脱で、そのあとすぐ、アニメ界の監督が、加瀬亮さん主演で木下監督の人生を撮ると聞いて、過去の有名どころを知っておきたいと、幾つか観漁ったのでしたが、どれもおもしろかった。
監督の原恵一さんは、『劇場版クレヨンしんちゃん』で有名なアニメーション界の実力派。そんな人が、リスペクトする名匠の人生を、なぜか”実写”で撮るというから興味ぶかく。初の実写本編が失敗か成功かは、、そこに愛があれば、たいていは肯定的に受け入れたくなるのが映画好きの弱みかもしれません。

(あらすじ) 太平洋戦争下の日本。木下惠介(加瀬亮)が身を置く映画界では、国策映画の製作が求められていた。そんな中、彼が1944年に監督した「陸軍」は、内容が女々しいと当局の不興を買い、以後の映画製作が出来なくなってしまう。夢破れた惠介は松竹に辞表を提出し、失意のうちに郷里の浜松へと戻る。最愛の母(田中裕子)は病気で倒れ、療養を続けていた。しかし戦局が悪化する中、惠介は母をより安全な山間の村へと疎開させることを決意する。彼は病身の母と身の回りの品を2台のリヤカーに乗せると、兄(ユースケ・サンタマリア)と雇った“便利屋さん”(濱田岳)と3人で力を合わせ、過酷な山越えに向かって歩みを進めるのだったが―。 <allcinema>より
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長い映画人生のなかから、戦時中のエピソードだけに焦点を絞ったことは良かったのではないでしょうか。若き木下青年がふたたびメガフォンを取ることができたのは、良き理解者であった病身の母の支えあってこそ―という。
きっと、数作品知っているだけではわからないようなオマージュが、各所に散りばめられていたのでしょう。

印象的だったのは、やはり、のちの『二十四の瞳』を彷彿させる、宮崎あおいと子どもたちの場面。それから、リヤカーを引いてゆく山道で、滝のような雨に降り篭められる場面。どちらもドラマチックで、いかにもではあっても、悪人の登場しない善良な作品は、どこまでも透明で誠実な空気が流れています。
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惜しむらくは、それらのドラマを、脈絡ごと無視するかのように多く、木下作品が引用されていることでしょうか。木下惠介の人生とはいいながら、わずか96分のなかに代表作のダイジェストを盛り込んだために、実際の本編は、さらに短く、敬愛する加瀬亮さんの見せ場もかなり少なくなっていました。

たとえば岩井俊二監督が、敬愛する市川崑監督の半生を撮ったドキュメンタリー『市川崑物語』というのがある。スタイリッシュでユーモラスで、ちょっと遊びすぎてはいるけれど、独自の構成が好きでした。
それに比べて、『陸軍』ラストの長回しを堂々通しで引用した場面はともかく、ドラマのなかで作品紹介をやってのけた本編は、やや反則技感が否めない違和感があります。
若い監督たちが、お気に入りの名匠・巨匠の人生を撮る―そんなシリーズがあったらきっと楽しいのだけど。

生誕100年記念作品として、木下作品がもっと観られていく良いきかっけになりそうな本編は、希望の瞬間を見つめた好編だっただけに、ぶつ切りになる構成だけがじつに残念でした。

 (96min)
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by haru733 | 2014-05-15 21:34 | 日本映画 | Comments(0)

二十四の瞳 (1954年) 心清らかになる名作

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 何度も映像化されてきた壺井栄の同名小説を、名匠・木下恵介が脚色・監督した名作。
このごろ、休日が少なかったせいで映画について書かずにいるけれど、その間観た作品のなかでとくに素晴らしかったこちらは、ぜひ書いておかなければ。

瀬戸内海の小豆島の分校に赴任した、新任教師大石先生(高峰秀子)と、12人の生徒たちとの交流を描いたこころ温まるドラマは、日本の懐かしい情景がいっぱい。そこにこれほど反戦のメッセージが色濃いとは知りませんでした。半世紀いじょう経てもなお色褪せない秀逸な脚色と、たしかなテーマ、丁寧な映画作りと完成度の高さが、いつまでも愛されつづける理由なのでしょう。

舞台は、奇しくも日本が軍国主義へと突き進んだ時代の長閑な片田舎。大らかに成長した生徒たちにも、国勢は容赦なく暗い影を落としていきます。大石先生の願いは、ただひとつ。はじめて担任をもった可愛い教え子たちに、大志を抱いて立派に生きて欲しい。
けれども、男の子たちの多くは軍人になることを夢見て、そのほとんどが帰ってはこなかった....。

