『堕落論』 坂口安吾

d0235336_20205930.jpg かねてから気になっていた角川文庫の和柄装丁シリーズで『堕落論』を読みました。
タイトルのエッセイは3篇目に収録、全部で13篇のうち、一番最初の「日本文化私観」がおもしろかった。
日本人であるわたしたちが、大切な伝統を見失っていくとしても、けして我々は日本自体を見失うことはない―。心強い見解にうれしくなる。

作家について書かれた数篇の、毒ある私観もおもしろい。こき下ろされているのは、志賀直哉、小林秀雄、ジッド、太宰治、そして夏目漱石など。志賀直哉の『暗夜行路』は、たしかにまったく面白くなかったから良いものの、漱石好きにはちょっと悔しい。なんでもすぐに自殺するのがいけない、という。わたしは、漱石の主人公たちが内省的にぐじぐじしているのが好きだ。
称えられているのは、ドストエフスキー、スタンダール、壇一雄、そして宮沢賢治。これぞ本物の文学だとして引用されていた宮沢賢治の遺稿に、ガツン。

 「眼にて言う」

 だめでせう
 とまりませんな
 がぶがぶ湧いてゐるですからな
 ゆうべからねむらず血も出つづけなもんですから
 そこらは青くしんしんとして
 どうも間もなく死にさうです
 けれどもなんといゝ風でせう
 もう清明が近いので
 あんなに青ぞらからもりあがって湧くやうに
 きれいな風が来るですな
 もみぢの若芽と毛のやうな花に
 秋草のやうな波をたて
 焼痕のある藺草のむしろも青いです
 あなたは医学会のお帰りか何かは知りませんが
 黒いフロックコートを召して
 こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば
 これで死んでもまづは文句もありません
 血がでてゐるにかゝわらず
 こんなにのんきで苦しくないのは
 魂魄なかばからだをはなれたのですかな
 たゞどうも血のために
 それを云えないのがひどいです
 あなたの方からみたらずいぶんさんたんたるけしきでせうが
 わたくしから見えるのは
 やっぱりきれいな青ぞらと
 すきとほった風ばかりです。


こんなすごい詩を忘れてしまっていたとは...本棚から新潮文庫の詩集を出してみた。たしかに収録されていて、いつか必ず読んだはずなのに、そのときの感想を覚えていない。ちなみに、内容が少しちがっているところは、新潮文庫のものを引用しました。

裕福な家に生まれ、深い孤独を生きた坂口安吾という人について、友である壇一雄が寄せた解説が感慨深い。脳出血のため、49歳の若さでこの世を去った安吾の死を、壮烈な戦死だという。純潔で徹底した求道者だった男の、自死を呪った男の、世と戦い抜いた末の死には血煙がたっていたという。

坂口安吾作品は、これがはじめて。文芸ものをいつか読んでみなければ。映画化になった『カンゾー先生』は印象深くて忘れがたい。それから壇一雄作品も読んでみなければ。
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by haru733 | 2014-10-20 21:42 | | Comments(0)


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