日本映画いろいろ

すごく良かったのと、勿体なかったふたつの邦画について。
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 『オリヲン座からの招待状』 (2007年) 

 
 この魅力的なスチール!映画館を舞台にしたノスタルジックな物語に、宮沢りえと加瀬亮の味のある佇まい──これだけ良い素材が揃って膨らまない感動で終わってしまったもったいない本作。

昭和30年代、館主が病に倒れた小さな映画館“オリヲン座”では、未亡人のトヨ(宮沢りえ)が夫の遺志を継いで劇場を守っていた。そんな彼女を唯一傍で支えてくれたのは、映写技師見習いだった青年・留吉(加瀬亮)だ。2人は、周囲から心ない噂をたてられながらも、テレビの台頭で苦しくなっていく映画館を守るため懸命に働き続ける。
あれから何十年、そんなオリヲン座にもついに閉館の日がやってきた。最終興行の日、客席にはかつてこの劇場を心の依り所としていた幼馴染のふたり、祐次(田口トモロヲ)と良枝(樋口可南子)夫婦の姿もあった──。
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戦後のノスタルジックを背景に、優しく静かに流れる時のなかで、ふた組の男女が育んだ愛の行方はたしかに切なくてかけがえのないもの。劇場の衰退とともに、トヨと留吉の人生にも終焉時が迫る。シチェーションは王道をいくドラマチック。
けれど、ここには大事なものが欠けているとおもう。それはパッション。たとえば、映画ファンに愛される名作『ニュー・シネマ・パラダイス』の主人公サルヴァトーレは、愛したエレナが振り向いてくれるまで、雨の日も風の日もずっと待ち続ける情熱を持っていた。しかし本作は、互いに惹かれあいながらも感情をさらけ出す場面がない。そでれは淡白すぎて寂しい。せめて蛍を蚊帳に放ったあの夜、抑圧してきた想いを溢れさせるシーンのひとつくらいあったらよかったのに。そしたらすこしなにかが違っていたかもしれないのに。
内容はともかく、主演の二人の好演は一見する価があるほど見逃せないものでした。




 『空気人形』 (2009年)
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 これはもう、ほんとうによかった。すごくいい。

ひょんなことから心を持ってしまった“空気人形”が様々な出会いを通して味わう感情の移ろいと、対照的に浮き彫りとなる現代人の孤独と空虚感を、ユーモアと赤裸々なエロティシズムを織り交ぜつつ、切なくも繊細に描き出してゆく。 (allcinema)

心があるから切なくて、心があるからぬくもれる。空気人形が身をもって教えてくれる人間存在の儚い尊さや愛おしさに胸がぎゅっっとなった。人形の持ち主・秀雄(板尾創路)も、彼女が心を持ってはじめて恋をしたレンタルショップの店員・純一(ARATA)も、みんなみんなが孤独を抱えて生きている。
彼女が人形であると知って、それでも一緒にいるようになる、純一の心の闇は一等深い。彼が、「身体の空気を抜かせてほしい・・・・」と虚ろな眼で頼む場面など打ちのめされてしまう。俳優ARATAの醸し出す空気感がたまらない。
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現実世界は、きっとこんなふうに曖昧模糊としていて、いろんな感情があふれていて、だから苦しくなる。うまく
説明できないけれど、現代人の孤独の深淵を穿つなかなか巡りあえない佳作だとおもう。d0235336_21121369.jpg

淋しく思うのは、佳作のヒロイン役が日本人でないことか。ヌードになることを厭わず“空気人形”のサガを完膚なきまでに演じたのは、韓国の女優さんで『グエムル -漢江の怪物-』に出演していたペ・ドゥナだった。
彼女がまたモーレツにかわいいのだが。
男たちの性処理人形であるじぶんをしずかに諦観しながら、作り物の可愛さを大胆に演じる女優さん・・・・たしかに日本には見当たらないのが悲しい現実。


上記の『オリヲン座からの招待状』がストレイトに映画ファンを呼ぶのに対して、こちらも密かに映画ファンの心をくすぐる場面がいっぱい投入されている。
純一が働いているのはレンタルショップ、名作からの引用もある。
ちなみに、川端康成の『眠れる美女』をおすすめしてもらい、いま読んでいるのだけれど、ふとこの『空気人形』を思い出すときがある。小さな部分的なニュアンスがほんのちょっと似ているのかもしれない。
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by haru733 | 2012-09-11 00:00 | 日本映画 | Comments(2)
Commented by あぶく at 2012-09-16 12:16 x
こんにちは♪
haruさんは、加瀬さんがお好きなのでしたね(*^^*)
いいー役者さんですよね! 
私は最近の宮沢りえさんもお気に入りの女優さんです。
パッション … なるほど! 
haruさんが書いて下さらなければ、思いつかなかった視点でした。
味のある作品でしたが感想を書かずに来てしまいましたが、ここでお話させて頂けたのでとても嬉しいです。

『空気人形』は私も意外にもとちょっと嬉しくなった作品でした。
是枝監督の審美眼というかキャスティングも見事でしたね。
過去の同監督とARATAのタッグ作品とは少し違うな…と感じましたが
撮影を手掛けた方が違っているせいでしょうか?
ペ・ドゥナちゃんの細くて長い手足がまるでお人形のようでした(*^^*)
Commented by haru733 at 2012-09-17 22:33
あぶくさん、こんにちは。

パッションなんて偉そうなことを書いてしまいましたが、某所でみつけた感想に勇気を得ていうと、
留吉が童貞にみえてしまう―のでした。

そしてわたしは、あんな美しい未亡人と好意を抱きあいながらそんなわけないじゃん! と思うのです(笑)
蚊帳の場面で、ふたりが布団にバサリとフェイドアウトなんてベタな演出はもってのほかですが、せめて留吉から男らしく結ばれたと覚えるシーンがあってほしかったなって。。


>『空気人形』

是枝監督とARATAは古い繋がりがあったのですね。
『ワンダフルライフ』は見ておきたいなーと思いました。
これまでとの違い・・・近くたしかめてみますね。
それにしても見事なキャスティング! ペ・ドゥナちゃんの代わりをつとめられそうな日本の女優さんが浮かばないほどです・・・。


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