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アルゴ (2012年) フィクションより奇な実録ポリティカル・サスペンス

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 話し合いのできないことがこんなにも恐ろしいとは。イスラム過激派に限らず、まともが通らないということがとても怖い。
79年にイランで起きたアメリカ大使館人質事件。占拠されたアメリカ大使館には52人の人質。その時、密かに裏口から逃れた6人の職員は、カナダ大使の私邸に逃げ込んでいた。イラン側に見つかるのは時間の問題。国務省から協力を求められたCIAの人質奪還の専門家トニー・メンデス(ベン・アフレック)は、架空のSF映画製作『アルゴ』をでっち上げ、ロケハンに来たスタッフに偽装させて出国させるという、驚愕の脱出計画を思いつくのだが―。

映画っておもしろい。そして、なんでもありのハリウッド映画界を盾に、こんな突拍子もない作戦だって成功させてしまうのだから、アメリカという国はとことん可笑しい。往年のプロデューサー、特殊メイクの専門家をチームに加え、迫真のでっち上げが一刻を争いながら仕組まれていく。
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なにが起こるかわからない命懸けの脱出。イスラム過激派による容赦のない言動にびくびくして、人質たちの焦燥が肌に突き刺さるように伝わる。事実よりずっと映画的に味付けされている、ハリウッドらしい痛快なエンタテイメントだとしても、製作・監督・主演を務めたベン・アフレック氏の才能には素直に驚かないわけにはいかない。
佳作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で(マット・デイモンとの共同脚本)賞を獲得して以降、あまり存在を意識したことはなかったけれど、妙な説得力をまとうステキな役者さんになっていました。

(120min)
by haru733 | 2013-12-16 20:50 | アメリカ映画 | Comments(0)

ナインスゲート (1999年) 愛書狂を狂わす魔の書

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ニューヨーク。腕利きの稀覯書発掘人である本の探偵コルソ(ジョニー・デップ)は、名高い収集家バルカン(フランク・ランジェラ)の依頼を受け、世界に3冊しかない伝説の悪魔祈祷書『影の王国への九つの扉』を探すことに。バルカンが持つ1冊と、残る2冊を比べて真贋を鑑定してほしいというのだ。法外な報酬で引き受けたコルソだったが、不可思議な殺人が続発してゆくなか、謎の女に付きまとわれ、やがて何者かに命さえ狙われはじめる―。
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ビブリオマニアという言葉をしったのは、いつか読んでとてもおもしろかった『せどり男爵数奇譚』や、 A・ラングの『書斎』『愛書狂』でしょうか。敬愛するポランスキー監督による本編は、いままで観ずにいたことを激しく後悔させるほどおもしろかった。原作はスペインのアルトゥーロ・ペレス・レべルテの傑作オカルト・ミステリー。

依頼の稀覯本を求めて、ニューヨークからスペインへ、スペインからパリへ、ポルトガルへ。世界じゅうを飛び回るコルソは、稀覯本の魔力としか思えない恐ろしい事件に巻き込まれていく。後戻りできない不気味な味わいは、流石サスペンスの名匠ポランスキーというべきか。重厚で悪魔的な画面に惹きつけられて、本好き、とくに古書好きにはたまらない雰囲気が醸し出されてわくわくする。
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私的に、ジョニデ氏がいちばん輝いていたのは90年代だったと信じて疑わないけれど、胡散臭くも巧者であるコルソ役は、最高に似合っていた。そんな彼に付きまとう、謎の美女エマニュエル・セニエも、尋常でないフェロモンが魔的な役柄にぴったり。ポランスキー監督の妻である彼女は、いつか『赤い航路』でド肝を抜かれたのだったけれど、最近の『潜水服は蝶の夢を見る』や『エッセンシャル・キリング』を観ればお色気だけじゃないことがわかる魅惑なひと。しかし、レナ・オリンはなにを観てもすごいのだなあ....

