私の男 (2013年) あれは私の全部だ!

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 とてもすきな桜庭一樹さんの原作を、熊切和嘉監督が映像化した『私の男』。
 奥尻島を襲った津波で、10歳で孤児となった花を引き取り、父となった遠縁の男・淳悟。北の大地で寄り添うように暮らす孤独なふたりが築いた、家族という名の濃密な世界と、やがて待ち受ける悲愴な運命を描く―。

タブーだらけの原作を、こんな風に映像化できるひとは、きっと邦画界にそう何人もいないとおもう、若き俊才、熊切監督の手がける文芸物は、どれも好きです。北海道、紋別市の厳しいオホーツクの自然を、北国で生まれ育った監督が見事に切り取っていく。

当然の成り行きのように堕ちていく、花と淳悟の暮らしは猥りがわしい。ニセの父娘は、実際血より濃い血脈で繋がれて離れられない。退廃的でだらしがないのを隠していても見つかって、ふたりは、いつしか血に染まり、気狂いのように罪に手を汚してしまう....二人に明るい未来が訪れることはけしてなかった。

禁忌いがいの何ものでもない、不道徳な結びつきなのに、互いに求め合う姿に嫌悪感だけを抱くことができないのはなぜだろう。救いのない父娘の終着点を、きちんと見届けたくなる。
大人になった花がキレイにお化粧をして、恋人を連れてくるようになった時、淳悟は相手の男にこう言う。

「花はあんたに扱えるような女じゃない」

そうだ。普通の愛らしいお嬢さんのように生きていても、花は違う。そんな”花=女”という生き物がちょっと怖くなる。女が化粧の奥にどんな素顔を隠しているかなんて、だれにもわからない。それは花だけじゃない、”女”は複雑な生き物だとおもうから。
別人のように変わる二階堂ふみちゃんの熱演に、目が離せなくなる。

うれしかったのは、割愛されるだろうとおもっていた、原作での印象的な絡みシーンが端的に映像化されていたこと。私的に、あって欲しかったのは、ふたりがいつも気だるく名前を呼び合っている姿なのだけど、贅沢はいえないか。
しばれる冬の夕刻、帰宅した淳悟と帰りを待っていた花が、坂の道で交わすキスは、本編で一等すきな場面だった。
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最初の犯罪を犯してから故郷を離れ、都会で暮らし始めたふたりに、北国の情景が、さらに重力を増して迫ってくる、深いドツボに嵌っていく歪んだ関係に哀切を加味するのは、やっぱり冬の紋別の情景なのがすてきだ。

原作を読んでいると、淳悟のイメージは吉井和哉さんで、浅野忠信氏は健康体すぎる嫌いはある。どうしようもない男像として、頬がこけて茶色の髪をだらしなく伸ばした淳悟を想像しながら、ふと長年ファンだった渡部篤郎氏が演じる淳悟を見てみたいとおもってしまった。「花ぁー」と覇気なく呼ぶ声は、もしかすると浅野忠信氏よりずっとイメージに近いものになっていたかもしれないよ。

(129min)
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by haru733 | 2014-06-17 17:18 | 日本映画 | Comments(2)
Commented by 荻々亭主人 at 2014-06-23 21:44 x
こんばんわ。ご無沙汰しております。

熊切監督は私も好きで気にかけています。「私の男」は現在公開中ですかね。気にかけている割には情報が不正確で、本作も二階堂ふみ出演ということで鑑賞を願望しているところです。

ところで、本作の原作である「私の男」。作者が桜庭一樹氏であると本ブログで目にして、ふと思い当る節があり、BOOK OFF購入書籍保管用段ボール箱を漁ったところ、出てきました。買ってたんだな、たぶん、二年以上まえに。

その他、田中慎弥氏の「共喰い」とか、中上健次の本なんかも出てきました。中上健次の作品は、時間的に相当な余裕があって、精神的体力が有り余っていないと読み切れないかもしれませんが、桜庭氏の原作はなんか読めそうなので、そろそろライトノベルから文芸作品へと進もうかと思います。

このブログを見ていなかったら、桜庭氏の原作をうっかり二冊購入していたかもしれません。いい機会なので、読んでから観るか?観てから読むか?みたいな感じで、文芸作品を、映画を楽しんでみようと思います。できればいいな・・・・(^。^)PeaceV
Commented by haru733 at 2014-06-24 01:05
荻々亭主人さん、こんばんは。

熊切監督、良いですね。若いのに”ザ日活”という感じ好きです。
映像を観てから原作を読むほうが、映画にケチつけなくて良いと私的には考えるのですが、「私の男」は二度も読んでいて、時間軸など変わっているのに、それでも良いとおもいました。
ある種、別物としてもいいくらい。
ひとつだけ感想に載せていない相違点は、なんといっても淳悟の幼児性でしょうか。母性に飢えて育った男が娘に子どものように甘える...そういう情けない部分がまるきりなかったのは大きいとおもいます。
原作と映画とご覧になったとき、荻々亭さんの主観もぜひ聞かせてください。(現在、公開中ですよ~)たのしみにしています。

中上健次さん、調べてみるといっぱい映画化されていますねー
気になっている「千年の愉楽」と先日観た「軽蔑」、どちらも高良健吾さんが出ていますね。興味津々。
元気なときぜひ読んでみたいと思います。田中慎弥氏の「共喰い」も!



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