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危険なプロット (2012年) 人間が持つ毒と日常に潜む狂気

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 毎年1本の映画をコンスタントに送り出し続けている、フランソワ・オゾン監督による最新作。
後を引くまでではないけれど見栄えのするオゾン作品は、やはりサスペンスが似合う。聡明で端正な監督が描くミステリアスな好編は、他者をあざ笑うような視線が時おり見え隠れする、そんな揶揄的なところも不快でおもしろい。

(ストーリー) 作家になる夢を諦め、高校の国語教師として退屈な日々を送るジェルマン(ファブリス・ルキーニ)は、生徒たちのつまらない作文の添削にもすっかり辟易していた。ところが新学期を迎えたばかりのある日、彼はクロード(エルンスト・ウンハウアー)という生徒の作文に心惹かれる。その文章に可能性を感じたジェルマンは、彼の個人授業に乗り出す。ジェルマンの指導で才能を開花させたクロードは、クラスメイトの中流家庭を題材に、ますます魅力的な物語を紡いでいく。ジェルマンは他人の生活を覗き見るその背徳的な物語にためらいつつも心奪われ、妻を巻き込みいつしか“続き”を待ちわびずにはいられなくなっていくが―
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悪意と欲望は、羨望と寂しさの裏返し。
背徳の物語が、妄想か真実かを越えた先に、ありのままの不完全なジェルマンとクロードが見えてくる。
障害者の父と暮らすクロードも、クレバーな美しい男子生徒に生活を脅かされていくジェルマンも、はじめから歪んではいたけれど転落は新しい世界を創り出すことになるはずで、世知辛い救いが見事でした。
クロードによって情欲的に描かれるクラスメイトの母親役にはエマニュエル・セニエ。包容力ある女性像がとても似合った。

(105min)

by haru733 | 2013-12-31 15:30 | フランス映画 | Comments(0)

『ヴィヨン全詩集』 鈴木信太郎訳

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 園子温監督の『ヒミズ』の中で、主人公が朗読していたのは、フランソワ・ヴィヨンの「バラッド」でした。

 牛乳の中にいる蠅 
 その白と黒はよくわかる 
 どんな人かは 
 着ているものでわかる 
 天気が良いか悪いかもわかる 
 何だってわかる 
 自分のこと以外なら

 (『ヒミズ』より)

詩は難しい。わかるだけでなく相性があるとしても、心に響いてこなければ、目でなぞるだけになってしまうもの。どんなに有名な詩人の作品でも、良さを感じ取れないときは、静かにページを閉じるしかないのです。いや、正確にはやはり、最後まで目でなぞってから閉じるのだけど。
これまでそうしてきたと思い出す、リルケも萩原朔太郎もタゴールもウンベルト・サバも、とくにリルケは敬愛する作家さんが愛読した詩人なだけに、わからないことが淋しかった。

フランソワ・ヴィヨンは15世紀フランスの詩人。中世最大とも、最初の近代詩人ともいわれる人。放蕩と放浪の生活を送り、幾度か牢獄に入ったあと死刑宣告を受けるも、のちに釈放されて行方不明になったという。
映画で気に入ったバラッドも翻訳が違って、また一味違った趣で収録されています。

 牛乳の中の蠅、黒白が わたしには解り、
 衣装を見れば 人間が わたしには解り、
 お天気が良いか悪いか わたしには解り、
 林檎の木で林檎の味が わたしには解り、
 (中略)
 わし自身の事のほか、何も彼もわたしには解る。



韻を踏んだ形式を正確に訳すとこうなるのでしょう。それにしても、またしても、期待したほどは感慨少なく、「形見の歌」「遺言詩集」などストレートで愛嬌を感じるところも多かったのだけれど、目でなぞった感が残ります。そうしたまま、終わり近くで見つけたバラッドが、一際よく感じ入れたのです。