古い本をめくる音、悪魔崇拝の秘密の儀式、炎の中の交わり...なんとも素敵に不気味なムードを音楽がさらに掻き立てる。やがて、挿絵版画の秘密は解かれて悪魔召喚の儀式が行われ、「第九の扉」が開かれるとき。果たして、生きてそれを成せたのはだれか―結末はご覧になってからのおたのしみ。
多分に細部が説明つかずのまま終わってしまうけれど、雰囲気が存分によければあとは不文律ということで。

 (133min/フランス=スペイン合作)
by haru733 | 2013-11-09 22:49 | フランス映画 | Comments(2)

トランス (2013年) 記憶のその先へ

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 新作ができればとりあえず観ておきたい敬愛監督のひとり、ダニー・ボイル氏によるクライム・サスペンス。

 
 (あらすじ) 競売人のサイモン(ジェームズ・マカヴォイ)は、ギャング一味と手を組み、競売にかけられたゴヤの傑作『魔女たちの飛翔』を盗む。ところが彼は、なぜかギャングのリーダー、フランク(ヴァンサン・カッセル)を出し抜き殴り倒されてしまう。その拍子に、記憶の一部を失った彼は、名画の隠し場所もなぜそんな行動をとったかも思い出せなくなってしまうのだった。一味に脅されたサイモンは、催眠療法士エリザベス(ロザリオ・ドーソン)の力を借りて、当日の記憶を探るのだが―。

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じつに゛らしい″、スタイリッシュなボイル節壮健。のっけから先の読めないスリルと、息つく間のないめまぐるしい展開で、かくじつに予測不可能なトランス・トリックに嵌められてしまう。
曰くありげな催眠療法士エリザベスがすべてを操っていた―そんな定石通りの結末だってよかったのに!
そもそものテーマがなんでも可能なばっかりに、伏線を楽しむ節操さえ揺らいで、どこまでも騙しに徹してしまう。オチの失速だけが心残りかも。
ジェームズ・マカヴォイ演じる主人公サイモンが好人物だっただけに、ラストは劇場一帯に溜息が漏れたような気がした。

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名画目当てに絵画ファンが観るには、いまいち趣旨がちがうのでおすすめできません。敬意などはなく、あくまでも素材のひとつとしてのゴヤ。だけれども、よくよく『魔女たちの飛翔』を眺めれば、深い闇のかんじとか、知恵を吹き込む魔女のニュアンスなんかが、本編のダークさと相まみえて似合うのです。

容赦ない暴力のある、R‐15指定の色とトランスは、紛れもなくボイル氏の感性が生んだ蠱惑の世界。
ただし、いちファンとしての希望的観測をひっそり認めるならば、めくるめくミシェル・ゴンドリーの夢世界的トランスであったなら....もっと楽しめたかもしれない。

 (102min/アメリカ=イギリス合作)
by haru733 | 2013-10-23 20:31 | 多国合作映画 | Comments(0)

彼女が消えた浜辺 (2009年) 美しき異物

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 イラン映画といえば奮闘する子どもたちのドラマ、というのは、今は昔。新作『別離』が評判となったアスガー・ファルハディ監督をはじめ、好編が格段に増えているような気がします。本編もサスペンスの秀作。

 (あらすじ) カスピ海沿岸の避暑地に、3組の家族がバカンスにやって来る。家族のほかに、離婚したばかりの友人アーマドと、旅行を計画したセピデーに誘われた若い女性・エリも一緒だ。
ところが翌日、子どもが溺れる事故が起こり、海岸で子守をしていたはずのエリが忽然と姿を消してしまう....
事故か、それとも何も言わず立ち去ったのか?必死の捜索が進む中、ゆいいつ面識のあったセピデーさえ、彼女について本名すら知らなかったことが明らかになるのだが―。
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冒頭から含みのある美しい異物、エリの失踪の真実が明らかになるまで、やがて利己的になっていく3家族にハラハラさせられながらの2時間。手持ちカメラの臨場感がスリルを盛り上げる。
エリは果たして、子どもを助ける為に海に入ったのか、黙って行方をくらませたのか。突如、混乱の渦中となるバカンスの行方は、想像していたよりもずっとヘビーな様相を呈していくのでした。

