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追悼のざわめき (1988年) 究極のハードコア・ファンタジー

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 80年代にはこんな衝撃的な作品があった。製作から20年、いまの映画にちょっとだけ疑問を感じた。
差別用語は、たしかにいけない言葉だけれど、使えなくなってからの映画は、おのずと軟くなりエグ味を失った。頭を殴られるような衝撃は存在しなくなってしまった気がする。もうこんな映画は生れてこないんだという、一抹の寂寥感。
1980年代にはまだ残っていた―そんな懐かしい意味でも、一見の価値あるカルトムービーの傑作だとおもう。

“菜穂子”と名づけたマネキンを偏愛し、若い女性を殺しては切り取った生殖器を“菜穂子”の中に詰め込んでいる青年・誠。
彼は廃墟の屋上に住み、孤独で人でなしだが、寄せる愛だけは誠実だった。
ある時“菜穂子”が妊娠し、新しい家族のために働こうと決心した誠は、小人症の兄妹が経営している下水道清掃の職に就く。
その頃、同じ街で、近親相姦の幼い兄妹ふたりは純粋に寄り添っていたが・・・。

「カラスになるくらいなら、真っ白いハトでいたい」
街ゆく女子高生は言う。
この映画の人々は、愛はあっても欲望に負け、真っ黒なカラスになってしまうのだけれど、果たして一生真っ白なハトでいることが正しいのか、それがわからない。
たしかに、彼らのような堕ちる姿をみてしまえばカラスになるのは嫌だけど、目くらめっぽうに欲望に突き進む行為は本能的な望みでもある。ただ理性が歯止めとなっているだけ。

とにかくみんなが歪んでいる。
愛のためには人殺しもいとわない誠。体の醜い痣と、成熟しても体は幼児のままであることを嫌悪する小人症の妹、そしてその兄。性欲を捨てきれない浮浪者。純粋に寄り添う幼い兄妹たち・・・・
愛によって生命を得た“菜穂子”に引き合わされ、誰もが欲望に憑り付かれ、残酷でむごい結末へとひた走る。
唯一、ほんとうに美しかった兄妹さえ、導かれるようにして誠のねぐらに辿り着いたとき、兄の欲望が目ざめて悲劇を迎えてしまう・・・・・

兄妹を描いたシーンは本当に美しくて、少女の純白なイメージが、少なからず過酷な鑑賞を助けてくれた。
マネキンの美しさが対照として、とてもいい。
過激な描写ばかりのなかで、これだけ美しく純粋なものを配置する、監督の審美眼にうなるばかり。

モノクロを選ぶのには、いろんな理由があるにせよ、本編では、過剰な刺激を避けるためにそうしたのではないかと思えるほどだ。もしもカラーだったら、想像しただけで身の毛もよだつ。映像美が際立つことも、モノトーンならでは。
そして、物乞いの負傷兵や、路地裏の猥雑さが、時代背景を曖昧にしている、幻想譚ならではの魅力。

 監督・脚本 /松井良彦
 製作 /安岡卓治
 音楽 /菅沼重雄
 出演 /佐野和宏  隅井士門  村田友紀子  大須賀勇

 (モノクロ/150分)

by haru733 | 2009-02-17 00:00 | 日本映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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