 湖のほとりに佇んで 喉が渇いて私は死ぬ、
 火のようにのぼせ上がって、歯の根が合わずに震えている。
 自分の国に住みながら 遠くの土地に居るようだ。
 真赤な炭火の傍らで 熱気に悪寒の胴震い。
 蟲けら同前 素裸で、裁判官の毛衣を着、
 泣きながら 私は笑って、希望もなしに期待して、
 悲しい絶望のどん底で 再び元気を取り戻す。
 好い気持ちに楽しみながら 楽しみは何一つない。
 勢力は私にあるが 強力でもなく 権力もなく、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

 不確実な物事のほか 確かなものは私に無く、
 はっきり見えるものを除いて 曖昧なものは何もなく、
 確かなことについての他 疑いを私は抱かぬ。
 不意打の偶発事件で 知識を捉え、
 博奕では大儲けをしながら いつでも一文なしで、
 朝の夜明けの挨拶は、「ゆっくり寝みなさいまし。」
 仰向けに長々と寝ながら、墜落をするのが怖い。
 たっぷりと何でも持っているくせに 実は一つも持っていない。
 相続を当てにしているが 誰の相続人でもなく、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

 何にも気には掛けないが、それでも苦労のし続けで、
 お金を儲ける苦労だが、齷齪儲けたくもない。
 最善の言葉を私に言う人が、一番私を苦しめて、
 一番の真実を語る輩が 最も私を愚弄する。
 真白な白鳥を指して、これは真黒な烏だ、と
 解らせて納得させてくれる人が 真の私の友達で、
 私を害うものを 私は 力限り助けてくれるのだと思う。
 嘘も 本当も 今日の日には 私にとって一つ事、
 すっかり私は憶えているが、何にも私は考えられぬ、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

 寛大な太公よ、憚りながら 私を なかなか気の利いた
 奴だが 思慮も分別もない小人だと 認めて下さい。
 不逞の徒であるとは申せ、天下の法に遵っている。
 その上 何が出来ましょう。何事が。俸祿を再た戴いて、
 ちやほや待遇されながら 誰からも排斥される。

by haru733 | 2013-12-29 18:25 | | Comments(0)

恋に至る病 (2011年) 病的にポップな突然変異的ラブストーリー

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 第21回PFFスカラシップ作品。弱冠27歳の木村承子監督による、女性らしいキュートに歪んだ愛の物語。

(ストーリー) 高校の教室。生物教師のマドカ(斉藤陽一郎)は、小声で授業を進め、生徒たちに注意すらできない。そんなマドカを微笑みながらイラストで描くのが日課の生徒ツブラ(我妻三輪子)も、“死ぬと誰からも忘れられる”と怯え、自分を腐らない体にするため防腐剤入りの物しか食べない日々を過ごす。そんなある日、ツブラはマドカと性器を交換することを妄想し、ひょんなことからそれが現実に起きてしまう…。

だいすきな先生を襲っちゃうほど天真爛漫なツブラは、その衝撃?で先生と性器が入れ替わってしまい、焦ったマドカに拉致されて、いまは空家の先生の実家に連れてこられる。それでも一緒にいられて喜ぶツブラだったが、マドカの動揺は尋常でなく。受け入れ態勢など一向に見せないのだった―。
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じぶんの一番恥ずかしい部分を相手に晒してなお、無邪気なツブラを眺めながら、思い出すのは尾道三部作の『転校生』。この場合、マドカの反応こそが正しいのだと、正統派思春期映画の記憶を頼りに我に返るわけですが。二人でひとつになるために、性器交々混ざり合いたいと妄想していたぜーんぜんへちゃらなツブラはツブラで、可愛いなと思うのでした。

さらにこの2人と四角関係を作るのが、ツブラの同級生、エン(佐津川愛美)とマル(染谷将太)。ずっとエンに想いを寄せている幼馴染のマルは、不身持な彼女の矯正計画を実行するのだが。当のエンは親友ツブラに恋愛感情を抱いていた.....
この2人が押しかけての古民家での四角関係。ツブラが近づくだけで吐き気催すマドカでも、体裁を整えるべく試験勉強のフリを装い、奇妙な共同生活がはじまる。