期待したほど楽しめなかったのは、伏線が弱すぎるからでも、期待しすぎたからでもなく、社会的背景を知らなすぎたせいでした。映画って、ほんとうに、そのバックグラウンドがわからないと、良いものさえ良いとわからなくなってしまう、こわいところがあります。
名誉を重んじるイスラム社会では名誉殺人が許されていて、本作を理解するにはまず知っていなければいけないイスラームのルールがあったのですねぇ。おそろしく緊迫した状況下が描かれていたのだと、気がついたのは鑑賞後のこと、、。
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エリに婚約者がいると知れてからは、日本ではとても考えられないような物語展開をみせていきます。嘘ばかりで気疎いと感じたことも、エリがいたたまれなくなったことも、大間違いなのでした。

それにしても、宗教が絡んだ切実な物語ではない、純粋なエンタテイメント作品をイラン映画に求めるのは未だむずかしいのでしょうか。国をでた監督たちは、そういうものから解放されている気がする。

 (116min)
by haru733 | 2013-09-19 23:59 | イラン映画 | Comments(0)

裏切りのサーカス (2011年) 老スパイが挑む陰謀の真相

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 『ぼくのエリ 200歳の少女』が素晴らしかったトーマス・アルフレッドソン監督によるサスペンス。
東西冷戦下の英国諜報部<サーカス>を舞台に、ソ連の二重スパイをあぶり出すべく繰り広げられる緊迫の頭脳戦を描く。
なにがすごいって、役者陣がすごい。ゲイリー・オールドマンを筆頭に、コリン・ファース、トム・ハーディ、トビー・ジョーンズ、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ハート、キアラン・ハインズ......イギリス人俳優の層の厚さがわくわくさせてくれる。

最上級のスリルはとはいえないし、緊張も極限とまではいかない抑えた演出だけれど、壮年の魅力にあふれた競演は、気を逸らせず重厚だった。
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若い頃は『蜘蛛女』や『レオン』であれほどギラギラして、最近では魔法界入りしたイメージのつよいゲイリー・オールドマンも、年相応に落ち着いた役が似合ってしまうのだから心憎い。静かにされど強かに燃えている "スマイリー”はとくにアイロニーの塊。
彼を影で支えるのは、かつての部下ピーター。演じているのは、テレビドラマの新生シャーロック・ホームズが記憶に新しいベネディクト・カンバーバッチ。名前も面立ちも印象深い、ちょっと気になる彼は、本編でもキーパーソンを魅力的にみせていました。

原作はジョン・ル・カレによるスパイ小説の『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』。ご本人もちょっとカメオ?出演していたみたい。
本国イギリスではドラマ化もされていて、この程度の説明でじゅうぶんだったともおもえるけれど、原作を知らず初見では、やや難解かもしれない。

(128min/イギリス=フランス=ドイツ)
by haru733 | 2013-09-11 20:23 | 多国合作映画 | Comments(0)

ぼくのエリ 200歳の少女 (2008年) 怖ろしくも甘美な初恋

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 さすがスウェーデン映画というべきか、ありがちなヴァンパイア・ムービーとは趣を異にする、驚くほど純粋で美しく、怖ろしい物語だった。
主人公のオスカー(カーレ・ヘーデブラント)はいじめられっ子の孤独な少年。ある日、隣の部屋に父娘が引っ越してきて、その娘のエリ(リーナ・レアンデション)と仲良くなったオスカーは、いつも夕暮れの刻限に外で会うようになる。大人びた不思議な少女に、オスカーは恋をする。ちょうど同じころ町では、残虐な殺人事件が発生、その死体からは血液が抜き取られていた・・・・。

