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原爆の子 (1952年)

原爆の子 (1952年)_d0235336_2181149.jpg 新藤兼人監督・脚本による被爆児たちの体験記を元にした社会派ドラマ。
生々しい戦争の傷痕を残した瓦礫だらけの広島の情景が強烈。それもそのはず、原爆投下からわずか7年後の広島で撮影された本作は、終戦後、原爆を取り上げた最初の日本映画なのだそうだ。
古い映画には、歴史的に貴重な風景が留められた作品というのがあるけれど、こちらもまさにそう。

原爆で家族みんなを亡くしひとり生き残った保母の孝子(乙羽信子)は、いまは瀬戸内海の小島にある親戚の家で、小学校の教師をして暮らしている。
終戦後ひさしぶりに家族の眠る広島へ渡った彼女は、元同僚の元に世話になりながら、かつての教え子たちを訪ね歩く。そこで孝子が見たのは、あまりにも悲惨で過酷な現実だった―。

教え子で生き残ったのはわずかに3名、感動の再会に手放しの笑顔はない。
浮浪者同然の暮らしをしていたり、不遇にあったり、被爆者だと差別されることもある。そして今まさに死と向かいあわせの少女が祈りのなかにいる・・・・・。
悲惨な現実を次々と知っては、胸を痛めて落ち込んでいく純朴な孝子は、核兵器のその後の恐ろしさまでまざまざと見せつけられる。

かつて孝子の家の使用人だった、岩吉とのエピソードが印象深い。被爆して視力を失った岩吉は働くこともできず、たったひとりの身内である孫さえ施設に預けている。孝子は、少年の将来を思って瀬戸内へ連れて帰りたいと申し出るのだが・・・・・ふたりは離れたがらず、誰ひとりとして救うことのできない無力さに彼女は打ちのめされてしまうのだ。
岩吉を演じたのは宇野重吉さん、隣家のおばあさんは北林谷栄さん。味わい深い二人の居住まいに胸が打たれる。

  *  *  *

義務のように課してきた夏の戦争映画月間を、ことしは怠っていたなあとおもう。震災や原発関連の情報に気を取られていたのもあるけれど、みずから怖れを擦り込まないと、いろんなことが風化していって、また時代は繰り返されてしまいそう。
夏にはひとつでもふたつでもいい、反戦の映画をみておきたい。
原爆の子 (1952年)_d0235336_218562.jpg

撮影風景のスチールはなごやか風景。監督の妻である乙羽信子さんが、せんじつの『鬼婆』とはまるで別人の清らかな美しさでおどろいた。おそるべし。  (100min)
by haru733 | 2012-12-18 00:00 | 日本映画 | Comments(2)
Commented by あぶく at 2012-12-21 22:42 x
こんばんは。
haruさんの作品選びはいつも勉強になります。
そしてまた、今回は

>夏にはひとつでもふたつでもいい、反戦の映画をみておきたい

の一文に感動しました。
自分の中にも思いはあったものの、辛すぎて避けて来たので、
来夏haruさんの後に続いて私も何か一作観ておかなくちゃと思いました。
地球規模の過ちの真っ只中にいた日本を、その辛さを風化させないように。
宇野重吉さん、北林谷栄さんのお名前、懐かしいです。
日本を代表する名俳優たちですよね。
新藤兼人監督の作品もじっくり観たことがなかったような気がするので、トライしてみたくなりました。
Commented by haru733 at 2012-12-22 10:45
あぶくさん、こんにちは。
ひとつの作品から枝葉のように観たいものが増えていって。
こちらも故新藤監督の魅力に気づいて、オンラインレンタルしたのでした。
エラそーなこと書いていますが、なかなか気持ちをそこにもっていくのはむずかしいです。
落ちているときは無理ですし。
それでも、義務のように、来年はちゃんと観たいなと。

北林谷栄さんはほんといろんな作品に出てらしたんですねー
『ビルマの竪琴』が忘れられない女優さん。
宇野重吉さんといい、みなさん亡くなられてしまいましたね。


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


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