食事は防腐剤入りサプリメントしか摂らないツブラを筆頭に、みんながみんな滑稽でキュートに病んでいる。それでも本気の想いは熱くてひたむきで、ちょっとだけ、『ヒミズ』を彷彿とさせるかもしれない。教師と生徒もの、好きすぎて変態的行動をとる恋愛ものは私的偏愛ジャンル、まちがいなく得手。
しかも小道具も良く、食器棚に並べたツブラの薬瓶(ごはん)とか、古民家の趣とか、自己の殻に閉じこもる生物教師マドカが、子どものころ作った昆虫標本など象徴的なアイテムとして絶妙なのでした。
性器の入れ替わりも、想いの結末も、新人監督とは思えないスマートな収束ぶりで、この個性がどのように花開いていくのか、これからが楽しみです。
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ちなみに監督自身が描いた劇中漫画、比べるのはどうかと思いますが『ムカデ人間』チックに簡素に的を得ていて、いいなとおもいます。

 (116min)
by haru733 | 2013-12-29 11:30 | 日本映画 | Comments(0)

暮に

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このごろ、『3分クッキング』を毎日録画して見ている家人が、晩御飯を作ってくれました。
グラタン・ドフィノア。
はいかろりー。食べきれずに、今朝もドフィノア。

ながい正月休み、なにがしたいか手帳に書き込んでみるといがいに少ない。
とりあえず山には登ろうとおもいます。
そして禁欲的に生きていきたいと。

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きょうも雪は止まず。机の上を片付けて、腰を落ち着けて年賀状を書こうとおもいます。
by haru733 | 2013-12-28 10:58 | 日常 | Comments(0)

ケンタとジュンとカヨちゃんの国 (2009年) もう戻る場所なんてないよ 

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 過去に闇を抱えた人々をおおく描く大森立嗣監督の長編第二作目。居場所のない閉塞感を抱えた3人の若者が、救いの見えない逃避行を繰り広げる青春ロード・ムービー。

街でナンパに励むケンタ(松田翔太)とジュン(高良健吾)が出会ったのは、ブスな女の子カヨちゃん。寂しい夜を2人と過ごして、すっかりジュンを好きになったカヨちゃんは、どんなに邪険にされても等閑にされてもめげることなく、男二人の逃避行にまで勝手に付いていくのでした。(途中で捨てられちゃうけど)

施設で育ったからといって、皆がみんなケンタやジュンのように鬱屈していくわけではないのです、きっと。同じ境遇にあっても、幸せになれる人はいる。だから彼らの逃避行を手放しでは共感できないけれど、ふたりの心根には優しさがあって、保護者のように見守らずにいれないのでした。

「ブス、ブス」って連呼されるほどには全然ブスじゃないカヨちゃんを演じたのは安藤サクラちゃん。それどころか、彼女からにじみ出る情の深さや包容力は瞠目。母性に飢えて大きくなったケンタとジュンは、いつしか彼女の懐の深さに安息を覚える日さえくるのですが.....滅茶苦茶やって逃げてきたふたりの破滅はもう誰にも止められない....。
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少し長くなるけれど、ずいぶん以前に読んで面白いなとおもった『現代・日本・映画』(田中英司・著)という本のコラムを引用してみます。