少女の姿をしたヴァンパイアのエリは、人の血だけを飲んで生きている。彼女が生存し続けるためには危険がつきまとう。昼間の安息、血の入手、信頼できる誰かがいてくれないとエリは死んでしまう。ヴァンパイアとして生きる孤独で哀しい性と、同じように孤独だったオスカー少年が出会ったとき、運命は二人を強く結び付けていく―。
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いじめは残酷で、血の流れる残虐なシーンも多いけれど、全体の雰囲気は静謐でとてもピュアだ。12歳のオスカーと、200年生き続けてきたエリの思いはちがう。彼女にとっては、生きるために信頼できる人間が必要不可欠で、そこに哀しさがあるのだった。
成熟したエリがオスカーを選ぶとき、父親として一緒に暮らしていた男の正体に、観客はおのずと気づかされていく。男もかつては若く、エリと出会って共に生きて行くことを決意したひとりの少年だったのかもしれないと...オスカーもまた彼のように必死に血を集めながら年老いていくのかもしれないと....。ただひとり変わらないエリを残して。

希望の園へ旅立ったふたりの未来は明るいだろうか。宿命的な哀しさを救うのは、純粋な愛だけ。たとえそれが束の間の希望だとしても、芽生えた感情が濁りのないままであってほしいと、切に願ってしまうラストだった。

原作のタイトルである『モールス』は、ふたりがそれぞれの部屋の壁をコンコン打って、モールス信号で心通わせるエピソードから。
とにかく目を逸らせない凛と張り詰めた空気感が素晴らしい。北欧独特な感性はほかでは真似できないし、濃くてエグくて、怖ろしいけれど美しい。かつての映画大国スウェーデンの本領が凝縮されてあるような良品だった。

(監督  トーマス・アルフレッドソン  原作・脚本  ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト 『モールス』 / 115min)

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せんじつ、劇場で見逃したトーマス・アルフレッドソン監督の新作『裏切りのサーカス』を観ました。
『ぼくのエリ』があんまり非凡だったため、難解な大人のサスペンスはやや凡庸といわれても仕方がないのかもしれないけれど、イギリス人俳優たちの層の厚さには魅せられてしまうかも。

ちなみに上は、以前のブログで書いた感想を移植したものです。引っ越し前の古い日記をこちらへ移行したいと予てから作業しているついでにですが、ちっとも進みません。
ひとつの場所で、さっぱりやっていきたいものです。
by haru733 | 2013-09-09 21:33 | スウェーデン映画 | Comments(2)

アイズ ワイド シャット (1999年) 夫婦がひらく禁断の扉

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 もっとも敬愛する監督のひとり、スタンリー・キューブリック氏の遺作。10年ぶりに観ても、かわらずにどう解釈していいか迷う、巨匠の遺した謎多きサスペンス。
トム・クルーズ、ニコール・キッドマン夫妻を主役に据えて、撮影に18か月、編集に約1年かけて秘密裏のうちに完成されたという本編は、クリスマスの華やいだNYを舞台に(しかし撮影はすべてイギリス)スリリングに展開していきます。

トム・クルーズ演じるビルは、物腰のやわらかな優男。反面、医師免許を免状のようにかざしまくっては、臆面なく物事を金で解決しようとする嫌いがあります。ある夜、妻の、性にまつわる突然の告白を受けてショックを受けた彼は、真夜中の街を徘徊するうち再会した旧友からとあるパーティの存在を知らされ、とり憑かれたように足を踏み入れていくのでした―。
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ショスタコーヴィッチの第2ワルツが、恐ろしくも背徳の性儀式を情感たっぷりに演出する。合言葉と仮面をまとい、秘密の屋敷で行われる”聖なる婚姻”、ヒエロス・ガモス。禁断の世界に足を踏み入れてしまったビルの恐怖をいっしょに味わいながら、同時にうろたえるほど美しい仮面をつけた男女の交接シーンに魅入ってしまう。

