『ヴィヨン全詩集』 鈴木信太郎訳

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 園子温監督の『ヒミズ』の中で、主人公が朗読していたのは、フランソワ・ヴィヨンの「バラッド」でした。

 牛乳の中にいる蠅 
 その白と黒はよくわかる 
 どんな人かは 
 着ているものでわかる 
 天気が良いか悪いかもわかる 
 何だってわかる 
 自分のこと以外なら

 (『ヒミズ』より)

詩は難しい。わかるだけでなく相性があるとしても、心に響いてこなければ、目でなぞるだけになってしまうもの。どんなに有名な詩人の作品でも、良さを感じ取れないときは、静かにページを閉じるしかないのです。いや、正確にはやはり、最後まで目でなぞってから閉じるのだけど。
これまでそうしてきたと思い出す、リルケも萩原朔太郎もタゴールもウンベルト・サバも、とくにリルケは敬愛する作家さんが愛読した詩人なだけに、わからないことが淋しかった。

フランソワ・ヴィヨンは15世紀フランスの詩人。中世最大とも、最初の近代詩人ともいわれる人。放蕩と放浪の生活を送り、幾度か牢獄に入ったあと死刑宣告を受けるも、のちに釈放されて行方不明になったという。
映画で気に入ったバラッドも翻訳が違って、また一味違った趣で収録されています。

 牛乳の中の蠅、黒白が わたしには解り、
 衣装を見れば 人間が わたしには解り、
 お天気が良いか悪いか わたしには解り、
 林檎の木で林檎の味が わたしには解り、
 (中略)
 わし自身の事のほか、何も彼もわたしには解る。



韻を踏んだ形式を正確に訳すとこうなるのでしょう。それにしても、またしても、期待したほどは感慨少なく、「形見の歌」「遺言詩集」などストレートで愛嬌を感じるところも多かったのだけれど、目でなぞった感が残ります。そうしたまま、終わり近くで見つけたバラッドが、一際よく感じ入れたのです。


 湖のほとりに佇んで 喉が渇いて私は死ぬ、
 火のようにのぼせ上がって、歯の根が合わずに震えている。
 自分の国に住みながら 遠くの土地に居るようだ。
 真赤な炭火の傍らで 熱気に悪寒の胴震い。
 蟲けら同前 素裸で、裁判官の毛衣を着、
 泣きながら 私は笑って、希望もなしに期待して、
 悲しい絶望のどん底で 再び元気を取り戻す。
 好い気持ちに楽しみながら 楽しみは何一つない。
 勢力は私にあるが 強力でもなく 権力もなく、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

 不確実な物事のほか 確かなものは私に無く、
 はっきり見えるものを除いて 曖昧なものは何もなく、
 確かなことについての他 疑いを私は抱かぬ。
 不意打の偶発事件で 知識を捉え、
 博奕では大儲けをしながら いつでも一文なしで、
 朝の夜明けの挨拶は、「ゆっくり寝みなさいまし。」
 仰向けに長々と寝ながら、墜落をするのが怖い。
 たっぷりと何でも持っているくせに 実は一つも持っていない。
 相続を当てにしているが 誰の相続人でもなく、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

 何にも気には掛けないが、それでも苦労のし続けで、
 お金を儲ける苦労だが、齷齪儲けたくもない。
 最善の言葉を私に言う人が、一番私を苦しめて、
 一番の真実を語る輩が 最も私を愚弄する。
 真白な白鳥を指して、これは真黒な烏だ、と
 解らせて納得させてくれる人が 真の私の友達で、
 私を害うものを 私は 力限り助けてくれるのだと思う。
 嘘も 本当も 今日の日には 私にとって一つ事、
 すっかり私は憶えているが、何にも私は考えられぬ、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

 寛大な太公よ、憚りながら 私を なかなか気の利いた
 奴だが 思慮も分別もない小人だと 認めて下さい。
 不逞の徒であるとは申せ、天下の法に遵っている。
 その上 何が出来ましょう。何事が。俸祿を再た戴いて、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

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by haru733 | 2013-12-29 18:25 | | Comments(0)


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