海にたどりつく映画

映画を見ていて、終わりのほうになるにしたがって、それが気に入った映画であればあるほど、頼むから海はやめてくれえぇぇと叫びたい気持ちになる。で、これがまた意外と、その願いが通じなかったりするのである。
(中略) 昔の自主映画などの多くがそうだったし、最近の学生映画のストーリーなどを聞いたりしても、ラストはだいたい海とか、山とか、広々としたところへ行って、なんとなく解脱したような感じで終わりとなるのである。(中略)昔から幾度となくみんながやってるんだからヤメにしなよ、といいたいのである。そしてまた、タチが悪いのは、海でクライマックス及びラストシーンを迎えた映画はどういうわけか面白かったりするのである。
(中略) これはいったいどういうことなのだろうかと考えるに、海とはエネルギーが放出しまくって、どうにもおさまりのつかなくなった映画を無理矢理「強制終了」するための便利な道具なのではないか、と私は思うようになってきたのである。
いうまでもなく、走っている人間は海にたどり着いたところで走るのを止めさせられてしまうわけであり、海が出てくれば、まあ物語も終わりだわな、と観客も納得することになるだろう。ゆえに、エネルギーに満ちた映画であればあるほど、海による強制終了が行われるのはこれからも続いてゆくのかも知れないが、それにしたって他にもっとあるはずだろうがよ、という私の思いはくすぶりつづけてしまうのである。


成る程、このコラムを読んでからというもの、海で結末を迎える映画に出会うたび、また来たかとがっかりしたような、くすぐったいような気持ちになります。そう、本編の行き着く先もまた、北海道網走の海。
彼らの旅の目的は、施設でいっしょに育ったケンタの兄ちゃん、優しかったカズ(宮崎将)に会うことでした。カズは、境遇にも職場のイジメに耐え切れず、いつしかブチンと切れて、いまでは網走の塀の中。
あれほど慕ってきたカズに会えれば変わると信じた希望や救いは、結局何処にも見当たらなくて、光の見えない闇を疾走した彼らが辿り着く情景はステレオタイプであるけれど、その場に居て似つかわしい北の海での寂しい幕切れ。

「三人なら、生きられる。」チラシのコピーは、きっと、ケンタとジュンとカヨちゃんのことであり、子どもだった、かつてのカズとケンタとジュンのことでもあった。孤独な少年たちの人生は線香花火のように激しく脆く儚く散った。

(131min)
by haru733 | 2013-12-26 19:40 | 日本映画 | Comments(0)

中夜

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ことしも終わりに近づくカウントダウン。雪の止まない休日に、ひとつずつ事を片付けて過ごしています。
親友の娘ちゃんに毎年送っているX'masプレゼントの絵本を選んで、正月早々誕生日を迎える家族や姪っ子に贈り物を用意して、お年玉を同封。ぜんぶに手紙を添えたら、短い夕刻はあっという間にすぎてゆきました。
きょうから、またゆっくり日が長くなっていきます。年末、積んどいた本をすべて読みおえてしまったので、正月の長いお休みように、古書店で購ってきた本たち。敬愛する遠藤周作さんの『作家の日記』がたのしみです。
by haru733 | 2013-12-23 11:16 | 日常 | Comments(4)

ゼロ・グラビティ (2013年) 想像を超えた体感

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 映画の3D化を心許なく眺めているわたしでも、宇宙ものとなるとちょっとちがう。初めて体験した
『HUBBLE 3D ハッブル宇宙望遠鏡』は、気に入ってリピーターになったし、久しぶりのこの度もやはり宇宙ものなのでした。このジャンルばかりは3Dで観ないわけにはいかないかんじ。

地上600kmの上空。作業員たちはハッブル望遠鏡の修理にあたっていた。その時、ロシアが自国の人工衛星を爆破したことが原因で、大量の破片が軌道上に散乱し猛烈な勢いで彼らを襲う。今回が初めてのミッションとなるストーン博士(サンドラ・ブロック)は、ベテラン宇宙飛行士コワルスキー(ジョージ・クルーニー)と2人だけ生き残るのだが、漆黒の宇宙へと放り出された彼らを繋ぐのは、わずかにロープ一本。絶望的な状況の中、奇跡を信じて決死の帰還を試みるのだが―。
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そこは深海のように息ができず、極地よりも寒く、静寂が支配する。人はとても生きていかれない暗闇。これまでどんなSF映画にもないリアリティで、えも言われぬ恐怖感に突き落とされて、過呼吸になりそう。
スペースシャトルは大破。90分で軌道を周回して再び襲うはずの猛烈な破片の恐怖に怯えながら、唯一の希望、近くの人工衛星を目指して遊泳する。酸素はわずかしかない。こんなハラハラは久しぶり。生きた心地ゼロ。
完璧な静寂が支配する無音の演出に鳥肌が立ちます。宇宙はあまりにも美しくて、あまりにも厳しい。だからこそ、生命に溢れた地球の大地で生きることがずっと尊くなってきて、主人公といっしょに生きて還りたいと手に汗握り続ける。

