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ヒミズ (2011年)

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 一年を纏めるにはまだちょっと早いけれど、ことし出会った初見の映画のなかで、私的に一等良かった作品を挙げると、『KOTOKO』や『ムカデ人間1,2』『その夜の侍』『海炭市叙景』、古いもので『キャバレー』『美しき冒険』かなとおもう。
鬼才・園子温監督が、古谷実の同名コミックスを映画化した本編もまた、ことし観た脱帽の佳作だった。


貸しボート屋の息子・住田祐一(染谷将太)は、愛のない両親に育てられ自らの未来に絶望していた。
彼に好意を抱いているクラスメイトの茶沢さん(二階堂ふみ)は、似た境遇にありながらも努めて明るく振舞い、積極的にアプローチを繰り返している。
腐った大人にはならないと耐え続けてきた祐一の運命は、しかし、蒸発した父親(光石研)が戻ってきた日を境に、大きく狂い始めてしまう――。


絶望、絶望、絶望、絶望・・・・・・そして希望・・・。
マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した、染谷将太と二階堂ふみの力強いもがきや、叫びが、物凄い。
震災後の情景を舞台にしたことで、その絶望が被災者のそれと重なり、彼らの再生や希望は、苦しむ人々を救って、復興さえ後押ししてくれそうな力強さに満ちていた。

津波で荒涼とした土地、荒廃した心。祐一と茶沢さんを見守ってくれるのは、唯一、ボート屋の傍に住み着いた、良心溢れる変わり者のホームレスたちだ。
渡辺哲、諏訪太朗、吹越満、神楽坂恵ら、園ファミリー勢ぞろいで若者たちの咆哮を抱きとめる。

人でなしの大人オンパレードのなかで、祐一は、自分だけは清く平凡な大人になりたいと思っていた。そう願っていたのに・・・・ささやかな望みさえ奪われ、気がつけば血は争えない父親殺しの犯罪に手を汚していく・・・・。
しかし、絶望から容赦なく転落していく祐一を、たったひとり気丈に引きずり上げる茶沢さんの頑張りは、そんじょそこらに転がっていない、ダイヤモンドの原石みたいにひときわ輝いている。いじらしくて、強靭で、二人の壮絶な芝居は脱帽ものとしかいいようがない。末恐ろしいほどの見事な掛け合いは、バンザイしたくなるほど立派だった。
たった15歳、されど15歳。人生観に泣けて胸がイタい。どんなに狂っていても、ピュアなハートは絶望ののち晴れてほしい。ちょっぴり幻想的で過酷すぎる物語は、幕を閉じるまえに観客に強力なメッセージを残していった。
繰り返し流れるテーマはモーツァルトの『レクイエム』で、情感をさらに引き立てて心に沁みた。

せんじつ『その夜の侍』で顔面にプリンを塗りたくる堺雅人がスゴイとおもったばかりだけど、染谷くんの顔面絵の具シーンも、相当にすごかった。彼は若手実力派俳優ナンバーワンではないだろうか。
はじまりは『気狂いピエロ』か、その後もトラン・アン・ユンの『シクロ』など、顔を染める象徴的なシーンには名場面がいっぱいだ。

ちなみにタイトルの「ヒミズ」とは「日不見」と書いて、日本固有のモグラ科の哺乳動物。暗闇に生きる主人公に例えているとおもう。
茶沢さんが幾度も朗読する印象的な詩はフランソワ・ヴィヨン。

  牛乳の中にいる蠅 
  その白と黒はよくわかる 
  どんな人かは 
  着ているものでわかる 
  天気が良いか悪いかもわかる 
  何だってわかる 
  自分のこと以外なら


「軽口のバラード」、詩集を手にとってみたくなった。



                                          (129min)
by haru733 | 2012-12-08 00:00 | 日本映画 | Comments(4)
Commented by あぶく at 2012-12-09 21:13 x
こんばんは。
話題になっていたので観てみようと思っていた作品ですが
haruさんの文章に引き込まれて、観る前に読んでしまいました(^^ゞ
少し先になりますが観賞後にまた伺いたいです♪
彷徨う魂の詩なのでしょうか。私もフランソワ・ヴィヨンの詩集も気になります。
Commented by haru733 at 2012-12-09 23:31
あぶくさん、こんばんは。
いつか、園子温監督の撮影模様を特集したドキュメをみて、期待度マックスでしたが、想像以上でした。
ものすごくパワー漲る、311以降の日本を意識した佳作だとおもいます。
ガンバレとか、夢を持てとか、氾濫した言葉の重みが、ここでは真に相手に向かって投げかけられていて、感慨深いのでした。
おたのしみに♪
感想を待ってます。
PS 詩人ヴィヨンが気になりますねー
Commented by あぶく at 2013-03-22 01:20 x
やっと観ることができましたので、再びお邪魔致します。
実に衝撃のパワーでした。見応えありました。
茶沢さんと住田くんのあのかけ合いは、原作なのでしょうか、監督のオリジナルなのでしょうか?
それにしても日本のコミックは優秀ですね。
この監督の過去作品も観たくなりましたが覚悟しなくちゃ、重そうですね。

Commented by haru733 at 2013-03-23 04:17
あぶくさんへ。ご覧になられましたかー。
圧倒的なパワーでしたね。ふたりの掛け合いは監督によるものとしても、感情の発露が半端なくて、こういう青春映画はだいすきです。
先日、原作の絵をみたのだけれど、イメージとちがいますよね。興味ありつつ未読なままです。

>園監督

ずいぶん前から映画を撮っていたのに、存在を知ったのはここ数年。初期作品の『うつしみ』は重たくないけれどかなりびっくり内容でしたよ…


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


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