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CUT (2011年)

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 昔ながらの映画館は数を減らして、どこの街にもシネコンが増えた。骨なしの商業映画ばかり流行ることを喜べない映画ファンは、危機的状況とおもいながら、目立たなくても良い作品を求めてミニシアターへと通う。
イラン出身のアミール・ナデリ監督は、この悲しい現状に警告を与えるように、主人公の言動をとおして、持てる映画愛のすべてをぶつけて本編を撮りあげたんだろうな。

主人公の秀二は、良質な映画の衰退を憂うあまり、自宅の屋上で名作のリバイバル上映を行い、映画の危機を訴える街頭演説をぶっている映画監督。はじめからちょっと変った男なのだ。あるとき、突然死んだ兄がヤクザに多額の借金をしていたことを知り、追い詰められた彼は、ヤクザ相手の殴られ屋となって金を捻出するのだが・・・・。

瀕死の秀二は鬼気迫り、狂気と化す。毎夜ボコボコにされて血に染まっていくのに、滑稽なほど頑なな彼はそれをやめようとせず、映画愛によってだけ支えられ生き延びている。
100のパンチの痛みを100の名作を思うことで耐える秀二は、かなりイカレてはいないか。よく考えたら滑稽な物語なのだ。その100本だって(もちろん名作揃いだけれど)、監督がチョイスした100作なのだから、頑なさと暴力と映画を繋ぐ必然性が見当たらない限り、感情移入のむずかしい独りよがり映画といわれても仕方がない。金を貰い殴られているのは投影された監督自身の姿なのだ。
それでも挿入される往年の監督名や、愛すべき名場面にうれしくなるのは確実で、ポスターやスチールで埋め尽くされた秀二の部屋など垂涎ものだし、彼がぶつ演説もほんとうにそのとおりなのだった。

ここに描かれた映画愛と暴力をみていると、敬愛するばかりにどうしても塚本晋也作品が彷彿とする。極力CGに頼らないアナログな魅力、徹底的な暴力、焦燥、そして映画バカが滲み出る塚本作品。それがいかに自分と相性の良いことか。『CUT』ほど直球に映画を描かなくとも映画を感じる作品はたくさんあるってことを、かえって浮き彫りにした作品でもあるとおもう。

印象的だったのは、秀二を終始気遣うバーテンダー役の常盤貴子。そして、でんでん。でんでん氏の、近頃のヤクザな役柄はピカイチだとおもっている。『アウトレイジ』シリーズにいないのがびっくりなほど、"ヤクザ"いや"チンピラ"がよく似合っていた。
屋上の劇場も印象的だった。あんなふうにしてみんなで名作映画を観てみたいものです。それから西島秀俊。彼の細マッチョな体に名シーンを投映させた美のコラボレーションがすばらしかった。名画に傷を癒されているかのような彼の眠りは“映画の力”を見せつける驚くべき名シーン。



(監督 アミール・ナデリ/120min)
by haru733 | 2012-11-03 00:00 | 日本映画 | Comments(4)
Commented by あぶく at 2012-11-04 23:42 x
こんばんは。
まず、人が殴られるのを観ているのは本当に辛かったので、その部分は早回ししました…(;^_^A
私も秀二のあの屋上での上映会に参加してみたいと思いましたよ。
さてこの作品は、haruさんが書いていらっしゃるとおり、実に実に「直球」でしたね。
その表現にはちょっと驚いたくらいです。塚本監督も私はよく存じ上げないのですが、haruさんは敬愛されていらっしゃるとのことで、今後のご感想も楽しみにしております♪
でんでんさん、笹野さんらの脇を支える役者さん達も良かったですよね。
シネコンでも小さな良品を上映してくれると嬉しいのですけれど。
『BOX袴田事件 命とは』など上映してくれる映画館が近くにあることを、今は感謝しています。
Commented by haru733 at 2012-11-05 20:50
あぶくさん、こんばんは。

あの屋上の上映会はよかったですね。風を感じながらの無声映画。
これほどストレートに映画を語る映画は、この先現れない気がします。
敬愛監督・塚本晋也氏ですが、暴力描写は『CUT』よりハードなのでおすすめできないかもしれませんが・・・おすすめ(したい)です。
あぶくさんがお好きそうなのは『ヴィタール』や『双生児』かしらと想像したり。
彷彿としたというのは『TOKYO FIST』や『BULLET BALLET』でした。


『BOX袴田事件 命とは』はこちらでも上映していたのかな。ノンタッチな作品でしたよ。機会をみつけたらぜひ観てみます。
Commented by あぶく at 2012-11-05 23:08 x
再びお邪魔致します♪
ご紹介していただいて、ありがとうございます!
早速作品を調べてみたところ、すっかり失念してしまってましたが、『双生児』はずっと以前に観ておりました(^^ゞ
たぶん本木くんを辿って色々観た時の一作だったと思います。
おどろおどろしている部分が怖かったですが、とても独特な雰囲気だったのは思い出しました。塚本監督だったのですね~
『鉄男』も一部分は観たような。
なるほど…人を惹き付ける魅力と実力が有る監督なのでしょうね!
誰の作品にも似ていない、塚本監督だけが作ることができる世界をお持ちなのだろうと、2作しか知らずに勝手に想像しちゃってますので、違っていたらすみません。
『ヴィタール』は勇気を持てた日に借りて来て是非鑑賞したいと思います♪
 
Commented by haru733 at 2012-11-06 20:39
あぶくさん、こんばんは。
『双生児』と本木くん、どちらも良かったですよね。異色な作品でしたが好きです。『鉄男』こそハードだったでしょ~ぅ(笑)
塚本作品は個性的です、この人見た目以上にカッチョいいおじさまなのです!
『ヴィタール』は浅野忠信主演の摩訶フシギな形而上の物語なので、大丈夫だとおもいますよ。ぜひに。


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


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