ほぼ一人芝居をしているサンドラ・ブロックの熱演、ジョージ・クルーニーの飄々とした演技がすばらしかった。監督は『天国の口、終りの楽園。 』のアルフォンソ・キュアロン氏。『天国の口―』はやや苦手だったけれど、ハリー・ポッター第3弾、『アズカバンの囚人』 は、シリーズ内では一等面白かったとおもってます。

 (91min)
by haru733 | 2013-12-18 00:00 | アメリカ映画 | Comments(2)

アルゴ (2012年) フィクションより奇な実録ポリティカル・サスペンス

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 話し合いのできないことがこんなにも恐ろしいとは。イスラム過激派に限らず、まともが通らないということがとても怖い。
79年にイランで起きたアメリカ大使館人質事件。占拠されたアメリカ大使館には52人の人質。その時、密かに裏口から逃れた6人の職員は、カナダ大使の私邸に逃げ込んでいた。イラン側に見つかるのは時間の問題。国務省から協力を求められたCIAの人質奪還の専門家トニー・メンデス(ベン・アフレック)は、架空のSF映画製作『アルゴ』をでっち上げ、ロケハンに来たスタッフに偽装させて出国させるという、驚愕の脱出計画を思いつくのだが―。

映画っておもしろい。そして、なんでもありのハリウッド映画界を盾に、こんな突拍子もない作戦だって成功させてしまうのだから、アメリカという国はとことん可笑しい。往年のプロデューサー、特殊メイクの専門家をチームに加え、迫真のでっち上げが一刻を争いながら仕組まれていく。
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なにが起こるかわからない命懸けの脱出。イスラム過激派による容赦のない言動にびくびくして、人質たちの焦燥が肌に突き刺さるように伝わる。事実よりずっと映画的に味付けされている、ハリウッドらしい痛快なエンタテイメントだとしても、製作・監督・主演を務めたベン・アフレック氏の才能には素直に驚かないわけにはいかない。
佳作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で(マット・デイモンとの共同脚本)賞を獲得して以降、あまり存在を意識したことはなかったけれど、妙な説得力をまとうステキな役者さんになっていました。

(120min)
by haru733 | 2013-12-16 20:50 | アメリカ映画 | Comments(0)

大河のうた (1957年) オプーの旅立ち

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 前作『大地のうた』につづくオプー3部作の第2部。娘を喪い失意のもとベンガルを去り、信仰の町ベナレスへとやってきたオプー一家。倹しくも穏やかな暮らしは、しかし長くは続かず、一家はふたたび苦難にさらされる―。

信仰の町ベナレス、ことヴァーラーナスィーにあるガンジス河のガートのある風景に心を持っていかれる。
いつか旅した記憶が蘇ったのだけれど、半世紀も前の景色は変わっておらずに、ガンガーの流れの普遍性に憧憬が募った。敬虔な父親は、この土地で説法をして暮らしを立てはじめるけれど、あっさりと肺炎に罹り死んでしまう。母子はふたたび悲嘆にくれる。
父の死を境にした後半は、ベナレスを去り親戚のもとに身を寄せた母子の、その後の切ないすれ違いを描いていく。
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第2部の命題は、親の心子知らず。賢いオプーは、教師から都会の大学へ進学するよう勧められ、母の反対を押し切ってカルカッタへと出ていく。働きながら学び、徐々に自立していくオプーは、一人待つ母の元へはめったに帰らない。一方の母親は、会えない寂しさに耐えながら、病んだ体で遠くに暮らす息子を気遣っていた。老木に身を横たえ、息子が帰ってくるかもしれない汽車をいつも眺めている母の姿が切ない....。
いつの時代も変わらないのは親心、そして、亡くしてはじめてむせび泣く子の親を慕う思い。世界で絶賛された所以は、きっとそういうところにある。詩情豊かに捉えたインドという国の民の魅力。素朴で敬虔な人々が営む暮らしは、いまでこそ野暮にも粗略にも見えるけれど、昔のイタリア映画、たとえばデ・シーカの往年のモノクロの名作にある生きる力にちょっとだけ似ている。朴訥さは引力。
by haru733 | 2013-12-15 00:00 | インド映画 | Comments(0)