端的にいえば、妻の浮気心など疑うことすらしてこなかった男が、嫉妬をきっかけに垣間見た世界で、我が身の傲慢をおもい知る物語。ケバケバしい家に飄々と暮らす小金持ちの開業医は、たぶん自分の人生になんの疑いも抱いてはこなかった。けれども、ある夜はじめて、医師という身分も金さえなんの解決にもならない世界を体験して変わる。
ハンサムなトム・クルーズが、そのまま出鼻をくじかれるように映る様がシュール、しかも隣で肢体あらわに熱演するのは、当時、実生活でほんとうの妻であったニコール・キッドマン、生々しいことこの上ない。
さらに深読みするならば、屋敷の出来事はすべて妻の仕組んだ罠である、とする見方もあります。妻の貞淑を盲信する思い上がった夫への罰、こわいですねぇ。ミステリアスなこの視点もとてもおもしろいとおもいます。
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ただ、さらに深読みを重ねて、こんな解釈はどうでしょう。
友愛団体とされる選ばれたわずかな人々が世界の人口を操作しようとしているらしい事実.....それに抗うために一介の我々がとにかくしなければならないことがある―キューブリック曰く、それは妻アリスから最後に発せられた一言、「fuck」に尽きる。
この場合「セックス」としなかったところにキューブリックの凄みをかんじますが、いかがでしょうか。

いちファンとして、本編がはたして失敗作なのか否か、判断つきかねるところがあるけれど、わたしは好きです。そして、スピルバーグでなくキューブリック自身が監督した『A.I.』を、さいごに観ておきたかったと。

 (159min)
by haru733 | 2013-08-01 19:50 | アメリカ映画 | Comments(0)

病院坂の首縊りの家 (1979年) 妾腹兄妹の悲しい復讐

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 敬愛する市川崑作品なら、純文学ものと横溝文学の金田一シリーズがすきです。おどろおどろしくて陰鬱、いま作ろうと思ってもきっとできない一時代の魅力があります。
1970年代に立て続けに5本作られたシリーズの最後となった本編が、はじめの頃より多分に締りのない出来となっているのは.....監督もいよいよ飽きていたのでしょうか。


(あらすじ) 隆盛を極めた大病院は、むかし薄幸の女が縊死した屋敷跡にあった。天井にぶら下る男の生首....二十年を経て金田一耕助が、迷宮入りした事件と新たな連続殺人事件を執念で解明していく。

大病院と、そのお抱えの写真館に隠された、とある残酷な過去。時を経て、新たな復讐の幕が開くのですが.....
なんとなく全体が締まらず、いままでのようには楽しめない。登場人物たちの関係が入り込みすぎて、原作を知らないと混乱してしまうのではないでしょうか。
『犬神家の一族』や『獄門島』にあったあの清々しさは残されておらず、美しすぎる佐久間良子の物悲しい半生と死をもってしても、シリーズ最後を飾るにはさみしいかんじ。

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ちなみに、写真館の助手役を演じる、若き日の草刈正雄が好男子で存在感抜群。
石坂浩二の爽やかな三枚目ぶりに負けず劣らず、事件解決にも一役買っている名脇役なのでした。

のちに、豊川悦司を金田一に据えて『八つ墓村』(1996年)と、監督自身のリメイクで『犬神家の一族』(2006年)が作られましたが、全盛期70年代にはとうてい適わなかったのもさみしかったなあ、そういえば。
by haru733 | 2013-07-14 22:05 | 日本映画 | Comments(0)

飢餓海峡 (1965年) 飢餓感に蝕まれた時代を巡る運命劇

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 せんじつまで札幌のミニシアター“蠍座”では、三國連太郎追悼企画として『飢餓海峡』がリバイバル上映されていました。気になりつつも終わってしまい、しかたなく今回はDVDで。
物心ついた時から三國さんは『釣りバカ日誌』のスーさんで、役者としての凄みを感じさせる立派な主演作を見ておきたかったのでした。

