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『記憶の絵』 森 茉莉

『記憶の絵』 森 茉莉_d0235336_2244681.png

 ファザコン女史、森茉莉さんは、できればおともだちになりたくないタイプ。
周囲を困らせる生活力のなさは自他共に認めるもので、わずか2ページのみじかい随筆はそれぞれに耽美だった。そのおおくにもどかしさが隠れていて、遅々として進まないのだけど。
偉大なる父、森鴎外作品をはじめ、しばらくは森離れしてしまいそう。

好ましいのは後半部。洋行の記憶と、心理学者・矢田部達郎氏への淡い恋慕の風景。
夫との短い夫婦生活が終わる、アンニュイでペーソス漂う最終項。

わたしもかつては美しかったと繰り返し書く、森茉莉さんの写真から美を見つけることはむつかしいけれど、幼少期の輝かしい暮らしは窺い知れた。
わがままだった彼女は、長生きをして孤独死をしたそうだ。

# by haru733 | 2015-03-16 22:05 | | Comments(1)

悪魔憑き考 『汚れなき祈り』『エクソシスト』  

 悪魔憑きを猜疑の目でみてしまう、カトリシズムとは無縁なわたしでも、本当に怖かった悪魔祓い映画があった。それは1973年製作の『エクソシスト』。懐かしい傑作ホラーを再見しながら、現代にあってなお悪魔憑きに振り回される、欧米社会に浸透する暗をおもう。

『汚れなき祈り』 (2013年) 
悪魔憑き考 『汚れなき祈り』『エクソシスト』  _d0235336_17491126.jpg

  ルーマニアの孤児院で育った後、国を出てドイツで働くアリーナ(クリスティーナ・フルトゥル)は、おなじ孤児院で一緒に育ったヴォイキツァ(コスミナ・ストラタン)に会うために、ルーマニアを訪れる。
唯一の友・ヴォイキツァと一緒にいることを願っていたアリーナだったが、修道院の暮らしで神の愛に目覚めたヴォイキツァは、今の生活に満足していて、院を出ることを拒むのだった。彼女を取り戻そうと次第に心を病んでいく彼女が、思いもよらない悲劇を引き起こしていく―。
2005年に実際に起きた事件を元に、人里離れた修道院で悪魔祓いの犠牲となった2人の若い女性の悲劇を描く。

凍えそうな冬の修道院。神父を”お父様”と慕う、清貧なシスターたちは互いに助けあい暮らしていた。その静寂をもろくも崩した、アリーナの異質さにヒリヒリする。
彼女に信仰はなく、あるのは一途にヴォイキツァを求める想いだけ。それは同性愛的ですらある。
情緒不安定な彼女の振る舞いに、秩序を失っていく修道院の面々は、狂い出した歯車をとめるどころか加速させながら、悲惨な結末へとむかうばかり。

怖いのは、理解できないものを排除する心理。心の病かと疑いつつも、良かれとして行われる儀式のほう。
病院を追い出されてしまったら、あとは宗教に頼るしかない思考停止が、集団ヒステリーを生む悪循環に寒気がする。外からみれば、悪魔憑きとは、こんなに滑稽であるのに。

神経質な顔のアリーナと、いかにも可憐なヴォイキツァ、対照的なふたりの女優さんが印象にのこる。ムンジウ監督は『4ヶ月、3週と2日』でも、対照的な女性を配置して、こころの機微を穿っていた。
つい10年前に起こった出来事とは、にわかに信じがたい。ヴォイキツァは、何もできずに親友から引き離され、ただ見ているしかなったけれど、いまも神に仕えて、いまも拘束されたまま死んでいったアリーナの無念を祈っているのだろうか。

 (監督 クリスティアン・ムンジウ /ルーマニア=フランス=ベルギー合作/150min)