邦画レジメ

『かぐや姫の物語』 (2013年)
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 絵本で慣れ親しんだ『竹取物語』の奥深さを、美しいアニメーションで描いた生命賛歌の物語―。
高畑勲監督らしい、とてもマジメで、拘りつくした丁寧な画面に、かぐや姫が珠のようにうつくしい。
この世に生きることは、綺麗事では済まされないたくさんの苦悩に満ち溢れているけれど、それこそが”生きている手応え”なんだと、かぐや姫の真っ直ぐな振る舞いを通して、聞きなれた昔話は教えてくれるのでした。
宮崎駿監督の『風立ちぬ』といい『かぐや姫の物語』といい、ジブリの新作は、揃って日本人の精神性を誇り高く描いていて、素晴らしいとおもいます。



『横道世之介』 (2012年)
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 とっても評判の良い、80年代ノスタルジーに則った恋愛もの。人知れず高良健吾月間で(『かぐや姫の物語』では声)、こちらは今年観た邦画のなかでもかなり上位に入ります。
大学進学のため田舎から上京してきた真っ直ぐで心優しい青年“横道世之介”が、周囲の人々と織り成す決して特別ではないけれどかけがえのない青春の日々を、ユーモアを織り交ぜて描く心温まるラブストーリー。

2時間をゆうに超えてもまったく飽きるところのない好編。ドラマ運びが巧みな沖田修一監督は『南極料理人』『キツツキと雨』、どちらもとてもおもしろかった。ノスタルジックな語り口と、愛すべき世之介くんの人柄に絆されながら、二度とは戻らない過ぎ去った淡い過去などふと思い出す。回想から今へと時間軸が移るとき、真っ直ぐな彼がもう生きてはいない事を知って、青春と人生の儚さにぎゅっと切なくなる。



『舟を編む』 (2013年)
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 辞書を作る仕事、”辞書編集部”で数十年間勤しむ....嗚呼なんてステキなんだろう。恐ろしく根気がいるだろうけれど、雇われたらきっと頑張るじぶんを妄想してしまった。ボキャブラリーに乏しいので、入力班もしくは三校、四校、五校のお手伝いアルバイトとしてでも体験してみたいものです。
書物に囲まれた画面に吸い寄せられて、古い紙が匂い立つよう。馬締さんの住む下宿、編集部のゴミゴミ、すべてにハートを持ってかれたまま楽しく観終える。
馬締さん(松田龍平)と香具矢ちゃんの恋模様なんかもすごくよく、出会いから恋文の件なども大好きです。ただ何故だろう、恋人から妻になると宮崎あおいちゃんの魅力はいつも減退してしまう気がするのは。

先の沖田修一監督といい、石井裕也監督といい、新しい世代の実力派監督さんが増えた邦画は、このごろことにおもしろいです。高良健吾月間作品でもうひとつ、『軽蔑』はダメでした。廣木隆一監督の『ヴァイブレータ』が、寺島しのぶ+大森南朋コンビの演技でいかに凄まじかったか、わかるというもの。子役から知ってる鈴木杏ちゃんが大胆に頑張っただけに、似合わない役柄が痛々しくて、ちょっと淋しかったな。
by haru733 | 2013-12-12 23:19 | 日本映画 | Comments(2)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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