時代に翻弄される教え子たちの辛い人生に憂いで、いつも涙を流している大石先生が、たまらなく魅力的です。それは、主演・高峰秀子さんの魅力と演技力にほかならないとおもう。
洋服で颯爽と自転車を漕ぎ登場する新任教師時代、結婚して、やがて夫を戦争で失い、女手一つで子どもを育て上げる立派さ。大人になって苦労する教え子たちに、どうか幸せになってほしいと尽力する、人柄や涙脆さや気丈さが、非凡な演技によって胸に迫ります。
やがてまた、あの懐かしい分校へ教師として戻っていく中年までの物語が、深い余韻を残すのです。
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本編がすごいわけは、子役たちのキャスティングにもあるのかもしれない。それぞれ本当の兄弟たちが成長した姿を演じて、大人役にも子役にそっくりの役者陣を起用したというこだわり。だからこそ、自然な12人の成長をかんじて、なお胸に響くものがあるのでしょう。
これからどんなにリメイクされても、高峰秀子さんを超える大石先生像は生まれそうにないし、数十年に渡る人生の哀切歓喜を演じ切る女優さんを、思いつくことができません。
そうして、デジタル化され画質の向上したいまだからこそ、画面の曖昧さがいかに美徳であったかと。

 (まったく長さをかんじさせない156min)

それにしても、このての作品の笠智衆さんの存在感は、白眉!
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by haru733 | 2013-09-06 09:24 | 日本映画 | Comments(0)

陸軍 (1944年) 当局の不興を買い、名匠は辞表を提出した問題の国策映画 

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 今夏、劇場公開されていた加瀬亮さん主演『はじまりのみち』は、名匠・木下惠介監督の若き日の感動秘話を描いたものでした。
監督の本業はアニメーション、実写デビュー作の小品にかかわらず、『はじまりのみち』を上映したのはシネコンだったことに違和感を覚えたのはわたしだけでしょうか。
これまでミニシアターでかかってきたような小粒な良作までが、シネコンに流れていく寂しいこのごろ。

『陸軍』は、木下監督が松竹に辞表を出すきっかけともなった国策映画。
太平洋戦争下の日本の映画界は、政府から戦意高揚の国策映画の製作を求められていました。
しかし、氏が描いたものは、親子三世代にわたってお国に人生を捧げた家族の物語でありながら、ちょっとちがっています。
家族ドラマのような微笑ましさと、母親の沈痛、どちらもあまり国策映画らしく見えない。
ちなみに、本編で当局に睨まれた、当時のエピソードを描いたのが『はじまりのみち』。


幕末から日清戦争、日露戦争を経て満州事変に至る約60年間。愛国心に燃える一家の男たちは、友助(笠智衆)を筆頭に、軍人となり出兵して行きます。女たちは、悲痛な心を隠して気丈に家族を支えるのでした。
軍人・友助と対照的に描かれるのは、庶民肌の櫻木(東野英治郎)。ふたりは歳のかわらぬ息子をもち、事あるごとに戦争への見解が違い対立と和解を繰り返すのですが、まともな精神でみれば人間らしいのは櫻木のほう。
このお二方、たいてい笠さんが善人、東野さんが悪人を演じることが多く、そんな意味でも、神風の吹く大日本帝国を疑わない笠さんが善で、東野さんが悪という配役の妙が興味深いです。

ついに出征していく息子を見送る、母親のラストには泣けてきてしまう。ひたすら田中絹代を追い続けるカメラがすばらしくて。自分を殺すしかなかったこの時代、描きたいものを描いた木下監督の立派さに胸打たれるおもい。

 (87min)
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by haru733 | 2013-08-10 23:25 | 日本映画 | Comments(4)

風立ちぬ (2013年) 風立ちぬ、いざ生きめやも

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 零戦の設計者として知られる堀越二郎の半生に、堀辰雄の自伝的小説『風立ちぬ』のエピソードを盛り込んで描いた宮崎駿監督最新作。内容はすでに有名なものとなっているので割愛します。

主人公・二郎の夢は、美しい飛行機を作ること。同時にそれは、軍事国家日本の威信にかかわるものでもありました。やがて粋を集めた努力の結晶、零戦は、たくさんの兵士たちを乗せて、そのほとんどが還ってこなかった....。
誰もがじぶんを押し殺して生きた時代、ひとりの青年の夢と苦悩と愛を通して、背後に広がる大きく深い一時代の闇と希望を描き出した傑作。

二郎の夢を手をとりあって追いかけるのは、震災で出会い、数年後、軽井沢で再会した菜穂子でした。彼女はすでに結核を患いながらも、ギリギリまで二郎と共に生きるのです。健気な新婚生活から、寒々としたサナトリウム、潔い身の引き際まで、、うつくしくて悲しくてしかたがなかった....。燃え上がる若い男と女を、ジブリがかつてこんなに踏み込んで描いたことがあったでしょうか。そこだけとっても、宮崎監督の意気をかんじるのです。