水上勉の同名推理小説を内田吐夢が監督した、サスペンスタッチの壮大な人間ドラマ。
昭和22年、函館地方を襲った台風で青函連絡船が転覆、折しも岩内町では大火が発生する。火災は質屋の店主を殺害し現金を奪った犯人による放火と判明。そして転覆した連絡船からは二人の身元不明死体が見つかり、質屋に押し入った三人組強盗のうちの二人であることが分かるのだった。函館警察の弓坂刑事(伴淳三郎)は、事件の夜に姿を消した第三の男、犬飼多吉(三國)を追って下北半島へ赴くのだが....。
物語は、迷宮入りした放火殺人事件から10年。樽見京一郎と名を変え、舞鶴で名士として成功している犬飼の元に、あの事件の日親切にされた下北の娼婦・八重(左幸子)が訪ねてきて劇的な変化の様相をみせていく―。
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砂の器』と並び称されるだけあって、鑑賞後の印象は似ています。年代特有の古さがある殺人事件を追う刑事ものは火曜サスペンス劇場のゴージャス版のよう。日本映画を代表する傑作にむかってとても失礼だけれど。
黒澤明監督の『天国と地獄』を新鮮な驚きを持って観たことをおもうと、3時間を長くかんじた本作は過大に期待し過ぎてしまったのかもしれません。

10年前の逃亡のさなか、しとねを共にしたあと犬飼は、親切な八重に盗んだ金から大金を包み去ってゆくのでした。その金で借金を返して都会へ出て親孝行まで果たした八重は、たった一夜の情交で得た恩を忘れられず、犬飼の残していった親指の爪を大切にしまい込んで心の支えにしてきたのです。
そんな彼女が、ふと手にした新聞。そこに犬飼の顔を見つけた衝撃は大きく、居てもたってもおられずに名前こそ違えど写真の男・樽見京一郎を訪ねていったところで、第二・第三の悲劇は起こるのです。

廉潔とはいえないまでも懸命に生きてきた八重の無念の短い人生。事件に翻弄されながらも父親として立派に息子たちを育てあげた弓坂刑事の人生。そして、敗戦後のどん底からのし上がろうと強かに生きる犬飼の人生が絡まりあう。10年間の物語は、中だるみはあるけれど、構成は緻密。なかなか見ごたえがありました。
やがて追い詰められた犬飼の見事なラストシーンは圧巻、日本映画史に残る名デッド・シーンではないでしょうか。

 (183min)
by haru733 | 2013-06-21 00:00 | 日本映画 | Comments(0)

私が、生きる肌 (2011年) これを愛と呼べるか

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 『オール・アバウト・マイ・マザー』以前の変態ペドロ・アルモドバルが戻ってきた―という称賛の声が記憶に新しい。これはほんとにおもしろかったです。

人工皮膚研究の権威で亡き妻そっくりの美女を自宅に監禁する男を巡る衝撃の秘密を、予測不能のストーリー展開と斬新かつ色彩美溢れるヴィジュアルでミステリアスに描き出していく。

回想シーンを挿入して描かれる周到なミステリーに、素直に驚きたい、けしてネタバレしてはいけないタイプの作品だけれど、あえていうならば『クライング・ゲーム』以来の驚きでした。
説明を排除したオープニングから、徐々に、屋敷に監禁されている美女とロベル医師の倒錯した愛の関係が明らかにされていく。
おぞましくてとびきり抉い悲しい真実、想像だにしなかった涙のクライマックス。変態度数もさることながら、脚本の妙にはうならされる異色の怪作。
このまま『オール・アバウト―』以前の変態コースへ迷い込む予定。

(120min)
by haru733 | 2013-04-30 00:00 | スペイン映画 | Comments(0)


映画,読書,山,古物をめぐる―日々のきろく


by haru733

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