『エクソシスト ディレクターズカット版』 (1973)
悪魔憑き考 『汚れなき祈り』『エクソシスト』  _d0235336_1010139.jpg

 オリジナルに10分ほど追加された2000年公開バージョンで再見。もう、文句なしにいま観てもおもしろい。
 人気女優(エレン・バースタイン)のひとり娘リーガン(リンダ・ブレア)は、あるときから、不可思議な言動を繰り返すようになり、エスカレートさせていく。彼女の肉体に憑依した悪魔と、悪魔払いに立ち上がったエクソシストの恐怖の死闘を描いた大傑作。

愛らしかった12歳のリーガンが、あれよというまにおぞましい存在へと変わるショック!奇行を繰り返し、暴力を振るい、猥言を吐き散らすさまは、とても子どもとは思えない、リンダ・ブレアちゃんの怪演が最高。
他の悪魔憑き映画と一線を画すのは、なんといっても、終始、心身の病を疑う視点から描かれる展開。脳のカテーテル検査はじめ、あらゆる先進医療に頼って、心の病を疑い、それをリアルな映像でみせる説得力。
なにをやってもリーガンの様子は酷くなるばかりで、万策が尽きたところでようやく疑心暗鬼でたどり着くのが、悪魔祓いの儀式なのだった。

教区の神父カラス(ジェイソン・ミラー)は、貧しいスラムの人々をおもうように救えず、老いた母の介護もままならず、信仰を揺るがさせている。その不確かさがいい。当初、悪魔祓いの儀式にさえ懐疑的なのだ。
イラクから呼び戻された、学者でありカトリック神学者でもあるエクソシスト、メリン神父(マックス・フォン・シドー)と悪魔の対決を目の当たりにして、はじめて、想像を絶する世界を信じ、対峙していくことになる。

いまとなっても演出にまったく古臭いところがない。えぐいシーンのオンパレード。語り草となっている、リーガンの蜘蛛歩きと、ゲロシーンなど、まさに悪魔憑き映画の金字塔だとおもう。
ラストで、なんの抵抗もなく、悪魔の存在をちょっとだけ信じさせる、不気味な幕引きがすきだ。


1976年にドイツで、悪魔憑きを法廷で争った事件を基にしたのが、法廷サスペンス映画の『エミリー・ローズ』(2005年)。
昨年観た『ポゼッション』は、2004年に起こった出来事を基にしていたらしい。
こうみても、欧米では悪魔がとり憑くという概念がまだ存在している。それは日本にいると、とても奇妙な現象で、馬鹿げているけれど、概念の刷り込まれる恐ろしさは、宗教に限らず目に見えないとても恐ろしいことにちがいない。

 (監督 ウィリアム・フリードキン/アメリカ/132min)
# by haru733 | 2015-03-07 13:16 | ルーマニア映画 | Comments(0)

U Want Me 2 Kill Him ユー・ウォント・ミー・トゥ・キル・ヒム (2013年)

U Want Me 2 Kill Him ユー・ウォント・ミー・トゥ・キル・ヒム (2013年)_d0235336_17562263.jpg

 2003年に英国で実際に起きた事件の映画化。
 高校生のマーク(ジェイミー・ブラックリー)は、インターネットを通じて知り合った女性レイチェル(ジェイミー・ウィンストン)に好意を抱く。チャットの世界に没頭するうち、とんでもない情報操作によって殺人まで犯していく、青年たちの危ない心理を描いたサスペンス。

一度も会ったことのない相手に本気になれる気が知れない。とはいえ、好きになった人から、いじめられっこの弟と仲良くしてあげてと頼まれたら、クラスにいる弟ジョン(トビー・レグボ)に目を掛けてあげるようにはなるだろう。ふたりは気が合い、急速に友情を深めていった。
ある日、チャットルームからレイチェルが消え、ジョンから“姉が死んだ”と告げられるマーク。アパートの屋上からの飛び降り自殺だった。
恋人のケビンからDVを受けていたことを知るマークは、ケビンの仕業だと思い込み復讐を計画するが―
しかし、おそるべきは、その先。
ケビンを囮に、テロリストを追っているという英国諜報部MI5のエージェントがマークに接触してきて、本物であることを確信した彼は、ケビンではなく別の人物の殺害依頼を受けてしまう。その標的とは、継父がイスラム過激派であると噂される、親友のジョンだった....。