戦争へと突き進んでいった日本の薄ら寒さとは対照的に、二郎が幼い頃から度々見る幻想的な夢のシーンが秀逸。
憧れの飛行機設計士カプローニとの夢の世界は、独創的で、フェリーニの描いた白昼夢のように異世界へと運んでくれます。締め付けられた気持ちがにわかに緩むひととき。
飛行機の飛ぶ音など、人の声で吹き替えたらしい演出もすごく良く、作った音では出せないざわざわとしたこわさがすばらしいのでした。

夢見る堀越少年をノスタルジックに描いた最冒頭から、つぎの青年期にとつぜん起こる関東大震災の場面は、ド肝を抜かれるのではないでしょうか。恐ろしく描かれる天変地異をまえに何もできない人々が、やがて助け合い復興していく姿は、311東日本大震災へのたしかな系譜と捉えたい...。
今を生きる若者たちがこの映画をみて、自国の歴史にあらためて何をかんじるのでしょう。当時の近代国家になるための努力と希望と、その裏側にあった闇も罪もひっくるめて、老年期を迎えた宮崎監督のひとつの遺言におもえて仕方ない。

風立ちぬ、いざ生きめやも

ポール・ヴァレリーの詩の一節であり、堀辰雄の小説にも本編にも登場するこの言葉。「いざ生きめやも」には「生きることを試みなければならない」という意志と、その後の不安が一体となっているのだそうです。
だけど、わたしはこう訳したものを信じたい。

「風が立った、さあ生きようじゃないか!」


何度も繰り返し流れるテーマ曲。久石譲さんのメロディラインは聴いているだけで泣けてくるよ

(126min)
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by haru733 | 2013-07-27 00:00 | 日本映画 | Comments(2)

恐怖と欲望 (1953年) キューブリック幻の劇場映画デビュー作

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 もっとも敬愛する監督のひとりスタンリー・キューブリックは、手がけた作品すべてどれもそれぞれにすきです。1999年に亡くなるまで遺した映画は、わずか13タイトルという寡作の人でありながら、史劇、アクション、SF、ドラマ、ホラー、戦争、エロス、サスペンス、ミステリー、コメディとほとんどすべてを網羅している鬼才。
一般に代表作とされるのは、『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『博士の異常な愛情』『シャイニング』『フルメタルジャケット』ということになるのでしょうが、原作ともども大好きな『ロリータ』や、もの侘しいライアン・オニールとサラバンドのテーマが脳裏に焼きつく『バリー・リンドン』は、目立って評価されることはないけれど私的お気に入り。
これまでキューブリックのデビュー作は1955年『非情の罠』とされてきましたが、監督自らアマチュアの仕事として封印した幻の処女作があることは、わりと広く知られていました。それが、いつかこうして観られる日がこようとは!喜びを隠しきれないまま、ミニシアター蠍座へ足を運びました。

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(あらすじ) どこの国かは分からないとある戦場。乗っていた飛行機が墜落し、敵陣の森に取り残された4人の兵士たちは、筏をつくり川を下る脱出計画を立てるのだが―。

裕福な叔父から資金援助をうけて、ほとんど未経験のスタッフと出演者で完成させたという、一時間ほどの小品。
『非情の罠』に比べるととうぜん完成度は落ちますが、惹きつける画の魅力ひとつとっても、鬼才の片鱗をみた気がします。人間本質に迫るテーマは、のちの『突撃』や『フルメタルジャケット』に通じる。

死の恐怖に怯えながら脱出計画を実行に移す4人は、そのとちゅうで、現地の女に姿を見られてしまいます。密告を恐れた彼らは女を捕え、下っ端の二等兵に見張りを任せるのでしたが....木に縛り付けられた美しい彼女と一緒に取り残された二等兵は、置き去りにされたかもしれない疑心と、異性への情欲に我を失い、やがて狂気の淵へとさ迷っていくのでした。
同じころ、残る3人は、図らずも敵の将軍を発見したことで、手柄を立てる欲にかられ、脱出計画は徐々に危険な懸けへと変わっていくのです。

撮影シーンごとのロケハンの様子がダイレクトに伝わる編集がワイルド、あえて言えば、こなれなさを感じさせる唯一の要素かもしれません。完璧主義の監督が、弱冠25歳の処女作を許せなかった気持はわかったけれど、役者たちのすごい表情を捉えたインパクトや、ラストの筏が流れ着くシーンなど、お蔵入りするにはもったいない完成度だとおもいます。

 (製作・監督・撮影・編集 スタンリー・キューブリック/62min)
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by haru733 | 2013-07-22 22:30 | アメリカ映画 | Comments(0)

