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風立ちぬ (2013年) 風立ちぬ、いざ生きめやも

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 零戦の設計者として知られる堀越二郎の半生に、堀辰雄の自伝的小説『風立ちぬ』のエピソードを盛り込んで描いた宮崎駿監督最新作。内容はすでに有名なものとなっているので割愛します。

主人公・二郎の夢は、美しい飛行機を作ること。同時にそれは、軍事国家日本の威信にかかわるものでもありました。やがて粋を集めた努力の結晶、零戦は、たくさんの兵士たちを乗せて、そのほとんどが還ってこなかった....。
誰もがじぶんを押し殺して生きた時代、ひとりの青年の夢と苦悩と愛を通して、背後に広がる大きく深い一時代の闇と希望を描き出した傑作。

二郎の夢を手をとりあって追いかけるのは、震災で出会い、数年後、軽井沢で再会した菜穂子でした。彼女はすでに結核を患いながらも、ギリギリまで二郎と共に生きるのです。健気な新婚生活から、寒々としたサナトリウム、潔い身の引き際まで、、うつくしくて悲しくてしかたがなかった....。燃え上がる若い男と女を、ジブリがかつてこんなに踏み込んで描いたことがあったでしょうか。そこだけとっても、宮崎監督の意気をかんじるのです。

戦争へと突き進んでいった日本の薄ら寒さとは対照的に、二郎が幼い頃から度々見る幻想的な夢のシーンが秀逸。
憧れの飛行機設計士カプローニとの夢の世界は、独創的で、フェリーニの描いた白昼夢のように異世界へと運んでくれます。締め付けられた気持ちがにわかに緩むひととき。
飛行機の飛ぶ音など、人の声で吹き替えたらしい演出もすごく良く、作った音では出せないざわざわとしたこわさがすばらしいのでした。

夢見る堀越少年をノスタルジックに描いた最冒頭から、つぎの青年期にとつぜん起こる関東大震災の場面は、ド肝を抜かれるのではないでしょうか。恐ろしく描かれる天変地異をまえに何もできない人々が、やがて助け合い復興していく姿は、311東日本大震災へのたしかな系譜と捉えたい...。
今を生きる若者たちがこの映画をみて、自国の歴史にあらためて何をかんじるのでしょう。当時の近代国家になるための努力と希望と、その裏側にあった闇も罪もひっくるめて、老年期を迎えた宮崎監督のひとつの遺言におもえて仕方ない。

風立ちぬ、いざ生きめやも

ポール・ヴァレリーの詩の一節であり、堀辰雄の小説にも本編にも登場するこの言葉。「いざ生きめやも」には「生きることを試みなければならない」という意志と、その後の不安が一体となっているのだそうです。
だけど、わたしはこう訳したものを信じたい。

「風が立った、さあ生きようじゃないか!」


何度も繰り返し流れるテーマ曲。久石譲さんのメロディラインは聴いているだけで泣けてくるよ

(126min)
by haru733 | 2013-07-27 00:00 | 日本映画 | Comments(2)
Commented by kanae at 2013-07-28 08:43 x
haruさんの感想を読んだら、ますます観たくなりましたよ。
ギターの曲もいいですねー
これ聴いただけでもじんとします。

飛行機の吹き替えしてるところ、この前テレビで観ました。
すごいですよね!
Commented by haru733 at 2013-07-28 09:20
kanaeさん
あの゛音″、肉声でしかできないものですね!すごい。
純粋に観たくて前評判もなんの情報も持たずに見に行ったのです。
そうして傑作だとおもいました。
堀辰雄の『風立ちぬ』もよかったです。


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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