架空の出来事を信じさせてしまう、凶器としてのネット。そこはウソで溢れている。無思慮な一面を持つマークは、だけど激しい怒りで判断力を欠き、英雄になれるというMI5からの言葉を鵜呑みにしてしまった。
親友を殺す、という...信じられない行動にまで出て。

ネタバレになるので割愛しつつ。マークが掛かったのは、あまりにも姑息な、もっとも身近な者が仕掛けた驚くべき罠だった。英国諜報部なんて存在しないのだ。
地味な本編の強みは、ただひとつこれがノンフィクションであるという事実だ。

ちなみに。スチール奥のおしゃれパーマの青年がマーク。彼は決行前に頭を刈るのだが、イケメンな雰囲気は髪型から漂っていたようで、坊主になったマークをすぐに認識する事ができなかった。持論では、ほんとうにカッコ良い人は、坊主も似合う。

 (監督 アンドリュー・ダグラス/92min)
 
# by haru733 | 2015-03-07 09:55 | イギリス映画 | Comments(0)

わたしはロランス (2012年) 愛がすべてを変えてくれたらいいのに 

わたしはロランス (2012年) 愛がすべてを変えてくれたらいいのに _d0235336_1447462.jpg

 はじめてのグザヴィエ・ドラン監督作は、ものすごくおもしろいものだった。
たとえば、ジョン・キャメロン・ミッチェル氏やペドロ・アルモドバル氏の作品をはじめて観たときと似てる。
カラフルで、ちょっと奇妙で可笑しくて、感性豊かで、ゲイであることを告白した監督にしか描けない世界。
倒錯した性のあり方は歪だけれど、他にはない、人生を生きる深い切なさで満ちている。

カナダ・モントリオール。国語教師をしながら小説を書いているロランス(メルヴィル・プポー)は、30歳の誕生日を迎え、交際相手のフレッド(スザンヌ・クレマン)にある告白をする。それは、かねてから女性になりたいと思っていたということだった。
ショックを受けたフレッドは、一度は非難しながらも、かけがえのない存在であるロランスを失うのを恐れて、良き理解者となることを決意する。やがて、偏見から職場を解雇されたロランスに、追い討ちをかけるように、フレッドの浮気が告げられるのだが―。

フレッドの不満や不安や孤独をおもえば、他の男と全うな道を探る気持ちはよくわかる。もう若いとはいえない歳頃の感覚が、当時23歳のドラン監督には手に取るようにわかって、描けてしまうらしい。
同時に、カミングアウトしたあと、偏見ひどい田舎町を離れ、外国で作家として成功していくロランスは、ゲイとなった人特有の生きる強さを纏っていく。
ゲイの方たちがとことん傷つき悩んだ末、身につけるらしい堂々たる生き様を、わたしはすごいとおもっていて、人生を達観できる能力は、ただの男よりもただの女よりも、ずっと優れていると感じずにいれない。うらやましいほど。
もともとイケメンであったメルヴィル・プポー氏が、皺の目立ちはじめた顔に化粧して、女装姿で凛としているだけで不思議と胸を震わせる。そして、フレッド役のスザンヌ・クレマンの存在感がまたすごいのだ。

鮮やかな色使いで、どのカットもとても美しい。何度もアップで映し出される、感情丸出しのふたりがあまりに魅力的だ。目に焼きつく絵になる場面を切り取って、繋げて、時間軸を遊んだテンポのよい作品は、さいごまで引き込まれたままだった。

恋人で、家族で、親友だった、ロランスとフレッド。ふたりは、ロランスの告白を境に、偏見と好奇の目に晒され、求めるものが違っては離れ離れになる。それでも、別れたあとも想い続けて、再会を果たすとき。
もう互いの元へ戻ることはないと知れる、微かな心のズレが切なさを醸し出した。
そうしてドラン監督は、ふたりが出会った瞬間へ、一気に引き戻す....憎らしいラストカットだった。

 (168min/カナダ=フランス合作)
# by haru733 | 2015-03-06 12:41 | カナダ映画 | Comments(0)


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