原爆の子 (1952年)

d0235336_2181149.jpg 新藤兼人監督・脚本による被爆児たちの体験記を元にした社会派ドラマ。
生々しい戦争の傷痕を残した瓦礫だらけの広島の情景が強烈。それもそのはず、原爆投下からわずか7年後の広島で撮影された本作は、終戦後、原爆を取り上げた最初の日本映画なのだそうだ。
古い映画には、歴史的に貴重な風景が留められた作品というのがあるけれど、こちらもまさにそう。

原爆で家族みんなを亡くしひとり生き残った保母の孝子(乙羽信子)は、いまは瀬戸内海の小島にある親戚の家で、小学校の教師をして暮らしている。
終戦後ひさしぶりに家族の眠る広島へ渡った彼女は、元同僚の元に世話になりながら、かつての教え子たちを訪ね歩く。そこで孝子が見たのは、あまりにも悲惨で過酷な現実だった―。

教え子で生き残ったのはわずかに3名、感動の再会に手放しの笑顔はない。
浮浪者同然の暮らしをしていたり、不遇にあったり、被爆者だと差別されることもある。そして今まさに死と向かいあわせの少女が祈りのなかにいる・・・・・。
悲惨な現実を次々と知っては、胸を痛めて落ち込んでいく純朴な孝子は、核兵器のその後の恐ろしさまでまざまざと見せつけられる。

かつて孝子の家の使用人だった、岩吉とのエピソードが印象深い。被爆して視力を失った岩吉は働くこともできず、たったひとりの身内である孫さえ施設に預けている。孝子は、少年の将来を思って瀬戸内へ連れて帰りたいと申し出るのだが・・・・・ふたりは離れたがらず、誰ひとりとして救うことのできない無力さに彼女は打ちのめされてしまうのだ。
岩吉を演じたのは宇野重吉さん、隣家のおばあさんは北林谷栄さん。味わい深い二人の居住まいに胸が打たれる。

  *  *  *

義務のように課してきた夏の戦争映画月間を、ことしは怠っていたなあとおもう。震災や原発関連の情報に気を取られていたのもあるけれど、みずから怖れを擦り込まないと、いろんなことが風化していって、また時代は繰り返されてしまいそう。
夏にはひとつでもふたつでもいい、反戦の映画をみておきたい。
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撮影風景のスチールはなごやか風景。監督の妻である乙羽信子さんが、せんじつの『鬼婆』とはまるで別人の清らかな美しさでおどろいた。おそるべし。  (100min)
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by haru733 | 2012-12-18 00:00 | 日本映画 | Comments(2)

さよなら子供たち (1987年)

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時代背景のたまらなくノスタルジックな、ルイ・マル監督の半自伝的、晩年の佳作。

ナチス占領下のフランス、カトリック寄宿学校に疎開しているジュリアンは、転入してきたボネと友情を育むが、彼は収容所送りを免れるため名前を変えたユダヤ人だった―。


寄宿学校ならではの静謐のなかで、四六時中生活を共にする少年たちの、いたずらや腕白の日々がとても瑞々しい。
ドイツ兵が街を横行しても、空襲警報に脅かされるくらいで、大人たちほど悲観的に暮らしていない元気な子供たちに、飾らない良さをいっぱいかんじる。

いまだに親元を離れて寂しいジュリアンと、なにやらワケありの転入生ボネは、さいしょ、お互いを意識しあいながらも、相手の様子を窺うていどの仲だった。
なんでもできるボネにライバル心を抱きつつ、プロテスタントだという彼の変わった行動が気になるジュリアンだったが、いつしか、ふたりの間には言葉にならない純粋な友情が芽生えていく。

素材そのまま、見事なまでにさりげなく、激動の時代のなかでジュリアンが経験する、初めての深い友情と別れが描かれている。

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裕福で優しい母親のいるジュリアンと、ひとりぼっちのボネ。ボネは素性を隠した自分の運命をどこか諦観してるようなところがあって、ついにゲシュタポに連行されていく段になっても、いつもとおなじ表情を崩さない。
涙を流すのはジュリアンばかりで、その淡々とした演出がたまらない。
ふたりは互いの愛読本を交換して、さよならをする。当然、ボネの未来にあるのは“死”だけれど、あくまでドライに閉じる幕切れが素晴らしかった。粉飾なしの切なさは、なにものにも代えがたい。
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ルイ・マル作品はまだあまり知らないけれど、『地下鉄のザジ』や『死刑台のエレベーター』が記憶に新しい。それぞれ趣向が違っていておもしろい。
はじめてのルイ・マル作品は、忘れもしない萎え映画『ダメージ』で・・・・こちらは好きになれなかった。以後しばらくは、マル監督に変な先入観を抱いていたものだった。

                                    (103min/フランス=西ドイツ)
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by haru733 | 2012-12-13 00:00 | フランス映画 | Comments(2)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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